軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200 謎の誘拐団 8

『女神のしもべ』も、先程の見張り員達にポーリンとマイルが掛けた治癒魔法は見ていた。しかしそれは、「死なないように、というレベル」のものであり、止血や内臓機能の修復程度のものに過ぎず、そして内臓や血管の修復は素人が外部を見ただけで判るようなものではない。そして彼らが無茶をしないようにと、外部の傷口は、あえてそのまま残してあったのだ。

なので、『女神のしもべ』の面々は、ポーリンとマイルのことをかなりの治癒魔法の使い手だと驚きはしたが、そこまで凄いとは思っていなかったのである。

お願い、やめて、内緒にして、と涙目のテリュシアと、別の意味で涙目の『女神のしもべ』の他の4人。

そしてその中のひとり、魔術師のラセリナが、仲間を傷付けられた怒りと、肩すかしを喰らったこのやり場のない感情に対するもやもやを込めて、敵の本隊、「魔法陣のようにぐるぐる」の連中に向けて攻撃魔法を放った。

「ファイアー・レイン!」

貫通力は皆無に等しいが、広範囲に炎の雨を浴びせかける魔法である。大人数相手で、とりあえず 牽制(ジャブ) を放つには、悪くない選択であった。魔力も少なくて済むし、衣服に燃える液体が付着したのでは、魔法詠唱どころではなくなる。

しかし。

しゅん!

「え?」

消えた。

弾かれたのではなく、燃える無数の水滴が、敵に到達する前に蒸発するように消え去った。

「……ファイアー・ボール!」

次に、ポーリンが、試すように火魔法を放った。単発で、やや強めに魔力を込めた初級魔法である。

ぼしゅん!

「「「え……」」」

愕然とする、マイル以外の魔術師組。

続いて、タシアが回収してきた弓で、フィリーが槍で攻撃するも、共に弾かれた。

魔法、実体攻撃共に通じず、攻撃されたことに気付きさえしないかのように、平然と儀式らしきものを続ける、円陣内の魔術師達。

「ふはは、無駄だ!」

戸惑うみんなに、腕とあばらの骨を折られて座り込んでいる剣士の男から声が掛けられた。

前衛組は、武器が握れて突っ込んで来られるのでない限りはほぼ無力であるため、意識を失っていない者がいるのは承知の上で、放置してあったのである。

自分の武器を投げつけてくる可能性はあまりないが、一応、注意を払ってはいた。マイルが武器を収納するのは、情報秘匿の点から却下である。

「儀式がある程度進むと、円陣内の魔力が高まり、魔法も通常の攻撃も通さなくなる。あとは、儀式が完了して『アレ』が呼び出され、生け贄と引き替えに我らの願いを叶えてくれるのだ。ふは、ふはははははは!」

そして、それを聞いたマイルが、ぽつりと呟いた。

「魔導円陣内、圧力上昇ぅ……」

まだ表情が固いけれど、どうやら調子が戻ってきたようである。

本隊の連中が戦いに手出ししなかったのは、あれだけの前衛と魔術師を振り当てて、まさか小娘数人に負けるとは思ってもいなかったというのが第一であろうが、少し時間を稼げれば、そんなことはどうでもよくなる、というのもあったようである。なので、あえて追加の増援は出さずに、儀式に集中したのであろう。

戦力を逐次投入して、戦いの方も儀式の方も両方が中途半端になる、というのが、最も避けたかったことなのであろう。

「……燃えよ、岩が溶け、蒸気となりし熱さより、更に熱く、更に激しく……」

レーナが詠唱を開始した。いつもの早口での詠唱ではなく、ゆっくりと、力を込めた声で。

「無駄だと言うに! いくら多少腕に覚えがあろうとも、小娘如きの攻撃魔法で破れるような結界ではないわ!」

敵の剣士の揶揄の言葉を無視して紡がれる、マイル達が聞いたことのない、レーナの呪文。

岩が溶け、そして蒸気となる「岩石蒸気」。その温度がどれほどのものなのかは、唱えているレーナ本人ですら、実際には理解していないに違いない。ただ、途轍もない熱さ、としか……。

そして、発動ワードが唱えられた。

「灼熱の 息吹(いぶき) !」

そして前方へと噴出する、直径数ミリ程の、細く、高温の噴流。

レーナが放った、収束された高温の噴流は、魔力による結界に穴を 穿(うが) ち、貫いた。

そして、ぱたりと倒れる、円陣内のひとりの魔術師。

レーナの眼もまた、ただならぬ光を放っていた。マイルのような。そして、あの、『盗賊殺し、赤のレーナ』が誕生した時のような……。

「え……」

鼻で嗤っていた剣士も、そして円陣内の魔術師達も、動揺の色が隠せない。

しかし魔術師達は、動揺しながらも、何事もなかったかのように儀式を続けていた。ここで儀式を中断すると全てが台無しになる上、そうなると結界も消滅し、見張り員や護衛達、そして6人の魔術師達を相手に戦っていながら未だに無傷という、常識を外れた連中と対峙しなければならないのである。他に選択肢はなかった。

レーナに続き、メーヴィスが結界のすぐ側へと歩み寄った。

そして、おもむろに突き出された剣。

ぐさり

何の抵抗もなく結界内に差し込まれた剣。

そしてまた、ひとりの魔術師が倒れた。

てくてくてくてく

結界に歩み寄ったマイルが、結界ぎりぎりの場所で立ち止まり、右腕を突き出した。

ずぶり

そして、近くにいた魔術師の襟首を掴み、結界から引き摺り出した。

「「「「「えええええええええっっ!!」」」」」

マイルに引き摺り出された魔術師が『女神のしもべ』のみんなにボコボコにされるのを見て、メーヴィスの剣のことは汗をだらだらと流しながらもかろうじてスルーしていた魔術師達も、我慢できずに叫び声を上げた。

「い、急げえぇ! 第5段階は省略、直ちに最終詠唱に移行する! 詠唱準備、5、4、3、2、1、今!」

結界を紙のように破るマイル達に、絶対に安全な状況での儀式遂行を信じていた魔術師達は混乱していたが、それでもまだ諦めている様子はなかった。そして、時間の勝負に出たようである。

ファリルちゃんには、本気で掛けた、全力のバリアが張ってある。たとえ古竜が出てきても大丈夫なはずであり、マイルはそう心配しているわけではなかった。何せ、「この世界での最強生物は古竜、もしくはそれと同程度」なのは、自分の力が古竜の半分、というナノマシンからの情報から、間違いないだろう。そして、ナノマシンにかなりの融通が利く自分であれば、問題はない。

なので、魔術師達の儀式を潰しても、また、儀式によって召喚されたものを彼らの目の前で潰しても、どちらでも構わなかった。心をへし折り、充分な報いを受けさせられれば、それでよかったのである。

そのため、そう急いではいなかったマイルであるが、その耳に焦ったような声が響いた。

『マイル様、阻止して下さい! あれはまずいです!

私達は、魔法の行使には善悪の概念等は関係なく、禁則事項に触れるもの以外は全てを実行するようプログラムされております。なので、造物主様が想定されていなかったこの事態においては、禁則事項に抵触しないため、仲間達は彼らの魔法も遂行せざるを得ないのです。

しかし、これはまずい状況です。直ちに彼らの魔法行使を中止させないと、大変なことに!』

ナノマシンからの、マイルが初めて聞く、必死の叫び。

どうやら、最終詠唱というか、彼らの目的は、ちょっと洒落にならないことのようであった。

そう、あのナノマシンを慌てさせる程度には……。