軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110 魔法戦

マイルは、怒っていた。

衣服も防具も駄目にされ、髪もボロボロになった。

だが、マイルの怒りの理由は、そんなことではない。

友が、仲間が傷付けられた。殺される一歩手前まで行った。そして、もし自分が間に合わなければ、確実に死んでいた。自分を助けようとして、命を懸けて必死に戦ってくれた、仲間達が。

『馬鹿な……。人間が、あのダメージからそう簡単に回復できるわけがない!

お前は……、お前は、一体何者だ!』

古竜の叫びに、マイルは無表情で答えた。

「私ですか? 私は、どこにでもいる、ただの普通の女の子ですよ、Cランクハンターの……」

『嘘だっっ! 化けの皮を剥がしてやる!』

どひゅん!

きぃん!

『え……』

殺してしまっては本当のことを吐かせられないからか、少し手加減したらしい、小さくて爆発性のない炎の塊がマイルを襲ったが、それは簡単に弾かれた。マイルが張った『格子力バリア』によって。

『少し手加減し過ぎたか……。では、これでどうだ』

どひゅん!

きぃん!

『こ、これで……』

どひゅん!

きぃん!

『ば、馬鹿な! ならば、本気で……』

どひゅん!

きぃん!

『…………』

どひゅん!

きぃん!

どひゅん!

きぃん!

どひゅん!

きぃん!

『な……』

「今度は、私の番ですね」

本当の全力で撃った攻撃魔法も簡単に弾かれ、呆然としている古竜に、マイルが宣告した。

そして放たれる、簡易詠唱の攻撃魔法。

「素粒子制御、位相エネルギー整流。位相エネルギービーム、発射!」

ちゅん!

ごく軽い音がして、古竜の肩、と言うか、左の腕の付け根のあたりが撃ち抜かれた。恐らく張ってあったであろう魔法防御など全く関係なしに。

『え?』

状況が理解できず、ぽかんとした感じで口を半開きにした古竜。

竜種の表情など読めないが、今の状態は、誰が見ても「ぽかんとしている」以外には見えないであろう。

そして、一拍遅れて。

『ぎゃああああぁ~~!!』

古竜の絶叫が響き渡った。

なぜ、魔力量で劣るはずのマイルが魔法の撃ち合いで競り勝ったか? そして、なぜマイルが、先程までとは打って変わって余裕のある態度なのか?

それには、ふたつの理由があった。

ひとつは、マイルが怒っていたこと。

あまりの怒りに、恐怖や絶望、そして萎縮や諦めの心など、どこかにすっ飛んでしまっていた。

そしてもうひとつは、マイルが気付いたからである。思ったよりこの古竜との力の差はないのではないか、ということに。

確かに、マイルの能力は、この世界で一番強い古竜の半分かも知れない。しかしそれは、この、目の前にいる古竜の半分、ということではない。

今までのパターンから考えると、恐らく、古竜の中でも最強の古竜と、ほぼ無能力であるモノとの平均値。つまり、最強の古竜の約半分、である。別に、この古竜の半分というわけではない。

もし、最強の古竜がケタ外れに強ければ? もし、この古竜がそんなに強くない部類であれば? マイルとの差は、そう大したことがないのでは?

そしてマイルには、アドバンテージがある。そう、前世における知識と想像力である。

マイルは、46センチ砲の発射シーンも、500キロ爆弾の爆発も、ビーム兵器の威力も、そして核爆発の状況すらイメージすることができる。恐らく本当の核爆発はナノマシンにより拒否されるであろうが……。

この世界の者には想像すらし得ない、強力な攻撃イメージ。それは、圧倒的な優位であった。

また、マイルは、物理現象の原理も、ある程度は具体的にイメージできる。そして多少の不備はナノマシンが自動的にサポートしてくれるはずであった。

つまりマイルは、同じ魔力量の他の者より、遥かに強力、かつ効率的な魔法の行使が可能なのである。そしてその結果が、これであった。

剣士同士の戦いであれば、多少の力量差があっても勝負の行方は分からない。共に、相手の急所に剣が当たれば勝てるからである。弱者によるラッキーヒットもあり得る。

しかし、相手の魔法攻撃は全て弾き返し、こちらの攻撃は、敵のシールドを紙のように貫通する。これでは、お話にならない。

勝負は決まったかに思えた。

だが、その時。

『何を喚いている、 煩(うるさ) いぞ!』

『どうかしたの?』

例の穴から、更に2頭の古竜が這い出てきたのであった。

新たに出てきた2頭の古竜のうち、最初の古竜よりひと回り大きい方の古竜が辺りを見回し、必死でメーヴィスに回復魔法を掛け続けているポーリンとレーナ、そしてその前に立ち塞がり、いつでも防御魔法を発動できるように身構えたクーレレイア博士、そしてボロボロになったマイルを見た後、最初に出てきた古竜を叱責した。

『こら、ウェンス! いつも長老様から言われているだろう、下等生物を虐待してはならぬ、と……、え、虐待されているのは、お前の方なのか?』

貫かれて血を流す古竜、ウェンスの左肩を見て、目を丸くする年上の古竜、ベレデテス。

『あは、あはははは! 面白い! 面白いわよ、ウェンス! 人間に、人間に苛められる古竜!

いつもこれだけ笑わせてくれるなら、お付き合いのお申し込みを断らなかったのに!』

そう言って笑い転げる族長の娘シェララに、ウェンスは肩の激痛も忘れて激昂した。

『くそっ、人間なんかのために、シェララに醜態を……。許さん!』

そしてウェンスは、くわっ、と口を開き、再び全力のブレスを吐いた。

『なっ、やめろ、馬鹿!!』

ベレデテスの制止を無視して、今度は炎の塊ではなく、連続したブレス、本当の『ドラゴンブレス』を全力で吐き続けるウェンス。そしてマイルの姿は、ブレスの炎に包まれて見えなくなった。

『ウェンス、あなた、何てことを……』

ウェンスを揶揄してからかっていた古竜の少女シェララは、ウェンスのまさかの暴挙に顔色を失っていた。人間には分からないが、竜種には明らかに分かる動揺の表情である。人間の少女が、目の前で子猫を惨殺するところを見せられたのに等しい状態であるから、それも無理はない。

『「下等生物愛護法」違反だぞ! 長老様の御指導を……』

ベレデテスがそう言いかけた時、ようやく若い古竜、ウェンスはブレスを止めた。

そして、その視線の先には、無傷のマイルの姿があった。

『馬鹿な……』

『ええっ?』

『何?』

信じられない、という表情のウェンスと、驚きに目を丸くするベレデテスとシェララ。

そしてマイルは、焦っていた。

やっとのことで、何とか逆転できたというのに、古竜が3頭に増えたのでは勝ち目が薄い。

ここは、とりあえず敵の数を減らさねば、と思い、攻撃魔法を放つことにした。狙うのは、マイル達に害意を持っている、最初に出てきた古竜である。後の2頭は、平和主義者っぽいので。

状況的に、殺すのはマズい。とりあえず、好戦的なあの古竜の戦闘力を奪い、何とかあの大きい古竜と話ができる状況に持ち込めれば……。もしそれが駄目でも、もう1頭は小さい。大小1頭ずつであれば、場合によっては勝利の目もあるかも知れない。

そう考えたマイルは、最初の古竜、ウェンスに向けて攻撃を行った。

「……位相エネルギービーム、発射!」

マイルが攻撃の素振りを見せた瞬間、後から出てきた、ベレデテスとかいう古竜が防御魔法を張った。

ちゅん!

『ぎゃああああぁ!』

今度は、ビームが右腕の付け根を貫通し、泣き叫ぶウェンス。

そして、自分の全力の防御魔法をあっさりと撃ち抜かれ、慌てるベレデテス。

『シェララ、俺の後ろに! 落ち着け、ウェンス! 同時攻撃だ!』

ベレデテスは焦っていた。

まさかの、自分達、古竜に危害を与え得る存在。

万にひとつも、シェララに傷ひとつ付けさせるわけには行かない。

怪我は治癒魔法で治せるが、「シェララに怪我をさせた」という事実そのものが、非常にまずい。シェララを危険に晒し、そして痛い思いをさせたとなれば、シェララを溺愛している族長や長老様がどんなに怒り狂われることか、想像するのもおぞましかった。

ベレデテスが手伝ってくれると知り、ウェンスは少し落ち着きを取り戻した。傷は激痛をもたらしているが、後ですぐにシェララが得意の治癒魔法で完治させてくれる。今は、何よりも、不確定要素、危険の排除が優先である。

『ブレス、放射!』

ベレデテスの合図と共に、ベレデテス、ウェンスと、それに加えてシェララも、マイルに向けてブレスを吐いた。

下等生物愛護法?

そのようなものは、相手が無力であり、自分達の思う通りにできる時のみの、「強者の偽善」である。そんなもの、自分達が危険に晒されている時には、簡単に無視される。

いくら強化されたとは言え、マイルの防御魔法(格子力バリア)は、古竜3頭分のブレスを完全に防げる程のトンデモ性能ではなかった。パリ~ン、という音と共に格子力バリアは簡単に砕け、バリアによって僅かに逸らされたブレスがマイルの左腕を掠めた。

「ぐあっ!」

そして、激痛を堪え、マイルは治癒魔法より先に攻撃魔法を行使した。

「エネルギー・ビ~ムっっ!」

きぃん!

しかしマイルの反撃は、古竜3頭分の防御魔法に、簡単に弾かれた。

そして苦痛に顔を歪めるマイルに、再び古竜達からのブレスによる同時攻撃が加えられた。

マイルが咄嗟に張った全力のバリアは、すぐに破壊されはしたものの、ブレスの力のかなりを弾き返した。そしてブレスの残余の力により、マイルは再び後方の遺跡の岩壁へと叩き付けられた。

「ぐはぁっ!」

そしてマイルは、再び地面に倒れ伏した。

……勝てない。

さすがに、古竜3頭に勝てるわけがない。

しかし、だからといって、諦めるのか?

自分の命。そして、みんなの命を。

マイルは、ぎりっ、と歯を噛みしめた。

……よぉし、やってやろうじゃない。

そっちが3頭なら、こっちも3人分の力を出せば良いだけのことだ。

栗原海里。アデル・フォン・アスカム。そしてCランクハンター、『赤き誓い』のマイル。

3倍の力を出せばいいだけのことなんでしょう?

そしてマイルは再び立つ。

3頭の古竜を睨み据えて。