作品タイトル不明
最強の罠
二学期の期末テストという大きな山を越え、冷たくも澄んだ冬の空気が心地よく頬を撫でる。
今年最後の登校日、悠太の足取りはかつてないほど軽やかだった。
第六階層の攻略を果たし、探索者としてようやく地に足がついてきたことへの安心感。
収入も安定し、今年のクリスマスや年末年始は家族とゆっくり過ごせそうだ。苦労をかけてきた母と、いつも明るく支えてくれる妹の結衣。
二人の笑顔を思い浮かべ、どんなプレゼントをあげたら喜ぶだろうかと妄想して独りニヤけながら、悠太は校舎の廊下を進んでいた。
教室の扉が近づくにつれ、廊下まで漏れ聞こえてきたのは大輝たちの賑やかな声だった。
悠太が扉を開けると、一瞬の静寂の後、クラスメイトたちの視線が一斉に彼へと突き刺さった。
「おっ、噂をすれば! 英雄のお出ましだぜ!」
大輝が大袈裟に両手を広げて囃し立てる。教室の中央では、大輝が自分たちのガルーダ討伐がいかに劇的だったかを演説していたらしい。
「いいかみんな、悠太はガルーダが全回復した絶望的な状況で、一人だけ不敵に笑ったんだ。俺たちが諦めて帰還石を握りしめたその瞬間よ。甘露寺がバシッと手を挙げて言ったんだ。――『ちょっと待て!』ってな! これがもう、カッコよすぎだろって剛田と言ってたんだわ!」
「そうそう! あの『待て!』はマジで痺れたよな!」
それに剛田も乗っかって悠太のポーズを真似る。しかし、その表情には今までのような蔑みではなく、明らかな尊敬の念が見て取れた。
「おい、やめてくれよ。あれはみんなのおかげなんだ」
悠太は照れ隠しに苦笑いしながら、仲間の顔を見渡した。
「特に、佐々木さんの最後のアイスランス。あれがガルーダを押し込んだからこそ、最後のスイッチが起動したんだ。佐々木さんがいなきゃ、あの罠は完成しなかったよ」
「えっ……。そ、そうなの? ま、まあ、諦めたらそこで終わりだからね!」
予想外の称賛に、佐々木は顔を赤くしながら嬉しそうに薄い胸を張る。
「それにしてもさぁ」
大輝がニカッと笑い、悠太の肩をワシワシと揉みながら言った。
「あんな最強のスキルを隠し持ってたなら最初から言ってくれよ! あれがあったら、これからどんな敵が出てきたって怖くないぜ!」
「いや……あれはたまたま条件が噛み合って、上手くいっただけだからな。あの罠は発動条件が厳し過ぎるんだよ」
悠太が謙遜するように返すと、大輝は不思議そうに首を傾げた。
「何言ってんだよ。あんな死神呼び出すなんて、どう考えても今のお前の切り札、最強の罠スキルだろ?」
「最強の……罠スキル?」
(今まであまり考えたことがなかった)
大輝の言う通り、ピクトグラムは発動すれば即死確率はおそらく百パーセント。消費魔素量も少なく、ガルーダのように空中や地上に関わらず動き回る敵には相性のいい罠スキルだ。
しかし、発動条件が難しく、必殺スキルとは言い難い。
ウッルの目も出力次第では強力な武器になるものの、視認されるリスクや敵が強くなるほど魔素の消費が膨大になるというデメリットもある。
(うーん、やっぱり最強といったら、あれしかないよな)
悠太は少し考えたあと、穏やかに、そして確信を込めて答えた。
「俺の使える最強の罠は『落とし穴』だよ」