軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155 魔族

「「「「ま、魔族……」」」」

てっきり獣人相手だと思っていたのに、いきなり相手が魔族だと分かり、愕然とする『赤き誓い』の4人。

「なっ? お前達、俺達が魔族だと知っていたんじゃあ!」

正体がバレていると思いフードをめくった魔族達もまた、愕然。

「いや、すみません! 別に、騙そうとしたわけじゃないんですけど……」

そして、申し訳無さそうに頭を掻く、マイル。

「とにかく、事情を全て話してもらえませんか? いえ、おおよその見当はついているんですけど……」

そう言うマイルに、魔族達は勿論、はいそうですか、と従えるはずもない。

「ふ、ふざけるな! そちらこそ、何を知っているのか、全て吐いて貰うぞ!

捕らえろ!」

魔族のリーダーは、仲間達にそう命令した。

前回、獣人達と出会う前には、相手が魔族だと思っていたため、心の準備と覚悟ができていた。

しかし、今回は逆に、相手が獣人だと思っていたため、『赤き誓い』のみんなは心の準備ができていなかった。

突然の、魔族との戦い。

あの、伝説やお伽噺に出てくる、人間の常識を超えた魔族の強さ。

思わず腰が引ける『赤き誓い』のみんなであるが、その中では、やはりマイルにはある程度の耐性があった。

「皆さん、そう恐れる必要はありません! 物語に出てくる魔族は、人間側でいうところの勇者相当です。つまり、実際には存在しない、誇張された姿なんですよ。

勇者って、伝説やお伽噺にはしょっちゅう出てきますけど、実際には、まずいませんよね。それと同じですよ。

魔族も、実際には、獣人より劣る身体能力と、エルフより劣る魔力と、ドワーフより劣る頑健さを持っているだけの、ただの人型の種族に過ぎませんから!」

マイルのその言葉に、少し気を取り直したレーナとメーヴィスであるが、そこにポーリンがぽつりと呟いた。

「……でも、それって、その全ての面において人間を上回っている、ってことですよね?」

再び顔色が悪くなる、レーナとメーヴィス。

「こんな時に、余計なことを言わないでくださいよおおおぉっ!」

そう叫ぶ、マイルであった。

(まずい! どちらも4人、各個に1対1の戦いになれば、大怪我や、もしかすると死人が出る可能性が……。

みんなの力は信じているけど、万一ということがあるし、逆に、余裕がなくて、相手に致命傷を与えてしまうこともあり得るし……。何か、いい方法は……。

そうだ!)

マイルは、頭に浮かんだその案に飛びついた。

「待ってください!」

マイルの言葉に、近付いていた魔族達が歩みを止めた。

「何だ? 諦めて降伏する気になったか?」

リーダーの言葉に、マイルは首を横に振った。

「いいえ。でも、このまま乱闘を始めても、『美しくない』とは思いませんか?」

「「「「「「「はあああああぁ?」」」」」」」

マイル以外の全員の声がハモった。

「う、美しくない、って……」

「どういう意味だい?」

レーナやメーヴィスですら、あっけに取られていた。

「いったい何を言っているんだ、こいつは?」

魔族のリーダーがメーヴィスにそう尋ねるが、勿論、メーヴィスにも答えられない。

「団体戦、それも、星取り戦形式の4人制です!」

マイルの言葉に、ぽかんとする、その他全員。

そして、マイルの説明が始まった。

「いいですか、せっかくの名勝負になりそうなのに、みんなが自分の戦いにのみ気を取られて、他の戦いを見られないのでは、あまりにも勿体ないとは思いませんか?」

戦い好きらしい、魔族のうちの2名が、うんうんと頷いた。

「そこでです、互いにひとりずつ出して戦い、他の者はそれに手出しせず観戦するんです。それを4回。3勝した方が勝ちで、負けた方は、相手に捕らえられたものとして、素直に降伏する。2対2で引き分けとなれば、互いの実力が伯仲しているものとして、武力は同等として話し合いを行う。これで如何ですか?」

「……ちょっと待ってくれ」

そう言って、魔族達はこそこそと何やら少し話し合いをした後、返事を返した。

「いいぞ、こちらはそれで異議はない」

おそらく、人間の小娘如きに魔族である自分達が後れを取るはずが……、という、いつものやつであろう。それプラス、退屈凌ぎの娯楽代わり。

『赤き誓い』側は、こういう、相手側との駆け引きで商売は絡まない場合は、元々マイルに任されることが多いため、皆、異議を挟むことはない。

なので、話は決まった。

「合意と見てよろしいですね?」

「では先鋒ポーリンさん、次鋒レーナさん、副将メーヴィスさん、そして大将は私、ということで」

マイルは、強い者ほど後に出す、という定石通りの組み合わせにした。多分、向こうもそうするはずだ。

場合によっては、わざとずらして、敵の先鋒にこちらの次鋒、次鋒に副将、副将に大将を当てて確実に3勝を狙い、敵の大将にはこちらの先鋒を当てて捨て試合にする、というような方法もあるが、おそらく魔族側はそのような方法は取らないであろうし、マイルもそんな気は全くない。

「マ、マイル、本当にいいのか、私が副将とやらで……。

私は、先鋒の方が良くはないか?」

不安そうにそう言うメーヴィスに、マイルはにっこりと微笑んだ。

「大丈夫です、メーヴィスさんは絶対に負けません! だって、メーヴィスさんは『騎士を志す人』なのですから!」

「そ……そうか。ああ、そう、そうだよな!」

メーヴィスは、きっ、と表情を引き締めて、その後、口の端を歪めて笑いを浮かべた。

ルールの擦り合わせを行い、観戦者は自チームの選手が危険だと判断した場合は試合の終了の宣言や相手側チームの選手の攻撃を防ぐことができる、但しその場合は自チーム選手の負けとする、等の規則を決めた。

そう、これがマイルの目的である。これにより、双方共に、重傷者や死者を出すことなく勝負をつけられる。

もし団体戦そのものに敗北しても、別に構わない。

誰も死なず、重傷を負うこともなく終われば、正直に『調査依頼を受けてきた』ということや、前回のことを話しても、『赤き誓い』にも人間側全体にとっても、何も損失はない。今回の依頼においても、『相手は魔族、目的は調査』という情報を持ち帰るだけで、おそらく依頼成功と見なされるはずである。

更に、既に人間側が古竜の指示による魔族、獣人達の調査のことを知っているとなれば、マイル達を拘束する理由もない。おそらく、話が終われば解放されるだろう。

もし解放されなければ、その時は、逃げ出せばいい。「捕らえられた後に、逃げ出した」ということならば、約束を破ったことにはならないのだから。

そして勿論、マイルには負ける気など毛頭なかった。

岩場の少しひらけた場所で向き合う、ポーリンと、30歳くらいに見える魔族の男性。

あくまでも、30歳くらいに見える、というだけである。魔族の年齢と見た目の関係など、マイル達には判断がつかない。

観戦者は、マイル達も魔族側も、一緒にひとかたまりになっていた。分散すると流れ魔法に当たりやすいし、観戦中に話すのも、何らかの情報収集になるだろう。

あの、マイルに貫通弾を喰らった男も、いつの間にか他の魔族に連れて来られ、治癒魔法で傷を塞いで貰い、観戦組に加わっていた。いくら傷を塞いだとはいえ、しばらくは全力での戦闘はできないであろうから、戦力外である。

そして、マイルが観戦場所から叫んだ。

「では、ファイト、レディー・ゴー!」

「アイス・ジャベリン!」

「アース・ウォール!」

ポーリンの氷槍攻撃を、地面から岩壁を隆起させて防ぐ魔族。実体となった氷による攻撃を防ぐには、魔法防御ではなく、物理的な壁が必要なのである。

土ならばともかく、岩場でのそれは、かなりの魔力と才能を必要とする。それを、ポーリンと同じく、呪文詠唱無しでの魔法名のみ、つまり詠唱省略魔法で、いとも容易くやってのける魔族。

「……、……、アイス・ニードル!」

今度は、小声で短縮詠唱を行い、再び攻撃魔法を放つポーリンであったが、質量の小さい氷の針は、全て風魔法で吹き散らされて防がれた。

「…………」

攻撃が全く通じず動転したのか、呪文を唱える様子もなく、攻撃の手が止まったポーリンに、魔族の男がゆっくりと近付きながら話し掛けた。

「無駄だ。人間の小娘如きの魔法では、我々に届かせることすらできまい。そして我々の魔法は、簡単にお前達の防御を貫く。

どうだ、降参しないか? そうすれば、無駄に痛い目に遭うこともないぞ?」

その言葉に、ふるふると首を横に振るポーリン。

確かに、魔族の強力な攻撃魔法をまともに受ければ、ポーリンの防御は簡単に抜かれるだろう。そう、『もし、攻撃をまともに受ければ』。

「仕方ない、なるべく痛くないよう、一撃で決めてやろう」

魔族の男が勿体振って右手をかざし、わざとゆっくりと魔法を放つ体勢にはいっても、マイルが介入する気配はなかった。

そして、魔族の男が攻撃魔法を放とうとした時。

「水よ、彼の者の手足に纏い、凍り付いて自由を……、ぐあっ!」

突然、信じられない、というような驚愕の表情を浮かべ、続いて顔中から、いや、身体中から汗を噴き出させる、魔族の男。

「ぎゃああああぁ!」

そして、お尻を押さえて、転げ回った。

真正面からの実体飛翔系の魔法を続けたポーリン。

そして、それらを簡単に防がれて、如何にも動揺して何もできなくなったかのように見えたポーリン。

……ポーリンが、そんなタマであるはずがなかった。

何もできない状態の振りをして、無詠唱で密かに相手の足下に放った、ごく小規模のホット魔法。

それを、ごく弱い気流に乗せて、ズボンの裾から上昇させた。敏感な、粘膜部分目掛けて。

「ど、どうした! いったい、何が……」

慌てる観戦組の魔族達。しかし、泣き叫びながら転げ回る仲間の状態に、ただ事ではないと思いながらも、負けを決定付ける介入を行う決心がつかない様子。

そして、ポーリンが次の詠唱を始めた。

「氷の刃よ、敵の心臓を貫け! アイス……」

「降参! 降参だ、試合終了!!」

その詠唱の、あまりにも物騒な呪文に顔を引き攣らせ、魔族達のリーダーが大慌てで試合終了、つまり敗北の宣言を行った。

(残りの3回、全て勝てば済むことだ……)

そう思いながらも、嫌な予感が湧き上がるのを抑えきれない、魔族達のリーダーであった。