軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172 オーラ家 4

「皆様を是非、オーラ家王都邸に御招待致したく……」

お金を貸してくれた人達に2倍にして返し、パーティーに招待するために連絡先を控えた後、オーラ男爵家の執事バンダインは、そう言って『赤き誓い』を招いてくれた。

「いいわよ、そんなの……。私、貴族様とかは苦手だし」

「「「え……」」」

レーナの言葉に、驚きの声を漏らす3人。そしてそれを聞いて、あ、という顔をするレーナ。

考えてみれば、『赤き誓い』には、男爵家より格上である子爵家と伯爵家の者がいるのであった。しかも、子爵家の方は、子女どころか、子爵様本人である。

「そういえば、そうだったわね……」

貴族率、50パーセント。

そのようなハンターパーティなど、そうそうあるものではない。

「是非、お招きに 与(あずか) りましょう!」

「「「え?」」」

貴族とのコネを欲しがるとも思えないマイルの、珍しく強い調子での提案に一瞬驚きはしたものの、マイルが望むなら、と、皆、了承してくれた。

いくら下級貴族である男爵家とはいえ、執事が主家の用事で出掛けるのに、徒歩ということはない。いくら歩ける距離であっても、面子というものがある。

そのため、男爵の家族が使用するものより格が落ちるが、バンダインは馬車で来ており、マイル達はその馬車に乗せて貰って、オーラ男爵家王都邸へと向かった。

行きはバンダインが客室に乗っていたのであろうが、帰り道は『赤き誓い』のみんなを客室に乗せ、自分は御者の隣に腰掛けていた。

別に座るスペースが無いわけではないが、客と一緒に客室に乗るのは控えたのであろう。メンバーの半分が貴族、それも格上の子爵家と伯爵家の者であるなどと想像してもいないため、邸に着くまでの間、仲間同士で落ち着けるように、との配慮もあったかも知れない。

「……で、目的は何よ?」

マイルが、理由も無く、面倒なだけの貴族家訪問を望むわけがない。

車中でのレーナの問いに、マイルは誤魔化すこともなく、あっけらかんと答えた。

「あ、御令嬢の病気、というのを見てみようかな、と……。

あの薬はただの生薬で、そりゃ滋養強壮とかの意味はあるでしょうけど、飲めばどんな病気も一発で治る、というような魔法の薬ってわけじゃないですから。それで、もしかすると、私の国では治療法が分かっている病気かも知れませんし……」

「はいはい、そんなところだとは思っていたわよ」

メーヴィスとポーリンも、こくこくと頷いている。

「マイルちゃん、もしかして、魔法治療……」

「う~ん、それは、状況によりますね。下手をすると、殺人犯として縛り首になっちゃいますし」

そう、怪我の場合と異なり、治癒魔法を病人に掛けた場合、下手をすると急激な悪化を招き、患者を死に至らしめることがある。病気には、下手に魔法が使えない理由である。

それに、熱が出るのも咳が出るのも、身体が病気と闘うために必要な反応なのである。それは、40度近い熱が出た場合には、脳や生殖機能を守るために熱を下げる必要があるが、重篤でもないのにむやみに症状を抑えるのも、あまり良くない場合がある。

ポーリンには、マイルが基本的な医学知識を少し教えているため、使い方に気を付ければ、魔法でもある程度の病気治療ができることを知っている。

しかしそれは、他人に、しかも貴族相手に軽々しく使えるようなものではなかった。失敗は勿論、ある程度の効果があった場合でも、治らなかった場合は全ての責任を被せられる可能性があるからである。

「まぁ、とにかく、見るだけ見てみようかな、と……」

マイルは、そう言って、にへら、と笑った。

「あ、そういえば、ポーリンさん。どうしてあんな面倒なことをしたんですか? 金貨10枚くらい、私達が貸せば済んだのに……」

マイルの疑問に、ポーリンがあっさりと答えた。

「ああ、それじゃ駄目なんですよ。哀れんでお金を貸した、というのでは、それは取引ではないし、商売でもありません。

ああいう時は、ちゃんとした取引、ちゃんとした商売として戦わないと。それに……」

「それに?」

「もし取りっぱぐれたら、大損ですからね。もし親族や友人であっても、ましてや知らない相手なんかにお金を貸したりしませんよ。たとえどんな事情があろうとも!」

(((うわぁ……)))

やはり、ポーリンはポーリンであった。

「どうぞ、こちらでしばらくお待ち下さい」

客間に通され、紅茶とお菓子を出された後、バンダインは姿を消した。

勿論、当主に事情を説明し、顔合わせをして貰うためである。

「美味しい……」

早速、出されたお菓子をパクつき紅茶を飲んだレーナが、声を漏らした。

「美味しいです……」

続いて、ポーリンも。

裕福な伯爵家で大切に育てられたメーヴィスと、前世と母親が死ぬまでは美味しいものを飲食していたマイルにとっては普通であっても、行商人の娘であるレーナと、そこそこの商家の娘ではあったが父親が贅沢を嫌い質素な生活をしていたポーリンにとっては、かなりの高級品に思えたのであろう。

「出されたものを残しちゃ、失礼よね」

一応は筋の通ったことを言いながら、明らかに出された量の4分の1以上を食べようとするレーナ。

「あ、待って下さいよ!」

そして、慌てて自分の分を確保するマイル。

いくら昔は美味しいものを食べていたとはいえ、ここ数年は 御無沙汰(ごぶさた) なのである。しかも燃費が悪いマイルは、そろそろお腹が空き始めていた。いつもは大抵のことは人に譲るマイルも、今回ばかりは、とてもレーナに自分の分を譲るつもりなどない。

「あ、ちょっと、こら、それは私が……」

「何言ってるんですか、これは私の分……」

「レーナは、もう4分の1以上食べたでしょう!」

「「「ぐぬぬぬぬぬぬ……」」」

ポーリンも参戦し、険悪な雰囲気になりかけた時。

「あの、よろしければお代わりを持って参りますので……」

「「え?」」

マイルとレーナが振り返ると、ひとりのメイドさんが、困ったような顔をして立っていた。

そう、ベテランの執事が、大切なお客様を放置するわけがない。ちゃんとメイドを配置しておいたのである。

「……すみません、お、お願いします」

このままでは自分の分が残りそうにない、と思ったポーリンが、恥ずかしそうにそう頼み、さすがのレーナも、少し顔を赤らめていた。

「頼むから、あまり恥ずかしい真似をしないでくれ……」

どうやら、貴族の子女であるメーヴィスには耐えられない醜態であったらしい。

しかし、同じ貴族の子女、いや、爵位貴族そのものであるマイルには、大した問題ではなかった模様である。

「お待たせ致しました、オーラ男爵様が、是非皆様にお会いして、お礼を申し上げたいと……」

お代わりのお菓子も食べ尽くした頃、執事のバンダインが戻り、皆を案内して別の部屋へと連れていった。

「ようこそお越し下さった、オーラ家当主の、ハーヴァル・フォン・オーラだ。

この度の御助力、感謝する。おかげで、娘リートリアのための生薬を無事手に入れることができ、そして、商人如きに我がオーラ家が恥を掻かされることを防ぐことができた。いや、それどころか、強欲な商人をやり込めたと、オーラ家の評判が上がったことであろう。

礼代わりに、是非、昼食を御一緒して戴きたい」

「「「喜んで!!」」」

メーヴィス以外の3人の声が揃った。

苦笑するメーヴィス。

レーナとポーリンにとって、貴族の食事を味わえるなど、一生に数度あるかどうかという機会である。そしてマイルも、本格的な貴族の食事は、『統合された、アデルの記憶』の中では経験があるが、今の 海里(みさと) 、いや、マイルとしての主観意識で味わったことはない。なので、伯爵家御令嬢としてそういうものは食べ飽きており、なおかつ騎士として禁欲的な生活を 是(ぜ) とするメーヴィス以外は、目の色を変えていた。

「おお、そうだ。礼代わりの昼食とは言っても、これだけの御助力、勿論それだけで済ませるわけにはいかん。そんなことをすれば、我がオーラ家の名折れである。当然、然るべき謝礼はさせて貰うから、安心してくれ」

しかし、男爵の言葉に、『赤き誓い』の面々の反応は薄かった。

貴族家の昼食、という方には凄い食いつき具合だったのに、謝礼の話にはあまり関心が無さそうな『赤き誓い』に、男爵は笑みを深めた。

「……それであれば、指名依頼の事後処理、というのはお願いできますか?」

「ああ、勿論、構わぬが?」

「では、是非、それでお願いします」

頭が昼食のことでいっぱいになっており反応が遅れた3人に代わり、メーヴィスが男爵にそうお願いした。

貴族家からの、指名依頼。

いくら事後処理とはいえ、それは昇格のための大きなポイントとなる。ギルドを通すと手数料を取られるが、生活費には困っておらず、お金より昇格を優先する『赤き誓い』にとり、それはたいした問題ではなかった。昇格よりお金の方を重視するポーリン以外の者にとっては。

男爵も、ハンターギルドのことは勿論よく知っている。そのため、メーヴィスのその言葉から、この『赤き誓い』が、若い少女達のパーティであるにも拘わらずお金にはそう困ってはいないらしきこと、そして上昇志向のあるパーティであるらしきことを把握した。

「では、話は昼食時に、私の家族も交えて伺おう。せっかくの若手女性ハンターから面白そうな話が聞ける機会だ、私ひとりだけが聞いたのでは、後で家族に怒られそうだからな。ははは!

では、バンダイン、それまで皆さんのお相手を頼むぞ」

そう言って、オーラ男爵は皆を下がらせた。

「平民相手に、丁寧にお相手して下さいましたね」

「ああ、良いお方のようだな」

マイルの言葉にメーヴィスが頷き、レーナとポーリンも同意した。

そして、昼食の時間まで、執事のバンダインがオーラ家のことを色々と話してくれたのであった。