軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.誠意を見せてもらいましょうか

「心を入れ替えたのだ。どうか、俺の誠意を証明するチャンスを頂きたい!」

作戦会議の翌日。

ウォルジー伯爵家が対策を練り終えるよりも早く、ジスランはさらなる厚みを増した二冊目の鈍器を脇に抱え、早馬を駆り、早朝から屋敷へと直接乗り込んできた。

必死の形相で食い下がるジスランに対し、ウォルジー家の面々は冷淡だった。

あいかわらず、おろおろと狼狽えるだけの父を背後に追いやり、女性陣を先頭とした我が家の精鋭たちは、王族を相手にしているとは思えぬほど容赦のない態度で、ジスランの前に立ちはだかる。

「粗大ゴミとして追い出してやる!」

獲物を狙う蛇のように殺気立つ蔓を自在に従え、腕を組んで威嚇するフルールは、一から淑女教育を学びなおす必要がありそうだ。

継母もそれを諫めるどころか、「貴方もやるのよ」と、父に攻撃魔法の準備を急かしながら彼の脇腹を強くつねっている。

だが、そのような不敬極まりない振る舞いも、今のジスランの耳には届かない。

それどころか彼は、私を守るように立ちはだかる家族たちを、どこか羨ましそうに眺めていた。

「俺も……俺もいつか、あの輪の中に入って彼女を守る盾になりたい……!」

「ジスラン殿下、見惚れている場合じゃありません。ほら、早く用件を」

隣で深いため息をついた側近にせっつかれ、ジスランは再びがばりと頭を下げた。

「誠心誠意、貴女に仕えたいと願うこの誓いに偽りはない。だから、もう一度だけでいい。やり直す慈悲を、チャンスを与えてくれ!」

「口先だけなら誰でも言える。我らウォルジー家は実力主義。働かざる者、食うべからず。我が家に『役立たずの飾り物』など必要ないのです」

しかし、そう突き返されたジスランは、絶望するどころか、顎に手を添えて不敵な笑みすら浮かべた。

その灰色の瞳にギラリと異様な光を宿して。

「……なるほど。実力で示せということだな!」

数日後。

再び現れたジスランが携えていたのは、もはや手紙でも鈍器でもなく、膨大な情報を元に緻密に計算された「提案書」だった。

彼はウォルジー領の現状を徹底的に洗い出し、私の長年の懸案だった治水事業の抜本的改革案を含む『ウォルジー領・中期経営計画書』を独力で書き上げて持参したのだ。

王族としての広範な知見を基に、寝る間も惜しんで書き上げたであろうことが一目でわかる情熱的な情報量に、私は思わず目を見張った。

「……私が手を付けられずにいた治水事業に目をつけるなんて。これ、かなり実戦的よ……正直、助かるわ」

思わず素直に感心してしまった私に対し、家族の間には、思いがけない王子の有能さへの嫉妬と動揺が走った。

彼らはそれを打ち消そうと、自分たちが唯一誇れる武器――「現場での実績」という矛を掲げて、必死にジスランを突き放す。

「フン、所詮はペーパーテストに合格したに過ぎないわ。実際に汗を流して働く覚悟がなければ、机上の空論よ!」

「そうよ! そんな綺麗な手をした王子様に、泥にまみれてあちこちを這いずり回る実務なんて、できっこないわ!」

だが、そんな家族たちの淡い抵抗が打ち砕かれ、陥落するのも時間の問題だった。

王族の本気を、舐めてはいけない。

元々、彼は敬愛する姉のために己を磨き続けてきた男だ。

一年前の帝国の後継者争いを機に目的を失い、自暴自棄になっていただけで、その本質は努力の天才。幼少期からの英才教育によって培われた基礎力は、一級品だったのである。

ジスランの勢いは止まらない。

フルールが父に施した地獄の矯正トレーニングを、彼は「これはいい運動だ」と難なくこなし、さらには継母のレンタルドレス事業にもテコ入れを開始。

王宮で眠っていた時代遅れだが仕立ては最高級の令息服を独自のルートで大量に融通し、男性部門の展開を強力にバックアップした。

極めつけは、指示すれば仕事はこなすものの、隙あらば責任から逃げ出そうとする父の存在だった。

ジスランは私が父の扱いに持て余しているのをいち早く察し、手土産の最高級ワインで父の喉を潤し、「これを自領でも開発できれば、好きなだけ飲めますよ?」と、悪魔のように囁いたのである。

父はあっさりとそのニンジンに飛びつき、気づけば彼らは二人三脚で葡萄酒の新規開発に着手していた。

かつての白く美しい指先は、またたく間に無骨な「実務家の手」へと変わり、毎日インクや泥で真っ黒に染まっている。

――そして、気づいたときには。

ジスランは完全にウォルジー家の日常に溶け込み、当然のような顔をして屋敷に住み着いていた。

休む間もなく勤勉に働き、家族の懐にまで巧みに入り込み、私に対してはひたすら柔らかな笑みを向けるジスラン。

当初の困惑こそ消えないものの、真剣な彼を無理やり追い出すほどの嫌悪感は、今の私にはなかった。

それどころか、私が苦手とする中長期的な戦略や各所への根回しを、彼が「待っていました」と言わんばかりに、隙のない立ち回りで先回りして片付けてくれるのだ。

そんな便利……いえ、献身的なサポートを日々受けるうちに、私も徐々に、本当に少しずつではあるが、――彼を信頼するようになっていったのである。

そんな平穏な日々のなかで、目下、唯一の悩みといっていいこと。

……それは、この国の第二王子ともあろう男が、いつの間にか家族たちに混ざって、私のことを「お姉さま」と呼び始めたことだけだった。

一方、その頃。

再度国を追われ、行き場をなくして帝国から彷徨い着いた元王子レオポルドは、ある公爵家の離れにその身を潜めていた。

「……ソフィーは、僕が遅れてきたから怒っているんだろう。いや、もしかしたら帝国で婚約者がいたことに嫉妬しているかもしれない。それとも、久しぶりの再会なのに、薔薇のひとつも用意できなかった僕に呆れていたのかも……」

ぶつぶつと妄想を呟きながら、酒を煽るレオポルド。

生まれながらにして「魔力以外」のすべてを与えられてきた彼は、ソフィーが未だに自分を愛していると、少しも疑っていなかった。

その隣では、かねてよりジスランの婚約者の座を狙っていた公爵令嬢アリアーヌが、苛立ちに任せて扇子を机に叩きつけていた。

「ジスラン殿下が、あんなぽっと出の小娘に執着なさるなんて……。しかも、あの忌々しいレンタルドレス店の娘ですって? 目障りだわ」

彼女は酒に溺れる「元王子」を、汚らしいゴミを見るような目で一瞥した。その口元が醜く歪む。

「帝国から流れてきたこの『粗大ゴミ』に襲わせて、二度と表舞台へ出られないようにしてやればいいのよ。汚れ仕事の使い捨てには、これくらいが丁度いいでしょう?」

薄暗い密室で、追放された男の独りよがりな執着と、高慢な令嬢の身勝手な嫉妬が混じり合う。

ソフィーの知らぬところで、どす黒い悪意が確かな形を成そうとしていた。