軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182 リートリア 2

「な、ななな、何を言って……」

「え、ハンターである皆さんとお友達になって、一緒に行動するのなら、私も勿論ハンター資格を取って御一緒しなければ……」

男爵様に、そう軽く返すリートリア。

「「「「いやいやいやいやいやいやいやいや、無い、無いですわ~!!」」」」

そう言いながら、首と右手を横に振る、『赤き誓い』の4人。

「前にお話ししましたよね、ハンター稼業は危険で、私達も死にかけたことがあります、って。とても貴族のお嬢様に務まるような仕事では……」

「そ、そうですよ! こんな危険で大変な仕事、とてもリートリア様には……」

そう言って、苦笑しながら諫めるメーヴィスとマイルに、リートリアが反論した。

「え? メーヴィスさんとマイルさんも、貴族ですよね?」

「「うっ!」」

そういえば、男爵様に信用して貰うため、はっきりと断言はしなかったものの、メーヴィスとマイルは明らかに貴族だと判断されるような言動をしていたのであった。それも、没落した元貴族、とかではなく、バリバリの現役貴族、ということを隠しもせずに……。

リートリアの診断結果や対処法を疑わずに受け入れて貰うためには、ちゃんとした身分と、高度な教育を受けて豊富な知識を持つ者、と思って貰う必要があったため、それは仕方ないことであったのだが、まさかそれがここで裏目に出るとは……。

「ハンターは、充分な戦闘力と、自分を守れる力を持ち、そして仲間に迷惑を掛けずに自分のことは自分でできないと駄目なのよ。重い荷物を背負って森の中や険しい山を踏破したり、敵と戦ったり……。

メーヴィスのように剣技に秀でていたり、私達のように魔法の腕に覚えがあるとか、それなりの特技がないと、とても務まらないわよ」

そう言って、あきらめるよう説得するレーナであったが。

「え、私、魔法は得意ですよ? 身体が弱くておうちから出なかったからあまり知られていませんけど、火魔法も水魔法も、攻撃魔法が使えますけど?」

「な、何ですってえぇ!」

そんな貴族の美少女など、滅多にいない。そう、マイルが知る限りでは、マイルが『養殖』というか、『パワーレベリング』というか、とにかく、マイルが手出しして育てた、あの『ワンダースリー』のマルセラだけである。

それは、国中探せば、攻撃魔法が使える貴族の少女の数人くらいは見つかるであろう。しかし、それが美少女で、まだ恋人も婚約者もいなくて、そして自分に手の届く者、となると、そうそう見つかるものではない。もしリートリアの存在とその才能、そして病気や身体の弱さが完治したということが知れ渡れば、求婚者が殺到すること、間違いない。

しかも、兄や姉がいて嫁に出すことに何の問題もなく、男爵家の娘なので、子爵家や伯爵家の跡取りからの縁談ならば飛びつくだろう、と思われるだろう。14歳ならば、とりあえず婚約を、という話になるであろうが……。

「そして数日前から身体の調子が良くなりまして、今ならば酒樽を抱えて隣町まで往復できそうな気がしますわ……」

「ええええええぇ!」

レーナ、絶句。

「だ、男爵様、リートリア様の魔法の才能と、病気の完治のことが他家の貴族達に広まったら……」

「あ……」

そしてマイルの言葉に、瞬時に全てを悟った男爵様が青ざめた。

「だ、駄目だ! リートリアは、どこにも嫁にはやらん!」

「いえ、お父さま、私がなりたいのはお嫁さんではなく、ハンターなのですが……」

もう、ぐだぐだであった。

「……というわけで、私達は全員がCランクハンターなので、リートリア様が新米ハンターであるFランクになられましても、ランクが合わず、パーティにはいることは……」

「ううっ、そうなのですか……」

大嘘である。

5人中4人がCランクであれば、残りのひとりがFランクであっても、パーティランクはCのまま維持できる。それ以前に、攻撃魔法が使えるならば、おそらくDランクからスタートすることになるであろう。

さすがに、いくら攻撃魔法が使えても、ド素人をいきなりCランクにすることはないであろうが。収納魔法が使えでもしない限り……。

マイルの嘘を、男爵や執事は知っていたかも知れないが、勿論ふたりともそれを口にするようなことはない。絶対に。

斯(か) くして、リートリアの野望は未然に阻止されたのであった。

「指名依頼完遂、A評価……」

メーヴィスから受け取った証明書をじっくりと眺めた後、胡乱な目で『赤き誓い』の面々を睨めつける、受付のフェリシア。

(他の窓口にすればよかった……)

そう後悔するメーヴィスであるが、実は他の窓口に並ぼうとしたメーヴィスを、フェリシアが、ちょいちょい、と手招きして呼び寄せたのである。どうやら、『赤き誓い』は自分の担当、と勝手に決めつけているらしく、戦闘においてはいざ知らず、こういう場面では強く出られないメーヴィスには逃げようがなかったのである。

「多くの医者に見放され、謎の病に伏せっていた貴族の御令嬢を、ほんの数日で完治させた、ねぇ……」

じろり

「まぁ、聞いちゃ、ルール違反か……」

フェリシアは、そう言って、素直に手続きをしてくれた。

「はい!」

そう言って、どん、とカウンターに置かれた皮袋。

あまりたくさんの硬貨をじゃらじゃらと渡されても困るし、他のハンター達の目があるところで大金を受け取るのを見られるのも良くないため、ある程度以上の支払いは皮袋に入れて渡される。ハンターの中には、タチの悪い者、お金に困っている者等もいるので、それくらいの配慮は当然である。

しかし、金額は隠されていても、皮袋に入れて渡す、ということ自体が、ある金額以上であるということを証明しているため、あまり意味がない。そしてここのハンター達は、皮袋が使われるのが金貨30枚以上の場合であることも知っている。おまけに、金貨の枚数によって皮袋のサイズが変わるものだから、見ている者にとっては概略の枚数が判るのであった。

もう、ただ単に、あまり剥き出しの金貨をじゃらじゃらさせると余計な刺激を与えるから、それを避けるため、くらいの意味しかなかった。まぁ、ギルド側はそれで充分だと考えているのだろう。

ただ、フェリシアは、時々フェイントをかける。

そう、小金貨数枚の支払いにおいて、全額を銀貨にして、皮袋で渡すのである。

皮袋も、 無料(タダ) ではないのである。購入には、経費がかかっている。それを無駄遣いする行為であるが、なぜかギルドマスターや他のギルド職員にそれを 咎(とが) められることはない。

……なぜか?

それは勿論、『フェリシアだから』である。

このギルドにおいて、フェリシアに逆らえる者は存在しないのであった。

そして、皮袋にはいった大量の銀貨を渡されるハンター側も、その見た目の景気の良さが嬉しくて、文句を言う者はいない。それどころか、「運が付く」として、大喜びであった。

メーヴィスは、いったんは皮袋の中を覗き込んで枚数を確認しようとしたが、それを途中でやめて、そのままマイルに手渡した。……男爵から依頼の金額を聞いていなかったため、枚数を確認しても意味がない、と気付いたからである。

今、フェリシアにそれを聞く事はできなかった。そんなことをすれば、依頼料も決めずに依頼を受けた、ということがみんなに知れ渡ってしまう。メーヴィスは、なぜか、それは非常にまずいことであるような気がしたのである。

そしてマイルは、受け取った皮袋を、他のハンター達に見えるようにして、アイテムボックスに収納した。勿論、皆には普通の収納魔法だと思われている。

これにより、スリは不可能、金貨を奪うには『赤き誓い』との武力対決しかないぞ、と知らしめたわけである。

そんなつもりなど全くないハンター達は何とも思わなかったが、皮袋の中身を確認もせずにしまい込んだマイルとメーヴィスを見て、フェリシアは僅かに片眉を上げた。

(金貨の枚数など気にしない、か。それとも、ギルドをそこまで信用している?

ふ、面白い奴ら……)

背を向けて歩き去る『赤き誓い』を眺めながら、フェリシアは僅かに口の端を吊り上げた。

(((((うわああああぁ!)))))

とんでもないものを見た。

フェリシアの邪悪そうな嗤いを見たハンター達は、恐れおののいた。

ごく一部の、それはフェリシアの機嫌が良い時の笑い顔であると判別できるベテランハンター達を除いて……。