軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.悪役令嬢は村の片鱗を見る

途中、広場に面する建物の入口が開いているのが見えた。

女性が洗濯物を抱えて出てくる。

「集会所じゃないっぽいね」

一時的に集まる場所なら、洗濯物は出ない。

干されているのは全て子どもの衣服だった。

茶色一色なのは大人と同じだ。

「お忙しいところ申し訳ないのですけど、少し良いかしら? あ、お話を伺いたいだけなので、手を動かしながらで結構です」

手を止めてクラウディアたちを振り返った女性だったが、他の村人同様に嫌な顔はされない。

「何かしら? わたし、難しいことはわからないの」

「いえ、ただ、この建物の用途が気になりましたの」

「なんだ、そんなこと? ここは子どもたちの寮よ。子どもたちは親許を離れて、共同生活をするの。といっても親はすぐそこにいるんだけど」

寝泊まりを別にしているらしい。

だから昨晩、世話になっている家で娘のアイラの気配を感じなかったのだ。

「村の習わしなのよ」

そう言って、女性は話を終える。

どういう意図があるのかは、色々というだけで詳細はわからなかった。女性自身、深く考えたことがないらしい。

広場には柵と同じ背丈の子が六人ほど集まっていた。

五歳ぐらいだろうか。

歌を口ずさみながら的に棒を投げて遊んでいる。

「うーえのくーちはあーさいぞー、しーたのくーちはふーかいぞー」

地面には縦一列に円が三つ描かれていた。

一つ目の円から二つ目の円までには間隔があり、二つ目と三つ目の円は間を空けずに並んでいる。

子どもたちは三つ目の円から二メートルほど離れた位置に立っていた。

順番通り、一つ目の円が上の口、二つ目と三つ目が下の口のようだ。

キールが男の子に話しかける。

「どういった遊びなの?」

「棒を穴に入れるんだよ。穴の中に上手く棒が入ったら、高い点数がもらえるの」

投げていた棒を見せてもらう。

遠目にはただの木の棒に見えたけれど、手の平サイズの棒には装飾が施されていた。

棒は指三本分の太さがあり、第一関節ぐらいのところには一本の溝が横に彫られている。

そして棒の下部にはクルミが二つくくりつけられていた。

棒の全容に、クラウディアはぞっとする。

(嘘でしょう?)

儀式の話を聞いたばかりなのもあって、男性器にしか見えなかった。

それを小さな子どもが握り締めているのだ。

気が遠くなりそうだった。

子どもたちは遊んでいる内容を理解しているのだろうか。

「棒の上のほうに線が入ってるでしょ? 一回目はそれより下まで穴に入れちゃダメなんだ。二回目からは入れてもいいけど、玉まで入ると負けだよ」

他にも、投げる回数や棒が入る角度によって点数が付けられることを男の子は教えてくれた。

ゲームは加算方式で、最後に一番点数の多い人が勝ちだという。

造形に関して、あまりピンと来ていない様子のキールが救いだった。

冷静に耳を傾けている。

(男性の不快な視線からは守ってくれたけど、こういった知識には乏しいのかしら)

多感な年頃ではあると思う。宿屋でもクラウディアたちを意識していた。

あのときは状況や疲れから一緒に寝ないという考えは浮かばなかったけれど。

(振り返ってみると配慮に欠けていたわね)

今になって反省するクラウディアをキールが見上げる。

「ディーさん、これって性交を模した遊びだよね」

「そ、そうね」

ピンと来ていないどころか、キールはちゃんと理解していた。

「これも村の思想に関連しているのかな」

真剣な質問に、彼にとってこれが調査でしかないことを悟る。

村を分析する上で必要な知識としてキールは話を聞いていたのだ。

(動転した自分が恥ずかしくなるわ)

そういえば、と王城の図書館にあった民俗学の本を思いだす。

土着信仰の項目には、自然だけでなく、性器も信仰の対象になると書かれていた。

どちらも人にとって密接なものであり、また切り離すのが難しいものだと。

「情操教育を兼ねているのかもしれないけれど、思想とも結び付いていそうね」

大人がする儀式と、この遊びに関連がないほうが不自然だ。

試しにキールも参加して棒を投げてみる。

すると棒が落ちるのに合わせて、黄色い頭にも何かがべちゃっと落ちた。

鳥のフンだ。

ベレー帽を綺麗に避けて、キールの頭を汚す。

「うわっ、ぼくはなんて運が悪いんだ!」

「え? 白い汚れは運が良いんだよ?」

「え?」

自分とは正反対の子どもたちの反応に、慌てていたキールがきょとんとする。

クラウディアは深く考えないことにした。

「運が良くても、汚れは落とさないといけないわ。水場はどこかしら?」

「それならあっち! 林のほうに泉があるよ」

「ありがとう、じゃあわたくしたちは行くわね」

村に隣接する林へ向かう。

泉は村の入口とは逆方向にあるらしかった。広場から離れて、改めて周囲を見渡す。

少し離れたところに厩舎と思しき建物、さらに遠くには石の建造物が見えた。

「あそこだけ雰囲気が違うね」

キールも同じところに目が留まったようだ。

「あとで寄ってみましょう」

「うん、今は早く頭を洗いたいよ!」

林に入り、土の匂いを感じると、茶色いお下げの子が視界に入った。

世話になっている家の娘だ。アイラ、と呼びかける。

「何をしているの?」

「枯れ葉を集めてるのよ。あとは乾燥した小枝とか。火種に使うの」

広場で遊んでいた子たちとは違い、彼女ぐらいの年齢になると仕事を任せられるという。

「他にも畑の世話や水汲みがあるわ。日中はやることが多いの」

「お疲れ様。本当はわたくしたちもお手伝いしなきゃいけないのよね?」

「あなたたちも村に住むの?」

「このままだと、そうなりそうだわ」

「そう……」

アイラが目を伏せる。

その反応は他の村人と明らかに違った。

「わたくしたちが住むと困るかしら?」

「困るのはあたしじゃないわ」

もっと話をしたかったけれど、アイラを呼ぶ声がする。

「行かなきゃ。あまり大人たちを信用しないで」

そう言い残してアイラは立ち去った。

「彼女だけ毛色が違うわね」

「村が普通じゃないことを察してるのかな?」

もしかしたら彼女になら話が通じるかもしれないと頭の隅に置いておく。

予想していた通り、林の奥は岩肌を覗かせる壁に囲われていた。

「こっちは逃げ場がないね」

「村の立地も閉鎖的なんて……他の村はどうだったの?」

「他はここまでじゃなかったよ。柵はあったけど、土地勘さえあれば逃げられるんじゃないかな」

辿り着いた泉では幻想的な光景が広がっていた。