軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.王太子殿下は国王と対面する

シルヴェスターの来訪が告げられ、少しの間を置いて執務室のドアが開かれる。

シルヴェスターはドアを抜けると、部屋の造りに従い体を右へ九十度曲げた。

吹き抜けのホールになっている謁見の間に比べ、執務室は城内にある一室でしかない。

それでも壁に掲げられた国章の入った垂れ幕に出迎えられ、床に敷かれた上質な紅の絨毯が足音を呑み込むと他との違いを感じさせられる。

向かう正面。

高く昇った太陽を背に、国王はいた。

窓から入る光が瞳を焼く。

所定の位置に着けば、相手が座っているにもかかわらず、見上げているように感じられた。

四十を迎える国王の目元には薄らとシワがあった。黄金を湛える切れ長の目。襟足ほどの長さがある前髪をオールバックにし、執務中ということもあって表情は無に近い。

よく似ていると評されるが、母親の容姿も入っているため、シルヴェスターに自覚はなかった。

手に持っていた書類を脇におき、国王は正面に立つシルヴェスターを見据える。

一瞬たりとも気を緩められない視線を向けられ、纏う空気の密度が増した。

「パルテ王国は落ち着いたか」

「はい、婚約式も予定通りおこなえるでしょう」

本日の用件はそれに尽きた。

結果的に慣例通り、シルヴェスターの学園卒業をもって婚約者は公表されることとなった。

ただクラウディアの基盤が強固になることを国内外へ周知すべく、盛大に開催することを議会へ進言していた。

「その件で一部の者が反対していることは承知しているな?」

「存じ上げております」

経費が増えることへ不満の声が上がっているのだ。

必要性は説いているが、一部の者は強固な姿勢を貫いている。

議会の決定権は国王にあるため、国王の認可さえあれば反対派がいても婚約式は推し進められる。

しかしここで行き着く先にあるものを想像できなければ、権謀術数が張り巡らされた世界で生き残るのは難しいだろう。

王政といえども、貴族なしに政治は成り立たないのだ。

「では、すべきことをせよ」

「おおせのままに」

このようなことで外野に一々口答えさせるな、という意味だった。

過去の婚約式に比べれば動く金額は大きいものの、増税を強いるほどではなく、国の予算からすれば微々たるものである。

(躾ける時が来たか)

王太子といえど、政治の世界では若造にすぎない。皆がシルヴェスターに首輪を着ける機会を狙っていた。

どちらが飼い主か、わからせる必要があった。

(だがこれだけではないだろうな)

何かにつけて越えるべき壁を設定する人だ。

経験上、反対派を抑え付けるだけでは物足りない気がした。

案の定、傍に控えていた文官から書類を手渡される。

「最近、浮上してきた問題についてだ」

軽く目を通し、頭の中にある情報と照らし合わせる。

「不穏分子が集まる村のことですか」

「そうだ。これを解決できなければ、たとえ婚約式を挙げられたとしても前途多難な未来が待ち受けることになろう」

シルヴェスター、と自分と同じ黄金の瞳に射貫かれる。

「我々に平穏というものはない。いついかなるときでも問題は山積みだ。力を示せ。どのような状況下でも、我々に負けは許されない。思い描く未来を、自分の手で勝ち取りなさい」

「お言葉をしかと胸に刻みます」

どれだけ悪意に晒されても、幼い間は一方的に守られる立場だった。

けれど成人してからは守る側に立つ。

誰も非力な人間に守られたいとは思わない。

だから内外に示さなければならなかった。

力を。

できなければ、より強い者に食われて終わる。

終焉は多大な犠牲と共に訪れ、あとには何も残さない。

王族にとって道は前にだけあるもの。

どんな壁が立ちはだかろうとも進むしかないのだ。

この荘厳な城で産声を上げたときから、シルヴェスターに用意された道は一つだけだった。

後ろを振り向くことも、立ち止まることも許されない。

ただ、ひたすら、前へ。

進め、と黄金の瞳が語る。

同じ人生を歩むからこそ紡がれる言葉に、否はなかった。