作品タイトル不明
04.悪役令嬢はパルテ王国の使節団を迎える
パルテ王国の使節団が王都入りしたのに合わせて、王城では昼に歓迎パーティーが開かれることとなった。
ラウルやスラフィムといった王族を迎えるものよりは小規模だが、今回は有力家族の令嬢が同行しているため、クラウディアをはじめとする貴族令嬢の参加も多い。
おかげで使節団の入場前にもかかわらず、あちらこちらで話の花が咲いていた。
いつもの面々に囲まれたクラウディアも例に洩れず。
ルイーゼが扇を軽く顎に当てながら小首を傾げると、長い金髪が肩からさらりと流れ落ちる。
「ご令嬢がお一人だけ使節団に同行するなんて珍しいですわね?」
「わたくしの知っている限りでは、はじめてのことだわ」
「オレの国でも使節団への同行者はなかったな」
「ハーランド王国にしろ、バーリ王国にしろ、使節団の目的は明確ですからね」
ラウルのあとにレステーアが続く。
みんなあえて口には出さないが、使節団の目的は傭兵の売り込みと防衛費の要求に尽きた。
「以前、訓練を視察させてもらったが、随行した騎士が引くレベルだったぞ」
「あれを職業軍人ではなく、国民全員がおこなっているんですから驚きです。武功が大陸中に広がるのも納得できますよ」
ラウルとレステーアはパルテ王国を訪問したことがあるという。
「オレは絶対、あの訓練には参加したくない」
「視察向けにいつにも増して厳しかった可能性は否めませんけど、パルテ王国の人々を見れば鍛えているのは一目瞭然ですからね」
現に今までの使節団員もみな筋肉隆々で、そのまま戦場に現れても違和感がなかった。
パルテ王国の最大の売りは「戦力」だ。
老若男女問わず国民全員が戦士という特異な理念の下、戦場における士気の高さは他国の追随を許さない。
戦場では誰もがパルテ王国の戦士と相対するのを忌避する。
パルテ王国は自国の強みを理解し、他国へ傭兵を派遣していた。
またパルテ王国から南西部には中小の国々が乱立しており紛争が絶えなかった。
ハーランド王国にとっては、パルテ王国が紛争の飛び火を防ぐ壁になっている形だ。
傭兵は必要なくとも、壁として機能しているのだから防衛費の一部を負担してもらうのは道理だろう、と交渉するのが使節団の目的である。
そこへ令嬢が加わる必要性はないのだ。
クラウディアがルイーゼとお揃いの扇を揺らす。
空気が拡散され、ふわりとバラの香りが漂う。いつも身に着けている香水は、マリリンの店で調香してもらっているクラウディアのお気に入りだ。
「何か新しい提案があるのでしょうね」
「みなさん、その話題で持ちきりですの~!」
シャーロットがぴょこんとピンク色の頭を弾ませて答える。
どうやら周辺の話し声に耳を澄ませていたらしい。
ルイーゼも気になっているらしく、クラウディア同様に扇を揺らした。
「ベンディン家といえば、パルテ王国の有力家族の中でも上位に位置します。パルテ王族とも親しい間柄なのを考えれば、想像は膨らむばかりでしょうね」
「貴族階級でいえば、公爵に近い家柄だと聞きましたの~」
パルテ王国は近隣諸国でも珍しい、民主制国家だ。
政治の決議は国王と、国民から選ばれた議会員たちによる議会でおこなわれ、国王一人に決定権があるわけではない。
シャーロットの言葉にラウルが頷く。
「貴族制度がないと言っても議会員のほとんどは有力家族の者たちだ。歴史ある有力家族ほどその実態は貴族と大差ないからな」
「ラウル様は、ニアミリア様とご面識はないんですの~?」
クラウディアといれば必然的にラウルと過ごす時間も長くなるおかげか、一年前は萎縮していたシャーロットも今では普通に会話できた。
(分け隔てないラウル様のお人柄も大きいのでしょうね)
シルヴェスターを前にすると緊張して動けなくなっても、ラウルになら話しかけられるという者は案外多い。下級貴族ほどそれが顕著だった。
「視察のときは別の令嬢に案内を受けたから、ニアミリア嬢とはないな」
「ちなみに有力家族のご令嬢ともなると流石に訓練は優しくなるので、シャーロット嬢のご想像とは違うと思いますよ」
訓練が免除されるわけではないところにお国柄が出ているが。
使節団に同行している令嬢、ニアミリア・ベンディンの容姿も話題の的だった。
何せ、老若男女問わず国民全員を戦士とうたう国だ。
令嬢も男と見紛うほど体格が良いのではと誰もが一度は考えてしまう。
レステーアに思考を読まれたシャーロットは羞恥に頬を染めた。
「あはは、つい~」
「ぼくたちの知っているパルテ王国の方々はみんな逞しいですからね。そう考えてしまうのも頷けます」
隣国ではあるものの、国の規模からどうしてもバーリ王国やアラカネル連合王国へ交流が片寄ってしまうのだった。