軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188 マ抜け 1

「さて、5日間の休暇でマイルが何やら怪しげな単独行動に出たわけだけど……」

そう言って、メーヴィスとポーリンを見やるレーナ。

「あんた達は、この5日間で特にやりたいこともないんでしょ?」

レーナのその言葉に、こくりと頷くメーヴィスとポーリン。

メーヴィスとポーリンの母国であるティルス王国に里帰りするには、5日間は短過ぎる。なので、元々実家への里帰り等を考えていたわけではなく、そして初めて訪れたこの国で、単独行動をすべき用事もない。

実は、今回は各自自由行動の休暇、ということにしたが、その実、4人で遊びに出るつもりであったレーナは、マイルが「ちょっとやりたいことがあるので、王都を離れますね」と言った時、驚いたのである。しかし、今更発言を取り消すこともできず、また、珍しくマイルが「やりたいことがある」と言うのであるからそれを尊重してやりたくて、そのままにしたのであった。

どうせ、いつも4人一緒なのだ。遊びには、また今度行けば良い。

「それでね、この5日間を使って、ちょっとやってみたいことがあるのよ」

「え、マイルちゃん抜きでですか?」

ポーリンの疑問も 尤(もっと) もであった。『赤き誓い』は、4人揃ってこそのパーティである。そしてその中心は、マイルであった。

確かにリーダーはメーヴィスであり、いつも主導権を握るのはレーナであるが、何というか、『赤き誓い』はマイルが居てこそのパーティである、という思いが、皆の心の底にあったのである。その実力もさることながら、マスコットというか、求心力の中心核というか……。

「そうよ。どうも私達はあの子に頼り過ぎみたいだからね、たまには私達だけでやってみて、『マイル抜き』での感覚を掴んでおかないと、将来のためにならないと思うのよね……」

そう、今は楽しい日々を過ごしていても、いつ、何があるか分からない。仕事中に死ぬ可能性は勿論、病気や、その他色々な事情でメンバーが抜けることなど、ハンターにとっては日常茶飯事なのである。そして特に、『赤き誓い』には色々と事情持ちが多い。

天涯蠱毒、いや、天涯孤独のレーナはともかく、母親と弟が頑張っている実家の商会が気になるであろうポーリンに、あの父親や兄達を抱えるメーヴィス。ふたりには、それぞれ自分で商会を立ち上げる夢、騎士になるという夢があるし、そのうち結婚という話も出るだろう。……いや、結婚ならば、レーナにもその可能性はある。そう、皆、一生ハンターを続けるというメンバーではないのである。

そして、問題のマイル。

現在は領地を放置しているが、一応は領地持ちの貴族家当主である。本人は爵位にも領地にも興味が無さそうではあるが、マイルはまだ幼い。そのうち、御先祖様、そして祖父や母が引き継ぎ守ってきた家名と領地、そして領民達への責任、というものへの自覚が生まれる可能性がある。それに、王族がマイルに固執しているらしいし……。

つまり、いつかは『赤き誓い』も解散、もしくはメンバーの入れ替えが行われる。そのためには、あまりにも特定個人に頼ったスタイルが染み付くのは良くない。このメンバーの中で一番長くハンター生活が続きそうな気がするレーナは、そう考えたのであった。

「確かにそうだね。私は賛成だ。ポーリンはどうかな?」

「私も賛成です。ちょっと、マイルちゃんに頼り過ぎですよね、私達……」

斯(か) くして、3人による活動が決定されたのであった。

そして、森の中。

「……獲物がいないわねぇ。マイル、ちょっと索敵ま、……あ」

むすっと黙り込み、歩き続けるレーナ。

「お腹が空いてきました……」

「じゃ、そろそろ食事にしようか。マイル、食材を、……あ」

「「あ……」」

誰も、食材を持ってきていなかった。

常にマイルの収納に新鮮な肉や野菜、パンや果物がたっぷりとはいっているので、どこに出掛ける時でも、誰も食べ物の準備とかを気にしたこともなかったのである。考えてみれば、食器や調理器具も持ってきていなかった。勿論、野営具も……。

いや、元々日帰りの予定ではあった。しかし、万一に備えた最低限の装備は用意しておくべきであった。森では何が起こるか分からないのだから。

「「「…………」」」

ヤバい。

皆、そう思った。

あまりにも、便利な生活に慣れ過ぎていた。

油断。甘え。危険察知能力の低下。そして堕落。

それは、ハンターを殺す、魔物以上の大敵であった。

そして2時間後、ようやく獲った角ウサギと木の実、白湯の昼食を摂る3人。

堅パンと干し肉でも持ってくれば、たかが1回の食事のためにこんなに時間を無駄にすることもなかった。そしてマイルがいれば、収納から出した調理済みの食事が……。

そう考えて、ぶるぶると頭を振るレーナ。

(駄目だ! 昔は、『赤き稲妻』のみんなが死んだ後、ひとりでやっていた時は、ちゃんとやれていた! こんなの、こんな軟弱なの、『赤のレーナ』じゃない!)

レーナは自分の堕落具合に愕然としていたが、メーヴィスとポーリンは、それ程深刻そうではなかった。ふたりは『赤き誓い』での活動が初めてのハンター生活であるため、便利人間マイルに毒されている、と思いはしても、レーナのような危機感はないのであった。他に比較すべき経験がないため、今現在を基準に考えているのであろう。

(まずい! まずいまずいまずいまずいまずい!!)

レーナは、自分はともかく、メーヴィスとポーリンの認識に危惧を抱いた。このままでは、ふたりはマイル付きの『赤き誓い』以外ではやっていけなくなる。事は、思ったより深刻であった。

「……いた! 単独行動のオーク、やや小型!」

「楽勝ね。余裕だから、商品価値を下げないように狩るわよ」

いつものように、一番早く獲物を発見したメーヴィス。

マイルがいなくとも、オークなど『赤き誓い』にとっては雑魚である。レーナは、練習として『いかに商品価値を下げずに狩るか』というお題を付けることにした。

そして、小声で呪文を唱えるレーナとポーリン。

「アイス・ジャベリン!」

「めがみ……えなくなる霧!」

突然周囲に突き立てられた氷の槍に驚き、立ち止まったオーク。

そのオークの顔の付近を赤い霧が漂い、とたんに眼を 擦(こす) り始めるオーク。

言い出しの部分が女神系、つまり癒し系統の魔法のような振りをしながら、その実、攻撃魔法。さすがポーリン、新開発の魔法は、やはり汚かった。

そして、その隙に木陰から飛び出し、一瞬の内にオークの頭部を切断するメーヴィス。

真・神速剣は使っていない。必殺技は、必要のない時にまで乱用すべきものではない。

しかしそれでも、棒立ちで眼を擦るオークなど、メーヴィスの敵ではなかった。一撃で、綺麗に斬り落とされたオークの頭部。それは、メーヴィスの腕と『マイル謹製、謎の剣』があって初めて可能となるものであり、そう誰にでも簡単にできるものではない。オークの首は太く、骨も硬いのであるから。

「いい感じね。高く売れる部分には傷ひとつないし、草木も荒らさず、完璧よ。じゃ、マイル、収納に……」

「「「あ……」」」

少女3人、うちふたりは非力な魔術師。

小型のオーク、推定重量300キロ弱。

そして、収納魔法の使い手はいなかった。

「ち、ちょっと休んでいいですか……」

「さっき休んだばかりでしょうが!」

「だ、だが、無理をするより、ちゃんと休んだ方が効率がいいんじゃないかな?」

疲れて泣きがはいるポーリン、それを叱咤するレーナに、フォローするメーヴィス。

そう、オークを丸ごと運ぶことは断念し、討伐証明部位である耳と、一番高く売れそうな部位だけを切り取り、運べるだけ運ぼうとしたのである。

頭部や手首、足首、骨、そして食用には向かない部分の内臓等を除いても、200キロくらいはあった。運べるのは、頑張ってもその半分以下。良い部分の肉と、 肝(きも) と心臓、それと舌。3人で分担し、レーナとポーリンはメーヴィスよりかなり少な目の量を受け持った。人間、得手不得手というものがあり、メーヴィスもそれには文句はなかった。

「これを運び終えたら、戻って残りも運ぶのかい?」

「「…………」」

メーヴィスの言葉に、沈黙をもって答えるレーナとポーリン。

「いや、聞いてみただけだから! そんなに死にそうな顔をしなくても……。

それに、戻っても、多分とっくに小動物や魔物に喰われちゃってるから!」

メーヴィスが慌ててフォローしても、レーナとポーリンの死んだような眼は変わらなかった。