軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.悪役令嬢は離島と対面する

本島の浜から、おぼろげに見えていた離島の姿がはっきりしてくる。

「これは攻めようがありませんわね」

速い潮流をかいくぐった先に待ち受ける岸壁。

他にも海面の随所から顔を出す岩があり、船頭は不用意に近付かないよう注意を払っている。

操舵の難しさは、素人目でもわかった。

(ベテランの漕ぎ手が必要なのも納得だわ)

潮流と地形、その二つでもって難攻不落と呼ばれる城塞は完成していた。

波で船が揺れる中、トリスタンは目を輝かせる。

「あれが島をまるごと一つ使った城塞都市……」

岩山を切り出して建てられ、岩棚と一体化した城塞。

過去どれだけの人々が、この偉容を見上げて絶望してきたことだろう。

押し潰されそうな威圧感に、思わず溜息が漏れる。

クラウディアたちが城塞に心を奪われていると、船頭が更に島を半周回ると告げる。

「城塞のある丘以外は土の地層でしてね。丘から浜にかけてなだらかな斜面になってるんでさぁ」

船着き場は浜にあった。

船が進み、見える角度が変わってくると船頭の言葉がよく理解できる。

革靴を横から見たような島は、そびえ立つ冷徹な岩棚が途切れると、一転して緑が広がっていた。

草が生い茂る地面の上に、壁が立っている。

斜面は二層に分けて一段ごとに均されており、それぞれにカーテン・ウォールと呼ばれる石造りの壁が外周を囲っていた。

城塞都市にいよいよ上陸するのだと気分が高まる。

クラウディアにとっては、お妃教育で学んできたことを実践する場なのだが、他者にとっては別のことで興味が引かれる場でもあった。

シルヴェスターがふむ、と口を開く。

「果たしてナイジェルの隠し財産がここにあるのか否か」

「財産を守る場所としては最適じゃないですか? 何せ難攻不落と言われるほどですよ」

「有力候補地とされているが、あると決まったわけではないからな」

ハーランド王国で聖女祭が終わりを迎えた頃、異端審問にかけられるべく謹慎中だったナイジェルは、自宅で何者かに襲われた。

意識不明の重体という話だったが。

「まさか、あのまま息を引き取られるなんて思いませんでしたわ」

「異端審問にかけられなかったのが心残りか?」

シルヴェスターの問いに首肯する。

クラウディアとしては、ルキと約束したとおり裁きにかけたかった。

「罪を償わせたかったのです」

「ここが奴の年貢の納め時だったのだ。死後とはいえ、処分は下った」

「そうですわね。除籍されたのが救いでしょうか」

異端審問は開かれなかったが、ハーランド王国などから集められた調査報告により、教皇はナイジェルを教会から除籍した。

遺体は生まれ故郷に帰された。とはいえ、病で村は消え、親族もいない。現地の共同墓地に埋葬されるのが関の山だった。

この報告を受けて、最期はオレと同じ身分になったんだ、とルキは溜飲を下げた。

襲撃の犯人は、まだ見付かっていない。

「教会も一枚岩ではないとわかっていたが、ここまでとは」

最初こそ恨みを持った外部犯が考えられたが、今では内部犯の可能性が高くなっていた。

外部犯では、まず教会に侵入することが難しい。

加えて、教会内部で過激派の存在が浮き彫りになったのだ。

「身内の醜聞をよしとしない人間は、どこにでもいるものですわね」

貴族の中にも選民思想の強い者がいる。

「教会は常に正しい」という考えの者にとって、修道者を率いる枢機卿に異端者――魔女の容疑がかけられるなど、あってはならないことだった。

だが教皇は異端審問を開くことを決めた。

そこで容疑者を消し、異端審問を開かせないという最終手段に出た、という見方が強い。

「計算が狂ったのは、ナイジェルの隠し財産を狙っていた者たちだな」

これまでの経緯から、ナイジェルが莫大な個人資産を持っていることは予想されていた。

クラウディアを陥れるために、船で運ぶ財宝を用意したぐらいである。

教会内外で人を動かすのにも使われていたのではないかと、ハーランド王国は考えていた。

推測に過ぎなかったが、ナイジェルの死後、宙に浮いた彼の遺産を得ようとする者の動きが見て取れ、存在が確定された。

「人を動かすには金が手っ取り早い。操られていた人間からすれば、大本を手に入れたくなるのも道理だ」

だが簡単ではなかった。

ナイジェルは巧妙に財産を隠していたのである。

財産を狙っていた者としては、在処を伝えてから死んでほしかっただろう。

結果的に、ナイジェルの隠し財産については、ある程度周知されることとなった。

「他の参加者たちが、どう考えているのか楽しみだ」

国際会議という名の次世代の王族を集めたパーティーには、見知った顔ぶれも集まる。

それぞれの思惑はどうなのか。

口角を上げながらシルヴェスターは続ける。

「催しも普通とは違い、奇をてらったものだ。これで何も起きないほうがおかしい」

今回の集まりには制約があった。

船で渡れる人数に限りがあることから、国ごとに同行者の数が決められているのが一番大きい。

ハーランド王国の騎士たちは、トリスタンと近衛一人を除き、本島にて待機している。

難攻不落の城塞都市として知られ、安全が確保されているからこそできることだ。

他にも独自に定められた約束事があり、内容を確認したときクラウディアは驚きを隠せなかった。

シルヴェスターが楽しみにするのも無理はない。

クラウディアたちを含め、離島の城塞都市に滞在する者たちは全員、上陸したあと三日間は島外へ出られなくなるのだから。