軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148 エルフ

「な、なな、何の御用でしょうか!」

クーレレイア博士とは普通に喋っていたくせに、なぜか緊張してガチガチのマイル。

しかし、レーナ達も、その気持ちはよく分かった。

クーレレイア博士は、耳が髪で隠れていたから普通の人間にしか見えなかったし、初めのうちはギルドマスターの娘だと思い込んでいたため、エルフだと判った後でも、そう気にならなかったのである。

それが、この初老の男性は、あまりにもエルフ過ぎた。

「何! 貴女方、クーレレイアのお嬢ちゃんを知っておられるのか!」

そして、何やらエルフのおじさん……初老なら、まだ『おじいさん』と言うのは悪いだろう。エルフのことだから、本当の年齢は判らないが……が、レーナの言葉に食い付いた。

「どこで、いつお会いなさった! お元気そうであったか?」

「あ、はい、元気いっぱいでしたよ。会ったのは、うわっ!」

答えようとしたマイルの肩を、レーナが、がしっ、と掴んだ。

「何、正体の分からない男に女性の情報を勝手に流そうとしてるのよ! 本人の了承も得ずに!」

「あ……」

そう、意外にも、この世界では個人情報については割とうるさいのである。

元々、ハンターは自分の過去や能力を嗅ぎ回られるのを嫌がる傾向が強く、それが原因でトラブルが多発し、いつの間にか「ハンターの個人情報の詮索は御法度」という暗黙の了解事項ができた。 そして、自分達が詮索を拒否する以上、ハンター達もまた、依頼の受注等で必要な場合を除き、他の者のことを詮索するのを控えるようになり、それが徐々に広まっていったのである。

勿論、雇用や契約等、相手の信用度の確認が必要な場合は別であり、あくまでも「仕事に関係のない、不必要な情報について」の話である。

そして人間は、秘密主義であるエルフ社会の深奥についてはあまり詳しくない。勿論、『赤き誓い』の一行も。

エルフはあまり人間とは一緒に暮らさないのに、なぜクーレレイア博士が人間と一緒に暮らして学者をやっているのか。

エルフの集落を出たのはなぜか。

家族や親族との関係は。

敵対する者がいるのか。

それらのことを全く知らないのに、博士の情報を勝手に漏らしてどうするというのか。

その行為は、もしかすると、ストーカーに対して、やっとのことで逃げ延びた被害者の現住所を教えることになるかも知れない。

自分自身、前世において何度かストーカーに纏わりつかれたことがあるマイルは、嫌な記憶が甦り、反射的に、思わず身構えて魔法の呪文を詠唱した。

「水よ出でて氷の 枷(かせ) となり、拘束……、ぎゃっ!」

レーナのチョップが、マイルの脳天に喰らわされた。

「待て待て! 待てと言うに! 儂は怪しい者ではない!」

「怪しい者は、みんなそう言います!」

「じゃあ、どう言えばいいというのだ!」

「『怪しい者だ』?」

「「「「…………」」」」

がっくりとしたみんなが、ふと気が付くと、周りを剣の柄に手を掛けたり 杖(スタッフ) を握り締めて魔法を待機状態にしたハンター達に取り囲まれていた。

ハンターギルドのど真ん中で攻撃魔法の詠唱を始め、エルフとの戦いが始まりそうになっていたのだ、至極当然のことであった。

「す、すみません、何でもありませんから! し、知り合いとの軽い冗談、ふざけ合いですから!

ね、そうですよね、おじさま!」

「え? ……あ、あぁ、そうだとも、あ、え~と、 狸娘(たぬきむすめ) よ!」

慌てたマイルの言葉に、一瞬きょとんとしたエルフの男性であるが、すぐに察して話を合わせてくれた。さすが、年の功である。

くっ……

プッ……

くすくす……

緊張に張り詰めていた空気が緩み、皆が武器に掛けていた手を離し、笑いながら元いた場所へと散っていった。

普通なら、騒がせんな、と怒鳴られて当然の不始末であったが、片方がエルフの年配者とあっては強くは出られず、そしてもう片方が、きょとんとした間抜け面の可愛い少女となれば、笑ってスルーしてやるのが先輩ハンターとしての優しさである。

それに、大半の者が、見慣れぬよそ者である美少女4人組の行動を最初から見ていたため、状況は分かっていた。

本当は、教育的指導として叱ってやるべきなのだが、その必要はなさそうであった。

「マイル、あんたねぇ! ギルド内で攻撃魔法の詠唱なんて、いったい何考えてんのよ!

他のハンターから問答無用で攻撃されても文句が言えないわよ! そもそもあんたは……」

そう、マイルの背後で、真っ赤になって 牙(やえば) を剥いたレーナの姿が見えていたので。

レーナにたっぷりと絞られた後、発送依頼はいったん取り下げて、エルフの男性とギルド内の飲食コーナーへ移動した『赤き誓い』の面々。

「で、何の御用なんでしょうか?」

ドタバタで、すっかりエルフの男性に対する緊張感がなくなったマイル。

「あ、ああ、すまぬな。

実は、先程ティルス王国の王都までギルド便で荷を発送すると聞いたもので、ひとつ便乗させて貰えんかと思ったものでな……」

「ああ!」

便乗。

小さな書類や手紙等であれば、ある程度の大きさ・重量までであれば料金は変わらない。なので、ひとつの包みにしてしまえば、ひとつ分の料金で済むわけである。

あとは、最初に荷を受け取った者が、開封後に、同封してあるものを自分で届けるか、受取人払いにして再度発送すれば良いのである。

他の街への発送、それも国を跨いでとなると、かなりの料金となる。しかし、同じ王都内への発送ならば、10歳未満の準ギルド員である子供達の恰好の稼ぎ仕事であり、小銀貨数枚の 端金(はしたがね) で済む。たまたま同じ街へ発送しようとしている者を見つけるという幸運に出会った者が、便乗を持ち掛けるのは、不思議でも何でもなかった。

「で、どうだろう、受けては貰えぬかな?」

「送料半分出して貰えるなら……」

マイルにとっては、何のデメリットもない。

最初の宛先はマイルの宛先にするので、リスクはなく、送料が半分負担して貰えるならば、文句はない。

「おお、ありがたい! 儂らは大半を自給自足で生活しておるから、人間の使う貨幣はそれ程持っておらぬのだ。特に、滅多に村から出ない、儂達、年寄りはのぅ。

これで、浮いたお金で土産を買って帰れるわい」

嬉しそうなエルフの男性に、マイルも微笑んだ。

「……で、クーレレイアの嬢ちゃんのことじゃが……」

小包をいったん開封して、同封する手紙を届けるよう書き加えるマイルの横で、レーナに尋ねるエルフの男性。

「住んでいるところとかは、別に教えて貰わんでも良い。ただ、元気そうだったかどうか、様子だけでも聞かせて貰えれば、それでいいんじゃ」

「あなた、博士とどういう関係なのよ?」

怪訝そうに問うレーナに、エルフの男性……名はエルサトークというらしい……が答えた。

「嬢ちゃんの氏族と交流がある一族の、ただの年寄りじゃよ。

クーレレイア嬢ちゃんは、近隣の氏族の大人達の間では人気者でのぅ。皆、自分の子供達も嬢ちゃんのように育って欲しいと、子供部屋に嬢ちゃんの姿絵や人形を飾っておるくらいじゃ……」

「「「「え……」」」」

書き物中のマイルを含め、全員が驚いた。

いや、確かにクーレレイア博士は可愛かったが、美形揃いのエルフとしては、そうとんでもない美人というわけではないだろうし、エルフの村を出て人間と暮らしているし、性格も、別に聖女のようだというわけでもない。

また、博士と呼ばれるような仕事をしているからには、そこそこの年齢になっているはずである。なのに、どうしてそんなに人気者なのか、理由が全く分からない。

みんなの疑問を察したのか、エルフの男性、エルサトークが説明してくれた。

「儂らエルフは、元々個人主義の者が多くての。子供達は、大体40~50歳くらいになるとあまり親に甘えなくなり、しだいに実家から出て独立し始め、段々と親とは疎遠になっていくんじゃ」

((((……遅っ! 親離れ、遅っっ!))))

「なのに、クーレレイアの嬢ちゃんは、いくつになっても父親にべったりでなぁ。皆、羨ましくて羨ましくて……」

「「「「あ~……」」」」

皆、発掘現場から救出して逃げ出した時のことを思い出して、納得した。

ギルドマスターの娘だと勘違いしたマイルが『あなたのお父様にあなたのことを頼まれまして』と言った時の、頬を赤らめて、瞳を少しうるうるさせた、あの反応。

「お父上が大好きなのだな……」

「お父さんっ子なんですね」

メーヴィスとポーリンは、微笑ましそうな顔をしていた。

しかしマイルは、まだこの世界には存在しない言葉を叫んだ。

「ファザコンですかっっ!」