軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107 全力

「はぁはぁはぁ、か、感謝する……」

無事、臭いが消失し、敵同士ではあるが、感謝の言葉を述べる獣人のリーダー。

「ぜぇぜぇぜぇ、いえいえ、ど、どう致しまして……」

まだ、双方ともに完調とは言い難い状態ではあるが、そうそう贅沢は言っていられない。

そろそろ、戦いの開始である。

だが、その前に、メーヴィスがポケットから何かを取り出した。

少し小振りの、カプセル状の容器。そう、マイルから渡された、アレである。

敵の人数が多いため、メーヴィスは遂にこれを使うことにしたのであった。

メーヴィスは、カプセルを握り締めて、 呟(つぶや) いた。

「頼んだぞ、ミクロス!」

そう、メーヴィスは、この容器について、マイルからこう説明されていた。

「この中には、小さな小さな、『気』の力を助けてくれるモノがはいっています。いざという時には、躊躇なく使って下さい」

そして、この世界には『ナノ』に相当する言葉がなかったため、マイルは、代わりに『ミクロ』に相当する言葉を選んで、命名したのであった。

ミクロのモノがたっぷりとはいったスープ。ミクロスープ、略して、ミクロス。

なので、地球の言葉で表現すると『ミクロス』となるが、メーヴィスが実際に喋っている現地の言葉では、意味は同じであるが、発音は異なる。

メーヴィスは、カプセルに祈念の言葉を掛けると、そのフタを捻って開け、中身を一気に飲み干した。

「 EX(エクストラ) ・真・神速剣!」

そしてメーヴィスのその声が合図の代わりとなり、戦いの火蓋が切られた。

戦いが開始される前に、勿論、レーナとポーリンは詠唱を終えていた。

別に、卑怯というわけではない。剣士が戦闘開始の前から剣の柄に手をかけているのと同じことである。

そして当然、接近される前に魔法を放った。

どこの世界に、近接戦闘が得意な敵が接近するのを待ってやる魔術師がいるというのか。

「ウルトラ・スーパー・デラックス・ホットトルネード!」

「「「ぎゃあああああ!」」」

前方の獣人達に向けて放たれた、ポーリンお得意の非殺傷ホット魔法(但し、心は死ぬ)に続き、レーナの魔法が放たれた。

「ウルトラソニック!」

「「「ひぎいぃぃぃぃ!」」」

レーナが『ホット魔法は、味方を巻き込んでも構わない』という恐るべき認識であることを知ったメーヴィスに相談されたマイルが、対獣人用にと、味方を巻き込むことなく獣人のみに効果がある魔法を考えて、レーナに授けたのである。

なにしろ、レーナの攻撃魔法に巻き込まれる確率が一番高いのは、前衛であるメーヴィスなのである。メーヴィスにとっては、文字通り死活問題であり、必死であったのだ。

そして放たれた、人間には聞こえないが、人間より可聴周波数範囲が広い獣人には聞こえる、とてつもなく不快な音波。

獣人達が、耳を押さえて苦しみ、そして人間である『赤き誓い』の4人は、平気な様子で……、

「うげえぇぇ……」

マイルは、湧き上がる不快感に、吐きそうになっていた。

「や、やめ、この魔法、やめえぇぇ!」

マイルの可聴域は、獣人よりも広かった。

「ど、どうして……。練習の時には、大丈夫だったのに……」

マイルが不思議がるが、それは、練習の時にはレーナが前方にのみ意識を集中していたのに対し、今回は全方位に向けて放射したことと、恐る恐る試した練習時と違って、躊躇なしの全力を出したからであった。

獣人達とマイルに大きなダメージを与えた魔法攻撃の第一波に続き、メーヴィスが、ポーリンの攻撃を受けなかった後方、マイルのおかげでようやく数日間に及んだ悪臭地獄から解放された、元追跡部隊第一陣の20人に向かって突入した。

(……軽い! 身体も剣も、風のようだ!)

ドーピング。

そう、大量のナノマシンがはいった『ナノスープ』、いや、『ミクロス』を飲んだメーヴィスは、普段の、自然に体内に取り込まれたナノマシンだけの時に較べ、文字通り、桁違いの数のナノマシンを体内に擁していた。その状態で『真・神速剣』を使ったら。

「EX・真・神速剣!」

さっき叫んだが、メーヴィスはもう一度叫んだ。

そう、大事なことなので。

マイルは、出遅れた。

レーナの魔法、『ウルトラソニック』のダメージが大きくて。

しかし、前方の獣人達は、レーナの魔法だけではなくポーリンの魔法も喰らった連中なので、問題ない。マイルよりも更に出遅れた獣人達は、後衛であるレーナやポーリンに接近する暇もなく、マイルに突入された。

本気のマイルに、速さも力も敵うわけがなく、次々と叩き伏せられてゆく獣人達。

なぜマイルが本気であるか?

それは、戦いが長引くと、レーナとポーリンが、どんな『非殺傷攻撃魔法』を放ってくるか、分かったものではないからである。

『非殺傷だから、味方を巻き込んでも大丈夫!』

これが、ふたりの認識なのだから。

お友達に対してでも、迷わず全力全壊。それが、レーナとポーリンクオリティ。

そこに痺れないし、憧れない。

(……私は、人の限界を超えたのか?)

同じく全力で戦いながら、メーヴィスは考えていた。

今の自分は、恐らく、父や上兄様でさえ瞬殺できる。それが、はっきりと分かっていた。

(いや、これが自分の力ではないことは分かっている。己の気の力を使う真・神速剣は自分の力と言えるが、貰った薬を飲んで得た力は、所詮、仮初めの力。だが、それを承知で、今は全力で戦う!

何しろ……)

そしてメーヴィスは、ちらりと後方を振り返った。

(早く勝負をつけないと、いつ魔法を撃たれて巻き添えを喰らうか、分かったもんじゃない!)

マイルとメーヴィスは、同じようなことを考えながら、必死で戦っていた。

必死と言っても、全力で相手を叩き潰しているわけではない。逆に、なるべく大きな怪我をさせないようにと気を遣っているからこそ、その反応速度や力のコントロールに全神経を集中させていたのである。

そして、レーナとポーリンの攻撃魔法第二波を受けることなく勝敗が着きそうになったその時、それが現れた。

『グルルルルルル……』

発掘現場の中央付近に開いた、7~8メートルくらいの穴。

そこから、1頭の『デカいの』が這い出ていた。

「ち、地竜?」

驚きながらも、即座に攻撃呪文の詠唱を始めるレーナ。

詠唱を終えて保留していた魔法は獣人用に手加減した非殺傷のものであり、ドラゴン相手では何の役にも立たないため即座に破棄し、新たに攻撃魔法を詠唱し直しているのである。勿論、ポーリンもそれに続いた。

マイルとメーヴィスは、残りの獣人に急いで打撃を加えて戦闘力を奪うと、剣を構えてドラゴンに向き直った。

「……炎弾!」

「……ウルトラホット!」

レーナとポーリン、ふたりの攻撃魔法が立て続けに放たれたが、レーナの攻撃はドラゴンの腹に命中して弾けたのに何の影響も及ぼさず、ポーリンの攻撃は、ドラゴンの頭部に届く前に霧散した。

「嘘……」

「そ、そんな……」

いくらドラゴンとは言え、炎弾、それもレーナの強力な炎弾を受けて、ダメージを受けるどころか、怯みもせずに平然としているなど、考えられない。

また、ポーリンの魔法は、届く前にかき消された。そんなことが……。

ドラゴンが全くの無傷であり、自分達に近付いてくること、そして次の詠唱を行うこともなく呆然としているレーナとポーリンを見て、マイルは自分が対処することにした。恐らく、初めて使う、本気の攻撃魔法である。

「……爆裂魔法、シュート!」

ぱぁん!

「え……」

ドラゴンを倒すために本気で撃った魔法が、弾かれた。

そしてマイルがあっけにとられている間に、それまでドスンドスンとゆっくり歩いていたドラゴンが急に俊敏な動きでマイルに迫り、その尾で薙ぎ払った。

「きゃああああぁ!」

ひとたまりもなく吹き飛ばされたマイルは、10メートル程離れた遺跡の岩壁に叩き付けられ、崩れた岩がその身体に直撃した。

「「「マイルうぅっ!!」」」

レーナ、メーヴィス、ポーリンの3人が叫ぶが、今はドラゴンを何とかする方が先である。

3人は、また岩トカゲの時のように無事に違いない、マイルのことだから、と、己に信じさせようとした。それが、望みの薄い願いだと知りながら……。

「ぐあああああぁ……」

身体中に走る、信じられないような激痛。

(痛い痛い痛い痛い痛い!! どうして! 岩トカゲの時はこんなこと……)

転生後は勿論、前世においても味わったことのない激痛。まるで身体中の骨が折れたかのような……、いや、事実、折れているのだろう。折れて砕け、更にその骨が筋肉や内臓を抉り、突き刺している。そうとしか思えない、この激痛。

(どうして……。私は、古竜の半分くらいの頑丈さがあるんじゃなかったの……。それに、どうして魔法が通用しなかったの……)

ドラゴンは向きを変え、全く身動きできず、激痛のため声も出せないマイルに近付きながら、その大きな口を開いた。

『ほう、我の一撃を受けて生き延びるとは……。何者だ?』

「し、喋ったぁ?」

ポーリンが驚愕の声をあげたが、メーヴィスとレーナはその正体に気付き、唇を噛みしめた。

「こ、古竜……」

そう、それは地竜などではなく、力、知能、魔力、全てにおいて世界最強の生物と言われる、古竜であった。マイルが、その力の半分しか持っていない……。