軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165 王都へ! 猫耳が待っている!

「まぁ、もし魔族があそこを見つけたら、それはそれで仕方ないですよね。私達には何も口出しする権利はないし、魔物の住処を見つけたから潰した、と言われればそれまでです。私達、というか、人間側にとっても、別に困るわけじゃありませんし。

そして多分、あそこの意味なんか分からないでしょうから、『からっぽの小さな遺跡に魔物が住み着いていただけの、ハズレ』として、次の場所の調査に向かうだけでしょう」

王都への帰り道、マイルはみんなにそう話したが、多分魔族にはあの階段や地下は見つけられないだろうと思っていた。そして、もし見つかっても構わない。みんなに言ったとおりである。

あそこをあのままにしておきたいと思ったのは、マイルの単なる感傷に過ぎない。遙かな昔から、自分達を作った御主人様の命令を守って働き続けている機械達の……、って、どこかで聞いたような話だ。

(……ナノちゃん?)

頭の中でそっと呼び掛けてみたが、珍しいことに、ナノマシンからの返事はなかった。

(どこかに出掛けているのかな……)

そして、マイルは考えていた。

もしかすると、他にも『生きている遺跡』があるのではないか、と。

そしてそれらは、もっと完全な形で機能を維持しており、古竜達の目的はそれではないのか、と。

今はただ、その目的が平和なものであることを祈るばかりであった。

王都に戻った『赤き誓い』は、その足でギルド支部へ報告に行った。

「あの、依頼完了報告は、直接ギルドマスターにしたいのですが……」

そう言うメーヴィスに、受付嬢のフェリシアは眼を剥いた。

「あ、あんた達……」

あなた達、と言うべきところを、つい地が出たのか、少々言葉遣いが乱れている。

「ぶ、無事だったのは良かったけど、完了したの? 連中の正体を確認できたの?」

「はぁ、まぁ……」

カウンターから身を乗り出したフェリシアの剣幕に、一歩 後退(あとずさ) って引くメーヴィス。

「で、ギルマスに直接報告したいわけね、他のハンター達に話が聞こえるここで、ただの受付に報告するんじゃなくて」

「は、はい、まぁ……」

フェリシアの目付きに若干の恐怖を覚えながらも、希望を曲げないメーヴィス。

「付いて来なさい。

ネセル、ちょっと窓口お願い!」

そして、窓口を他の者に交代して貰ったフェリシアに案内されて、ギルドマスターの部屋へと向かう『赤き誓い』の4人。

ギルドマスターの部屋は、いずこも同じ、2階の奥であった。

「では、報告を聞こうか」

まず、マイル達を部屋の外で待たせたまま、フェリシアがひとりで入室してギルドマスターに事情を説明し、その後部屋に招き入れられた『赤き誓い』に、ギルドマスターが報告を促した。

ここ、ハンターギルドヴァノラーク王国王都支部のギルドマスターは、如何にも引退した元上級ハンターです、と言わんばかりの風体であった。40歳代後半か50歳前後の年齢は、魔術師ならばともかく、前衛のハンターとしては現役は苦しいだろう。引退後に王都のギルドマスターになれたということは、かなりの凄腕だったに違いない。ふてぶてしい 面構(つらがま) えに、威厳を出そうとして生やしたのか、口ひげが貫禄を加えている。

新参の若手パーティが、自分達が望んで会って貰ったのであるから、立場が低い。なので、自分の 机(デスク) に座ったままのギルドマスターに対し、『赤き誓い』は立ったまま正対している。受付嬢のフェリシアは、ギルドマスターの少し横で、同じく立ったまま控えていた。

「Cランクハンター、『赤き誓い』のマイルと申します。この度お受けしました依頼の結果と、それに関係します、まだこのあたりには届いていないと思われます最新情報について御説明致します」

そして、マイルによる詳細報告が行われた。勿論、地下と、そこに通ずる階段のことは除いて、である。

「……報告については、了解した。対応に関する判断は王宮に委ねることになるだろう。

まぁ、報告の内容によると、王宮で延々と会議が続けられた後で対処が決まっても、その頃にはもう魔族達は引き揚げた後、ということになりそうだがな。

とにかく、御苦労だった。依頼達成、評価はAで処理してくれ。あぁ、他国からの最新情報に対する報酬として、金貨1枚を追加しておいてくれ、功績評価ポイントもな」

最後の言葉は、受付嬢であるフェリシアに向けられたものである。

かくして、『赤き誓い』によるヴァノラーク王国王都支部における最初の依頼任務は、無事完了したのであった。

(しかし、無事に戻ってきてくれたのはいいけれど、まさか魔族相手で、調査依頼を完全に遂行するとは……。ギルマスへの説明にあった、古竜と獣人との件と言い、思っていた以上に……)

受付業務に戻ったフェリシアは、『赤き誓い』への評価を大幅に修正していた。

(『白銀の爪』には悪いことをしたかしらね……。まぁ、大したことないから、いいか)

フェリシアは軽くそう流したが、『白銀の爪』にとっては大迷惑であった。

よれよれになって戻ってきた『白銀の爪』は、他のハンター達やギルド職員達の前でフェリシアに「ひ弱な腰抜け」、「年端も行かない女の子達について歩くこともできない無能」と、さんざんこき下ろされ、罵倒されたのである。

フェリシアにしてみれば、まさか本当にBランクパーティの『白銀の爪』が未成年者を含む少女達について行けないなどとは信じられなかったので、面倒だから途中で引き返して適当な言い訳をしているだけだと思ったのである。

面倒だから、という理由で、自分の頼みを無視し、新人パーティを見捨てて、みすみす死地に赴かせた。そう思ったフェリシアは、手酷く彼らを罵倒したのである。

罵倒された『白銀の爪』の面々は、反論することもなく、俯いて宿へと戻って行った。とても、このまま予定通りに遠出できるような状態ではなかったので、そうするしかなかったのである。

そして、フェリシアの罵倒が、ただの言い掛かりではなく「全て真実」であったため、彼らのショックは大きかった。

いくら装備や荷物があるとはいえ、子供に全く追いつけなかった。Bランクを名乗る、自分達が。

その後、あまりのショックに数日間宿から出て来なかった『白銀の爪』は、『赤き誓い』が無事に依頼を完遂して戻ったことを知ると、Bランクになって少し調子に乗っていた自分達がまだまだ大した実力ではないと考え、数日遅れで、予定していた遠方への遠征へと出発した。

その後、奮起した『白銀の爪』がAランクパーティとなるのは、もう少し先の話であった。

「4人部屋、空いてますか~」

『赤き誓い』がやってきた宿は、勿論選択の余地なく、ファリルちゃんの宿、『ファリル亭』じゃない、『夜明けの旅』である。

〇〇亭、という名ではない宿屋は結構多いが、宿屋の名が『夜明けの旅』というのは、如何なものか。夜明けも旅をしているということは、宿屋には泊まっていないということではないのか。それとも、夜明けに出発するという意味なのか。しかしそれでは早過ぎて宿に迷惑だし、ゆっくり泊まらないのならば宿屋ではなく野営の方が良いのではないのか。

考え始めると、気になって夜も眠れなくなるマイルであった。

『夜明け』というのが、実際の夜明けを意味するのではないということに気付くには、マイルはまだまだ人生経験が足りなかったようである。

「あ!」

マイルが宿の名前について考え込んでいると、ファリルちゃんが受付カウンターから飛び出してきてマイルの足にしがみついた。

(うむ、懐いてる懐いてる!)

にへら、と、だらしない笑顔になるマイル。

「もう、戻って来ないのかと思ったですぅ……」

(うおお、涙目で見上げるその顔! ぴくぴく動く耳! 堪りません!)

ばしっ!

「やめんか!」

思わずしゃがみ込んでファリルちゃんを抱き締めようとしたマイルの脳天に、レーナのチョップがお見舞いされた。

「……で、古竜さんの仲介で、獣人さん達と仲良くなったんだよ」

「良かったですぅ!」

さすがに、ほやほやの最新情報を漏らすわけにはいかないので、今回の話ではなく以前の話を超大幅に編集、脚色、加筆修正して、書き下ろし短編まで付けてファリルちゃんに話してあげたマイルであった。

この話も、ここの王宮にはまだ届いていないかも知れないけれど、他国には既に出回っている話だから問題ないだろう。自分達だけが知っている話というわけではないし。マイルは、そう考えていた。

夕食後、まだ数人の客が残っている食堂で、ファリルちゃんの手が空いていたためテーブルに呼んでお話を聞かせていたのであるが、それとはなしに聞いていたハンターらしき他の客達は、子供を楽しませるための荒唐無稽な作り話だと思い、皆、微笑んでいた。

そして彼らは数日後、ギルド支部の情報ボードに張り出された告知を見て、呆然と立ち尽くすこととなるのであった。

ラストオーダーが終わった厨房の中では、片付けと明日の仕込みを始めた大将が、楽しそうな『赤き誓い』とファリルちゃんの様子を、恨めしそうな顔でチラチラと見ていた。その向こうには、苦笑する奥さんらしき人の姿が。

(……あれ? 男の子達は?)

ファリルちゃんに聞いてみると、どうやら、お兄さん達とは仕事の分担が完全に分かれていて、お兄さん達は朝一番での厨房や食堂の掃除、芋の皮剥きとか野菜を洗って刻んだりとかの、どうやら「妹にはやらせたくない、少し大変な仕事」を引き受けているらしい。そしてファリルちゃんは、受付とお会計、たまに客が帰ったテーブルの片付け。

少し過保護のような気がするが、欧州系に近い人種と獣人の血が混じっているので見た目は少し上に見えるが、ファリルちゃんはまだ6歳である。辛い仕事をさせるには、まだまだ早かった。

そして、特に忙しい朝食の時と、何かの理由で特別忙しい時、たとえば団体客が来たとか、大きな行事で王都中に人が溢れる時とかは、みんなで総力戦になるらしい。

なので、今はお兄さん達は自室で遊んでいるか、朝の早い明日に備えてもう寝ているか、とのことである。

この世界では、10歳未満であっても、外に働きに出る者はいる。家業を手伝うことなど、当然のことであった。

「マイル、頼みがある!」

部屋へと戻り、ひと息入れた後、メーヴィスが真剣な顔でマイルに話し掛けた。

「あの、『秘剣、 雑魚(ザコ) Bに流星打法』と『対魔族剣、真空飛び膝斬り』、伝授しては貰えないか。頼む、この通りだ!」

そう言って、床に座り込み、頭を下げるメーヴィス。

そう、それは、以前マイルが不始末をしでかしてみんなに謝罪した時に披露した、『ジャパニーズ・土下座』であった。