軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

195 謎の誘拐団 3

「……で、マイルちゃんは何をやってるのよ?」

ここから先はハンターの仕事、素人は足手まといだと言い含め、付いていくと言い張る大将をダフレル父娘と共に宿に帰らせた後、一応、簡単に自己紹介を済ませた。マイルについて歩きながら。

以前ギルドで顔合わせはしているが、あの時は『女神のしもべ』が言いたいことを言うだけ言って立ち去ったため、互いの紹介はしていなかったのである。

そしてその後、マイルが地面を見ながら迷う素振りもなく歩いて行く様子を見て、当然の質問をする『女神のしもべ』のリーダー、最年長の19歳で剣士のテリュシア。

「……臭いを 辿(たど) ってるのよ」

「「「「「に、臭いぃ?」」」」」

レーナの説明に、声を揃えて叫ぶ『女神のしもべ』の面々。

「犬ですかっ!」

「マイルちゃんも獣人とのハーフなの?」

「ごめん、さっきおならを……」

「うるさいですよっ!」

「あ、切れた……」

気が立っているマイルは、怒りっぽくなっていた。

無理もない。傷付けないように捕らえられたことと経過時間から考えて、まだファリルちゃんに危害が加えられているとは思えないが、時間の遅れはそれだけファリルちゃんの危険が大きくなることを意味している。焦って失敗することは許されないので、慌てず、必要な処置は漏らさず行っているが、余計なことで気を散らされたり時間を無駄にすることは許されない。

マイルは身体能力を強化した上で嗅覚を視覚化しているが、だからといって嗅覚が失われているわけではない。『嗅覚と視覚を入れ替えた』というわけではないのだから。視覚が嗅覚に変換されたら、行動不能になってしまう。

なので、視覚も嗅覚もそのままであり、分岐した嗅覚情報を視覚化して通常の視界にプラスしているのである。そして「臭いに対する視覚」と強化された嗅覚の両方で、ファリルちゃんの臭跡を正確に見分けて追跡するマイル。

「ここで臭いが薄くなっています。ここまでは背負うか抱えてきて、ここから馬車か何かに乗せたと思われます」

少し道幅の広い道に出たところで、マイルが立ち止まってそう皆に報告した。

「え、じゃあ……」

マイルの報告に、追跡ができなくなったのかと心配の声を上げるレーナであったが、マイルが即座にそれを否定した。

「いえ、大丈夫です。ただ……」

「ただ?」

「ここからは、少し飛ばします!」

そう言って小走りになったマイルを必死で追うレーナ達と『女神のしもべ』。そう、マイルの「小走り」は、結構速いのである。

「箱型の馬車ではなく、荷馬車のようですね。臭いがたっぷりと跡を引いていますから」

地球の乗用車とかに乗られると臭いの漏れが少なくて厳しいかも知れないが、荷台の後ろが開いた荷馬車ならば問題ない。

それに、荷馬車はあまり飛ばすようにはできていない。全速で走らせるのは、車輪や車軸、そして車体が壊れることを 厭(いと) わずにぶっ飛ばす時、すなわち盗賊や魔物に追われて必死に逃げている時くらいである。

また、荷馬車がそんなに飛ばしていては明らかに不審であり、目立ちまくる。誘拐犯がそんな行動を取るとも思えないし、そもそも走り通しだと馬がすぐに疲労する。なので、この速度で走れば、荷馬車より速いはずであった。

「ん? 臭いが弱くなった?」

マイルが怪訝そうにそう言ったが、前方を見てその理由がすぐに分かった。

「街門……」

そう、王都から出るために門を通過する必要があり、そのためにおそらくファリルちゃんを箱か樽にでも入れて隠したのであろう。

しかし、門を出てからしばらくは、馬車が通れる道は一本道である。それに、ファリルちゃんの臭いは薄れても、誘拐犯や馬車自体、そして馬車馬の臭いがあるから見失うようなことはない。ファリルちゃんが馬車から降ろされない限りは。なので、このまま追跡続行!

「よし、予想通り!」

街門を通過してしばらく経つと、再びファリルちゃんの臭いが強くなった。

狭い箱か樽に押し込んだままで万一のことがあってはと、街門から充分離れたと判断した段階でファリルちゃんを箱か樽から出したのだろう。

他の者達には何が予想通りなのか全然分からなかったが、予想通りならば悪い話ではないのだろうと思い、余計な口を挟むことなく走り続けた。

「ここです!」

しばらく街道を進み、森を迂回するために道が曲がった部分でマイルが停止した。あたりはもう暗くなり始めている。 衛星(つき) は出ているが、森の中にはいれば、その光も届くまい。

「ここで馬車から降りて、ファリルちゃんと3人の人間が森の中へ、そして馬車はそのまま街道を進んでいます。万一に備えて馬車はこのまま王都から離れるつもりなんでしょうね、目撃された可能性も追跡される可能性もあるわけですから」

そう、事実、マイル達がこうして追跡しているのであるから。

「でも、馬車は今はもう関係ありません。後日、捕らえた一味を締め上げて捕まえれば済むことです。今は、ファリルちゃんを!」

マイルの言葉に、無言でこくりと頷く8人の少女達。

「これからは、いつ会敵するか分かりません。そのつもりで!」

再び頷く少女達。

「行きます!」

ただマイルの後についていくだけであった今までと違い、これからは、いつ敵に出会うか分からない。全周に注意を払いながら、静かに、かつ素早く移動するマイル達。

「こんなに王都に近い森に本格的な隠れ家があるとは思えないわ。ここはそんなに深い森ではないし、D~Eランクのハンターがしょっちゅう狩りや採取に来ますからね。一時的な中継地点に過ぎないか、あるいは……」

「あるいは?」

『女神のしもべ』のリーダーであるテリュシアの言葉に、ポーリンが聞き返した。

「ここを犯行現場に選んだか、ですわね」

「「「「「「…………」」」」」」

犯行現場。その言葉が意味することを考えて、皆の表情が 強張(こわば) った。

そして皆が無言のまましばらく進むと、フクロウか何かの鳴き声が聞こえた。

ホゥホゥ ホーホー ホーホー ホオッ

「……発見されました」

落ち着いた声でそう言ったマイルに、頷く『女神のしもべ』の5人と、きょとんとした顔の『赤き誓い』の3人。

「どうして分かるのよ?」

3人の思いを代表してそう尋ねたレーナに、マイルが感情のない声で答えた。

「今まであんな声で鳴く鳥はいなかったのに、私達が近付くと至近距離で鳴く。それも、一定の鳴き声ではなく、何やら節を付けて。ま、見張りが夜行性の鳥の鳴き真似で連絡したんでしょうね。

私が鳥の鳴き真似で見張り員の符丁を決めるとすると、接近者の人数を知らせるために1から4、そして5と10を表す音符を決めますね。たとえば、ホゥホゥが5、ホーひとつが1、とか。そして最後に、脅威度を表す音を。兵士なら、ホホホホ、ゴツいベテランハンターならホホ、取るに足らない女子供であればホオッ、とかですかね」

ぽかんとするレーナ、メーヴィス、そしてポーリン。

それに対して、『女神のしもべ』の5人は、マイルの言葉を当然のことのような顔で聞き流していた。

「ど、どうしたのよ、熱でもあるの?」

いつもであれば、うがぁ、とか叫ぶのであるが、マイルはレーナのその言葉を完全にスルーした。

「……来ます、4人が4組、16人!」

今回は、人の命、それもファリルちゃんの命が懸かっているのだ、禁則事項である「ナノマシンに相手の情報を聞く」のではなく、「探索魔法による走査」の有効範囲に入ったなら、遠慮なく魔法を使うマイルであった。

マイルの声に、移動隊形からすぐに戦闘隊形へと変わる『赤き誓い』と『女神のしもべ』。

急造の合同パーティで、一緒に隊形を組んだりはしない。互いの力量も知らないのでは、まともに連携など取れるわけがない。なので、それぞれのパーティで組んだ隊形で並ぶ形を取る。

『赤き誓い』が、前衛がメーヴィスとマイル、後衛がレーナとポーリン。『女神のしもべ』は、前衛が槍士のフィリーを真ん中にしてその左右を剣士のテリュシアとウィリーヌが固め、中衛が弓士兼短剣使いのタシア、そして後衛が14歳とパーティ最年少、万能型と言えば聞こえはいいが、器用貧乏、という方が近い、魔術師のラセリナである。

タシアは弓で戦うが、前衛が抜かれたり、左右や後方から伏兵が現れた時には弓を捨てて短剣で自らと魔術師であるラセリナ、そして前衛の3人の背中を護る。その際、捨てた弓が戦いのどさくさで踏み潰されては大損害なので、一瞬の内に「軽く投げて届く位置で、戦いで壊されない場所」を判断しなければならない。しかも、得物は剣士のふたりより短い、短剣である。最悪のポジションであった。不憫な……。

「メーヴィスさん、気を練って、眼に気の力を送り込んで『暗闇でも見えるように、視力よ強くなれ!』と念じてみて下さい」

「え? あ、ああ、分かった」

マイルに言われた通りに、素直に気を練るメーヴィス。

「お? おおお? 何だか視界が明るく……」

気の力、万能説。もう、何でもありであった。

そして、それを 胡乱(うろん) げな眼で見ている、レーナとポーリン。

「「…………」」

とにかく、迎撃の準備はできた!