軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137 宿屋 2

「何、ここの値段……」

部屋にはいってから、レーナが値段に対する不満を口にした。

「でも、それも含めての、ギルド出張所でのあの評価なんでしょう?

この値段であの評価を得られる謎を解明しないと……」

マイルの言葉に、メーヴィスとポーリンが大きく頷いた。

「とにかく、清浄魔法のおかげで無駄なお金を使わなくて済むのはありがたいわね」

「でも、食事はそういうわけには行きませんよね。

食事に秘密があるのかも知れないから、私の収納にあるものを食べるわけにも行きませんし……」

レーナの台詞に返されたマイルの言葉に、レーナとポーリンが渋い顔をした。

日々のちまちまとした稼ぎは大したことがないが、岩トカゲや商隊護衛にワイバーン事件、そしてこの前の獣人と古竜の件で大きく稼いだ『赤き誓い』の財政状況は、余裕たっぷりである。銀貨の10枚や20枚でガタガタ言う程のことではない。

しかし、『赤き誓い』は、メーヴィス以外、みんな貧乏性であった。そのメーヴィスにしても、最近は皆に染まり、貴族の娘らしからぬ金銭感覚を身に付け始めているのであるが。

だが、それを言ってしまえば、貴族のひとり娘であるマイルはどうなるのか、と言われそうであるが、誰もそれに触れることはない。

メーヴィスは、貴族の娘。ポーリンは、商家の娘。レーナは、行商人の娘。そしてマイルは、『マイル』である。他の同類項とひとまとめにされることのない、『マイル』という 括(くく) りの生物なのであった。レーナ達3人にとっては。

……マイルは、『赤き誓い』の中では、そういう扱いなのであった。

「気になるから、早く食事に行きましょうよ!」

本当に食事に人気の秘密があるかどうかが気になるからなのか、それともただ単に、燃費の悪い身体が燃料不足のサイレンを鳴らしそうになったのかは分からないが、マイルの主張に反対する理由もなく、皆は1階の食堂へと向かった。

「「「「え……」」」」

食堂は、割と混んでいた。

満席というようなことはないが、宿泊客だけではなく、地元の人達と思われる食事客がかなりはいっているようである。

それは良い。評判の宿屋であれば、食事のみの客もよく来るものである。

だがマイル達は、食堂の風景に、何か違和感を覚えたのである。

「……若い男の人ばかりです……」

ポーリンが、ぽつりと呟いた。

「「「あ……」」」

身体的特徴から男性の視線に敏感になってしまったポーリンが、真っ先に気付いた。

そう、客数はかなり多いのに、『赤き誓い』以外の女性客や子供の姿が全くない。そして年配者の姿も。全て、成人である15~16歳くらいから30歳前後までの男性客ばかりであった。

そういえば、ギルド出張所で、ここ、『乙女の祈り亭』を勧めたのは、30歳くらいまでの男性ばかりであり、女性や年配者は、皆『荒熊亭』を推していた。

「そのあたりが、評価が分かれる理由みたいですね……」

マイルの言葉に、3人が頷いた。

「とにかく、料理を食べてみるわよ。でないと始まらないからね」

レーナの言う通りである。4人は、空いていたテーブルに席を取り、料理を注文した。

「野菜煮込みスープと野菜炒め定食とパン付きシチューとオーク肉のステーキ、2人前ずつね!」

いくら高いとはいえ、それで食事量を減らして我慢するようなレーナではなかった。文句は言っても、食べるものは食べる。それがレーナ・クオリティであった。マイルも同じである。

とはいえ、今頼んだのは全員分であり、決してレーナひとりが食べるわけではない。全ての料理の味見をするためと、たっぷり食べるための、2人前ずつの注文であった。

尤も、後で追加注文をしないというわけではない。

レーナの注文を受けた、先程受付をしていた少女が厨房へ向かってオーダーを通し、中から了解の声が返ってきた。まだ若い女性らしき声である。

「「「「…………」」」」

そして、テーブルに並べられた料理を見る、『赤き誓い』の4人。

「普通に見えますよね……」

「いえ、普通より量が少ないような気がします」

マイルの言葉に突っ込むポーリン。さすがに、マイルと違ってポーリンは細かい。

「匂いも普通だし、具材も別に変わったところは……、いや、かなり質の悪い安物の肉を使っているようだな、肉の使用量も少ないし……」

シチューをスプーンでつつきながらそう呟くメーヴィス。

「高価な調味料をたくさん使っているのかも知れないわよ。とにかく、味見を……」

「「「「う~ん……」」」」

そして、揃って微妙な顔をする4人。

「不味くはない。決して不味いというわけではないのだが……」

「そう美味しくもないですよね」

ポーリンが、メーヴィスの言葉を受けてそう言った。

「そう、以前、メーヴィスさんが料理を作った時のような……」

マイルの言葉に、レーナが適切な表現を思いついた。

「……素人料理?」

「「「それだ!」」」

まぁ、普通に食べられる料理なので、4人は黙々と食べ続けた。なぜこの料理でこの値段で、こんなに客が来て評判が良いのか。その謎が全然解けずに、頭を捻りながら。

そしてしばらくすると、料理を食べ終わり席を立つ者が出始め、厨房から現れた7~8歳くらいの少女が食器を下げたりテーブルを拭いたりと片付け仕事を始めた。客達は、それを優しい眼で見守っていた。

更に、オーダーストップの時間がきて、最後の注文の料理が出された後、12~13歳くらいの少女が厨房から現れ、片付けを手伝いながら客と話し始めた。その声と会話の内容から、どうやらこの少女が料理を作っていたらしい。

……『素人料理っぽいもの』になるのも当たり前であった。素人が作っているのだから。

しかし、もしかすると、『可愛い少女が作った、素人料理』というところに価値があるのかも知れない。そう、恋人に作って貰ったつもりで食べるとか、娘に料理を作って貰った父親の気分を味わうとか……。

そう考え、なんとか納得しようと努力するマイル達4人であった。

注文を取っていた、3人の中では最年長だと思われる15~16歳くらいの少女は、帰る客の会計のため、今は受付カウンターに座っている。

いや、その役目は必要なので、別におかしくはない。しかし、マイル達は思った。

((((何故、年長者が料理を作らない?))))

だが、その疑問は、一瞬の内に解けることとなった。客と料理担当の少女との会話によって。

「しかし、ラフィアちゃんも大変だよなぁ、若いのにひとりで料理を全部作って……」

「あはは、お姉ちゃんが作ると、お店が潰れちゃいますからね」

『赤き誓い』のみんなは、全てを悟り、気の毒そうな眼で少女を見詰めていた。

「で、どうだ、『荒熊亭』からの嫌がらせは、まだ続いているのか?」

((((え?))))

状況が変わった!

マイル達は、耳を澄ませて客と少女の話に聞き入った。

「あ、はい、状況は変わりません……」

悲しそうな顔で、 俯(うつむ) き気味にそう答える少女。

「そうか……。亡くなった御両親のためにも、あんな奴らに負けずに頑張れよ! 俺達はみんな、ラフィアちゃん達の味方だからな!」

それを聞き、おぅ、と声を上げる、他の席の男性客達。

マイル達は、理解した。

なぜこの宿が、別に取り立てて利点もなく料理も普通、いや、宿屋の食堂としてはかなり残念な出来で、そして相場より高いにも拘わらず、なぜ客が多く、勧める者が多いかの、その理由を。

「……うちの店の参考にはなりません。それはもう、全く、全然!」

ポーリンは、がっかりした様子であった。レーナとメーヴィスも、大した謎ではなかったことに、落胆した様子である。

しかし、マイルは疑問に思っていたことを口にした。

「確かに、このお店が 贔屓(ひいき) にされている理由は分かりました。

でも、じゃあ、どうして比較的若い男性限定なのでしょうか? 同情するなら、年配の人や女性達の方が、より贔屓にしてくれそうなものなのに……」

「「「あ……」」」

まだまだ、謎は完全に解明されたわけではなさそうであった。