作品タイトル不明
06.悪役令嬢は疑問を持つ
メイユイは首を傾げながら訊ねる。
「噂って、どの噂のことでしょう?」
「わたしが気になるのは、リーウェイ殿下のものだな。良い噂を聞かないのに、どうやって参加したのやら」
クラウディアの耳にも好色だと届いているぐらいだ。
近隣国の二人は、リーウェイの人となりをより詳細に把握している。
(あら? でも……)
違和感を覚える。
隣国同士のわりに評価が伝聞だ。
「お二人は、リーウェイ殿下と面識はあられるのですか?」
「いえ……」
「わたしも今日がはじめてだ。父は会ったことがある」
聞けば、あまりに手が早いため、特に女性は距離を置いているとのこと。
「わたくしの兄は会ったことがありますが、私的な交流はありません。会話するだけで後宮へ連れていかれるかもしれないと……なるべく接触は控えるようにお父様から言われています」
メイユイの答えに、クラウディアは少し考える。
三国に上下関係があるとは聞いていなかった。
(要求を断れないほどの力がリーウェイ殿下に? あとで確認を取ったほうが良さそうね)
「今回の参加は大丈夫なのですか?」
「ケントロン国からの招待です。西洋の方々と会える機会ということで許されました」
「教会のお膝元で、さすがのリーウェイ殿下も好き勝手にはできない。これに関しては、教会が約束してくれた」
安全を謳うケントロン国にとって、たとえ王族でも狼藉を許すわけにはいかなかった。
教会の威信を示すためにも。
(ケントロン国は、あえてリーウェイ殿下を招き、行動を直に御することで牽制したいと考えているのかしら)
リーウェイのファンロン王国も枢機卿を招き、執政を手伝ってもらっている。ケントロン国――教会――と軋轢は持ちたくないはずだ。
ミンユーが声を潜める。
「お二人もお気を付けを。教会の目があるとはいえ、リーウェイ殿下は下半身でものを考え、既婚者でも見境ないと聞いている」
思わずパルテ王国の王太子妃と顔を見合わせる。
まぁ大変、とは王太子妃の言葉だ。
「ご忠告を真摯に受けとめますわ」
答えつつ、クラウディアと王太子妃の考えていることは一緒だった。
そんなことになれば国際問題どころか、戦争も視野に入りかねない、と。
船着き場でのアプローチなら許容範囲だが、一線を越える行為は、背負っている国を軽視されているのと同義だ。
ハーランド王国はもちろんパルテ王国も、リーウェイのファンロン王国に国力が負けているとは思っていない。
パルテ王国は小国なりに、自国の得意分野を特化している。ハーランド王国とて軽視できない存在だ。
第一、風紀を乱すことは、教義にも反するのだけれど。
(つくづく問題児として知られているのね)
常識的な行動を求められるなら、メイユイやミンユーもここまで警戒しない。
メイユイもそっと口を開く。
「接触を避けるのは、それだけではないんです。ファンロン王国は病が流行りやすく……大流行した際には、国交を制限するほどです」
これには少し引っかかるものがあった。
流行り病で移動を制限するのは、必要な処置だ。
だからといって罹患していない人を避ける理由にはならない。
現在ファンロン王国で病が流行しているなら、招待は見送られている。
(メイユイ様のショワンウー王国は、病が流行りにくい土地柄だから、忌避感が強いのかしら)
ショワンウー王国に限らず、ハーランド王国北部、アラカネル連合王国は、他の地域と比べて、病気が蔓延しにくい。
ただその代わり、寒さとの戦いがあった。
ミンユーも思うところがあるのか、メイユイにちらりと視線を投げつつ、手で膝を叩いて話題を変える。
「そうだ、噂といえば、これを忘れてはいけない。この島に眠る財宝についてだ。なんでも、それを怪盗が狙っているというではないか」
「怪盗ですか?」
クラウディアだけでなく、パルテ王国の王太子妃も初耳だったらしく聞き返す。
「西洋では活動していないため、ご存じなくとも仕方がない。東洋では最近名を馳せている者がいて、何でも変装が得意だという」
「男性にも女性にもなれると聞いています。変装して侵入するので、捕まえたくても指名手配をかけられないんです。今回が初の西洋進出ですね」
活動範囲を広げるにしても、次の狙いが知られているのはどうしてなのか。
クラウディアが水を向ける。
「その方は、何故ここに興味を持っておられるのです?」
「盗人なんだが、義賊として平民からの人気が高い。盗む相手も汚職など不正に財産を溜め込んだ者から選ぶようでな。耳ざとく、話題に上がるところには必ず姿を現す。その姿が正体不明であるのが、悩みのタネなんだが」
話を聞いて合点がいく。
ナイジェルの隠し財産は、怪盗が狙うのにうってつけなこと。
そして彼の不正は、ミンユーも知っていること。
(教会の関係者から聞いたのかしら)
クラウディアたちにとってナイジェルは悪の権化だが、教会はその事実を公表していない。
とはいえ、完全に秘匿しているわけではなく、あえて口に出していないだけだ。
それをこうして二人が開示するのは、情報を集める力がある証明だった。
「怪盗が狙うくらいだ。財宝には国宝級のものもあると伝わっている」
ミンユーの発言に、メイユイが言葉を添える。
もう紛れ込んでいるかもしれませんね、と。