軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 糾弾

王宮の謁見の間には、国王、第三王女モレーナ、そして多くの貴族達の姿があった。

他の者達の謁見が終わり、最後に例の少女を残すのみとなった時点でモレーナが国王の横に座り、準備は整った。

最初は別室で自分達だけで、とも考えたが、これから先、少女を重用し王女の周りにいさせるためには、皆の前で王女との関係を見せた方が揉め事が少なくなると考えて謁見者の末尾に加えたのである。

「アスカム子爵、並びにアスカム子爵令嬢、中へ!」

案内役の声に、子爵と娘のプリシーがいそいそと謁見の間へと入室して来た。

そのまま前方へと進み、謁見の位置にて片膝をついて頭を下げる。

ふたりは舞い上がっていた。

昨日、突然城からの使いが来て『第三王女様が、アスカム子爵家令嬢を是非王宮にお招きして、できればお友達になって欲しいと言われている』と伝えて来たのだから。

王女様の御友人。

王宮内へのコネどころか、王子や国王に直接声が届けられる程の強力な繋がり。もしかすると、王子に見初められる可能性も充分にある。

どこでお目にとまったかは分からないが、もしかすると今年学園に御入学された第四王子がお望みになった可能性も……。

そう考えると、どんどん夢が広がって行くふたりであった。

「面を上げよ」

国王の言葉に、眼をキラキラさせながら顔をあげる子爵と娘のプリシー。

国王は、第三王女のモレーナの方に目をやった。

しかし、モレーナはきょとんとした顔をして、何も喋らない。

「ん? どうした?」

「あ、ええ、あの方はどちらに?」

「え? アスカム子爵令嬢ならそこにいるだろう」

「え、知らない方ですけど……」

国王と第三王女の会話から、何やら手違いがあったのかとざわつき始める列席者達。子爵父娘は状況が分からずぽかんとしている。

「バーグルはどこだ?」

「は、先程、謁見待機室に行ったあとに何やら急いで出て行きました」

国王の問いに、困り顔で答える近衛兵。

「国王、発言の許可を戴きたいのですが!」

「ん? ボーナム伯爵か。良い、発言を許す」

「は、ありがとうございます!」

列席者の間から突然上がった発言を求める声に、何か知っているのかと発言を許可する国王。

ボーナム伯爵は、アスカム子爵家令嬢のプリシーに向かって訊ねた。

「お嬢さん、お母上は今、どちらにおられますかな?」

「母なら、アスカム家の王都邸にいますけど…」

「ふむ…。では、あなたのその美しい金髪は、お母上譲りですかな?」

「は、はい、そうですけど……」

意味が分からないが、聞かれたことに答えるプリシー。

ボーナム伯爵は、今度は国王に向かって告げた。

「私の妻は、アードレイ学園時代からアスカム家の御令嬢とは仲良くしていたそうで、十二年前に娘が生まれたとの連絡を受けた時に私は妻と一緒にアスカム家を訪問したことがあるのです。その時にお会いした赤子は、母親譲りのさらさらした銀髪でした……。

そして、母親は3年前に事故で他界されたとか。何かおかしいと思いまして………」

「あんなの、うちの者じゃありません!」

突然プリシーが大声で叫んだ。

「前妻の娘など、我がアスカム家には不要です! だから、家名を名乗ることを禁じて家から追い出したのですわ! なのに…」

アスカム子爵が慌ててプリシーの口を塞いだが、もう遅い。

「……娘をどう扱おうと父親の自由かも知れませんが、この場合は少し問題があるのです」

ボーナム伯爵が言葉を続ける。

「先程、私は言いましたよね。『私の妻は、アードレイ学園時代からアスカム家の御令嬢とは仲良くしていた』と。つまり、子爵は入り婿、婿養子なのです。アスカム家の血を引くのは、ここにいるアスカム子爵でもそこの娘でもなく、追い出されたという前妻の娘ただひとりです」

「簒奪だ!」

「お家乗っ取りだと! 貴族として最低の行為だ!」

「極刑に相当する重罪だぞ!」

騒然とした謁見の間に次々と上がる非難の声。

アスカム子爵は真っ青な顔で固まっている。

「どうなのだ、アスカム子爵!」

さすがに国王の声も固い。皆、黙り込んで子爵の弁明を待った。

しかし、アスカム子爵は黙り込んだまま何も答えようとしない。

険悪な沈黙が広がりしばらく経った時、謁見の間の扉が開けられてひとりの騎士がはいってきた。

「おお、バーグル! いったいどうなっておる!」

国王の言葉に、バーグルは懐から封書を取り出しつつ説明した。

「は、例の少女が待つはずの謁見待機室に様子を見に行くと見知らぬ娘がおりましたため、手違いかと急ぎ少女の通う学園へと向かいました。

すると、少女は今朝から行方が分からず、4通の置き手紙が残されていたとか……。

3通はクラスメイトや教師等に宛てた普通のものでしたが、親友と思われる少女達に宛てたものには詳細が記されておりました。あの子の役に立つならばと、必ず返却することを条件にその手紙を借り受けて参りました」

「内容を申せ」

バーグルが手にした手紙に目をやり、国王が命じた。

「はい。内容を簡単に纏めますと、家名を名乗ることを禁じられているのに、その名で呼ぶ者が現れて王宮へ連れて行こうとしている。そんなことになれば、自分も母親や祖父のように殺される。逃げ出すけど、どこかの田舎町で幸せに暮らすから心配しないでくれ、というものです」

「母親や祖父のように殺される、だと?」

国王の唸るような声に、ボーナム伯爵が答えた。

「先代のアスカム子爵とその娘は盗賊に襲われたのですが、そのあたりでの盗賊による被害はその1件のみでした。しかも、娘夫婦ではなく先代と娘という、滅多にない組み合わせの時に、たまたま偶然に。

妻は疑っておりましたが、証拠も無く他家を誹謗するわけにも行かず、いまだにずっと恨み言を言っております……」

アスカム子爵の顔は、蒼白を通り越して、白くなっていた。

「そのふたりは牢に入れろ! 子爵邸にすぐ捕縛要員を向かわせて後妻も捕らえろ。先代と前妻の事件については、関係者全員を調べ直せ。手抜きや賄賂を受け取った者は全て共犯者と見なす。

アスカム子爵領は正統な後継者が跡を継ぐ準備ができるまで王直轄で代官を立てる。

バーグル、正統後継者を捜し出せ。少女の足だ、半日の遅れくらいすぐに追いつけるだろう。人数はいくら使っても構わん。絶対に保護しろ、丁重にな。

皆の者、かかれ!」

国王の迅速な指示に、関係者が謁見の間から飛び出して行った。

列席していた貴族は、何時にない国王の果断な指示に少し驚いていたが、いつも温厚な国王もやる時にはやるのだ、と好感を持って受け取られた。

誰も、国王の心中に荒れ狂う焦りには気付かずに……。

残っていた貴族達も皆、謁見の間から退出した後。

「おとうさま、あの方は……」

「言うな……」

第三王女の問いに、国王は頭を抱えた。

(頼む、バーグル、見つけてくれよ………)

12日後。母国を離れたとある国の、とある地方都市。

盾をバックに、交差した槍と剣と杖が描かれた看板が掲げられた建物。

……鍛冶屋でも武器屋でもない。

そう、『ハンターギルド』の建物である。

その前に佇む、ひとりの少女。

支援を受けた巾着袋の中には、何と金貨が3枚もはいっており、そのお金で買った上着、ズボン、革のブーツ、革の胸当て。

そして、樽に突っ込んで投げ売りされていた中古の安物の剣を購入した。

普通の剣は、少女が本気で振るうと簡単に折れてしまうため、やむなく手を加えている。

体格の関係でやや短めの剣を買い、河原の砂地でナノマシンに命じて砂鉄を収集して加工した。砂鉄は日本刀の原料であり、上質の玉鋼の素である。

本来は匠の技で色々とやるところを、結果だけ指示しての簡易作成であった。

(折れ難く、曲がり難い剣にしてね。切れ味は普通で。材質の均等化、最適の炭素含有率とかは任せた! あと、ミスリルとかアダマンタイトとかオリハルコンとかヒヒイロカネとか、その他凄い金属があるなら、使ってくれても全然構わないからね! 但し、見た目は普通の剣で!)

そして出来た、謎の剣。

その正体は、少女自身にもよく分かっていない。

最初から全てを自作にしなかったのは、柄や鞘をイメージしたり材料を用意したりするのが大変そうだったのと、外見を普通にするためでもあった。

魔物退治の準備はできた。

そして少女はハンターギルドのドアを開けて中へとはいっていった。

ごく普通の、どこにでもいる平凡なハンターとなるために。