軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113 人外

古竜の少女(と言っても、見ても分からないが)シェララの案内で大穴から地下にはいったマイル達は、穴が開いたためか土砂が崩落したらしき跡を越え、その向こうに空いた空間から、広間のようなところへと入り込んだ。ここが、ベレデテスが言っていた『神殿らしき広間』とやらであろう。

シェララは身体が大きくて広間の中へははいれない。無理をすれば、神殿が崩れて埋まってしまうであろう。マイル達共々。

そうならないように、シェララは穴から首を差し入れただけである。先程穴から出てくる前も、3頭で首だけ突っ込んで中を見ていたらしい。

「いいですか、シェララさん。今、あなたの首に巻いたのは、とても細くて、そしてとても強靱な糸です。もし急に首を引っ込めたら、ぽろり、と……」

『ひ、ひいぃぃぃぃぃ!』

結構図太いと思っていたシェララは、こと自分の命に関しては、割と臆病なようであった。

逃げられないようにと、しっかり脅しをかけておいて、マイル達は広間の確認を行った。

「ライティング!」

マイルの魔法で、広間に明かりが広がった。

「こ、これは……」

明かりに照らされて浮かび上がった広間。広間とは言っても、そう広いわけではない。

別に祭壇があるわけでも、宗教的な品が置かれているわけでもなく、広間の中はガランとした空間が広がっているだけである。しかし、なぜベレデテスがここを『神殿』と言ったかは、分かるような気がした。

壁面。

ドーム状の広間の壁面全てに、絵が描かれていた。

絵の具や塗料を塗ったものではない。恐らく、膨大な数の様々な色の石を集め、それを組み合わせて作り上げたと覚しき、気の遠くなる程の時間と労力を注ぎ込んだものと思われる、壮大なモザイク画。

膨大な数の色の付いた石を組み合わせて作られた、壁画であった。

確かに、これならばかなりの年数が経っても退色しないし、剥がれ落ちた形跡もないことから、ただ板状のタイルを貼り合わせただけではなく、壁に打ち込むなり何なり、何か工夫がしてあるのであろう。ここまで手間をかけた者達が、そのあたりの手を抜くはずがない。

その、あまりにも手間をかけた壁画に驚くレーナ、メーヴィス、ポーリン、そしてクーレレイア博士であった。

そして、口を半開きにして呆けているマイルが驚いたのは、その膨大な手間を想像して、ではなかった。

「な、何ですか、これ……」

他の者達には、こう見えたかも知れない。

ごちゃごちゃと生えた、おかしな植物。

クラゲや魚。ならばこれは海底の絵?

人間、エルフ、ドワーフ、獣人、そして魔族達が仲良くしている、平和への願望を表した絵。そしてその横には、古竜のようにも見える、竜種の姿もあった。

その他、様々な場面、様々な生物、そして、何か分からない、色々なものの絵が、無数の色付き石を組み合わせて壁面に描かれていた。

「幻想的な絵だね……」

「初めて見るわね、こういうの……」

「いつの日か、こんな平和な世界が来ればいいですよね……」

メーヴィス、レーナ、ポーリンが絵に見とれながら言い、クーレレイア博士は、何やら難しそうな顔をして黙り込んでいた。

そして、マイルはと言うと。

「ど、どうしてこんなものが……」

マイルの眼には、その絵は、こう見えていた。

林立する高層ビル群。

上昇する宇宙船。ロケットではなく、『宇宙船』である。

飛び交うエアカーのようなもの。

研究者のような衣服の、数人の大人の人間と、幼児から子供くらいの年齢の他種族の者達。

そしてまるでペットの犬のように、その側で丸まった、小さなドラゴン。

マイルは、何となく理解した。

恐らくこれは、あり得ない情景を妄想して描かれた、ただの空想画ではないのだろうな、ということを。

何者かが、この絵を後世に残さねばならないと考え、そして膨大な時間と労力を、恐らくはその者の残りの人生の殆どを費やして、これを作り上げたであろうことを。

数百年程度であれば、普通に絵を描けば良い。そうすれば、すぐに完成したであろう。

それを、ここまで手間を掛けてこれを作ったということは。

その者は、この絵がいったいどれ程の年月を持ち堪えることを望んだのであろうか。

そして、誰に見て貰いたかったのか……。

マイルは思い出した。

あの時、神様(自称)が言った言葉を。

『実は、あの世界は幾度目かの文明の崩壊を迎え、全ての技術を失い、人間は僅かな生き残りのみとなったため、救済策と実験を兼ねて、通常ではやらない大規模な手出しをしたのですが~』

その「大規模な手出し」というのが、お馴染み、ナノマシン達のことである。

「………………」

そしてマイルもまた、博士と同じく、無言で立ち尽くすのであった。

「では、私達はこれで。皆さんも、早急に撤収して下さいね、人間との揉め事を避けたいなら……」

『待て!』

遺跡の確認を終えて、約束通り引き揚げようとしたマイル達を、ベレデテスが引き留めた。

『我らだけが情報を与えたのでは不公平であるし、我々も上の方に報告せねばならぬのだ。そちらも情報を提供するよう要求する!』

また面倒な、と思うマイルであるが、向こうの言い分も尤もである。彼らも上司に報告しなければならないのであろうから、情報ゼロでは立場がないのだろう。下っ端や中間管理職は辛いのだ。

それに、自分達は人間側として当然のことをしただけであるから、何もやましいことも隠さねばならないこともない。

そう思うと、無下にするのも気の毒に思えた。

「……で、何を聞きたいのですか?」

マイルの言葉に、ベレデテスは、その巨大な指でマイルを指し示した。

『お前だ! お前の正体を教えて貰いたい!』

「「「「え……」」」」

その場にいる全員が、マイルを見た。

特に、クーレレイア博士はガン見である。

仕方ない。

マイルは、古竜ベレデテスのその問いに、正直に答えることにした。

「私の正体、ですか……。分かりました、お教えしましょう。私の正体は……」

レーナ、メーヴィス、ポーリンが息を飲んだ。

「ある時は、子爵家のひとり娘。またある時は、Cランクハンター。しかして、その実体は!」

ごくり、と、クーレレイア博士が生唾を飲み込んだ。

「どこにでもいる、平凡な普通の少女、マイルです!」

『『『「「「「嘘だあぁぁぁぁぁ~~っっっ!!」」」」』』』

総突っ込みであった。

『嘘を吐くな! お前が、ただの人間であるものか!』

「そう言われましても、父親も母親も、代々続いた貴族家の本家筋ですから、少なくとも十世代以内には他種族の血は入っていないと思うのですが……」

『な、何…………』

マイルの言葉に、愕然とするベレデテス。

『た、確かに、人間の臭いしかしないが……。しかし、そんなはずが……』

マイルは、慌ててくんくんと自分の臭いを嗅いでみたが、そう臭くは……、いや、かなり汗臭かった。しかし、それは仕方ない! 仕方ないことなのだ!!

『では、なぜそんなに強い! どうして古竜と戦えるのだ!』

マイルは、ベレデテスのその問いに、びしっと指を立ててドヤ顔で答えた。

「それは、私の魂が震え、心が燃えていたからです!」

『え……。お、お前は、本当に、純血の人間なのか? 実は人外なのであろう!』

マイルは、畏怖に満ちたその問いに、にこやかに答えた。

「あ、ハイ、私、この国の出身じゃないので……」

「それは、『外人』でしょうがあぁっ!」

相変わらずの、マイルとレーナであった。

そして、呆然と立ち尽くす3頭の古竜を後に、『赤き誓い』の4人とクーレレイア博士がその場を立ち去ろうとした時。

どすん、どすん。

何かが木々の間から現れた。

「「「「ろ、ロブレス!」」」」

((((完全に忘れてたよ……))))

仮にも、(時間を稼ぐことによって)皆の危機を救ってくれた恩人に、酷い仕打ちであった。

そして、ロブレスの首に抱きついていた10歳前後の少女がひらりと降り立ち、マイル達の前に駆け寄って、口を開いた。

「わんわん!」

「「「「え、エルシィィィィィィ~~!!」」」」