軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37.物言わぬ人形のような

王妃様はずっとここに閉じ込められたまま、何を思っているのだろう。

年に1~2回、公式行事に顔を出すだけ。それって生存確認のようなものよね。何の役割も無く、ただ王妃として存在するだけ。忘れた頃に倉庫から出して、少し愛でたら片付けられる人形のようだ。私なら気が狂ってしまうわ。

「眉間にシワ。あとが残るよ」

アルフォンソ様は普段と変わらない。

……でも本当に?ついおかしな所が無いかとジッと見つめてしまう。

「君は心配性だね。でも大丈夫だよ、何を言われても私は変わらない。そもそも親には何も期待していないから」

「それはそれで問題だけど。分かったわ、作戦を成功させることをまず考えなきゃね」

「ガラン達も近くで待機している。大丈夫、心配するな。今は危機を感じない」

「わ、便利」

そう言ったら笑われた。本当に笑顔が増えた。どうかこの笑顔が消えませんように。

そして、本当に何の問題もなく、王妃の部屋まで来ることができた。危険探知機が優秀過ぎる。

ううん、たぶんそれだけじゃない。国王はクローンを生み出すことに全てを懸けている。

本来いたであろう王妃宮の護衛達すら、自分達の守りに付かせているのだろう。現に王妃の部屋の前には護衛が一人だけ。それも宰相閣下の手の者だ。

ここは人が住んでいる気配が薄い。まるで大きな棺のようだわ。本当に王妃様が生きているのか心配になってしまう。

「母上、アルフォンソです。お願いがあって参りました」

「……どうぞ、お入りなさい」

静かな 応(いら) え。アルフォンソ様に続き部屋に入る。

王妃オフェリア様。華奢な体躯ではあるけれど、凛とした佇まいからは、軟禁され虐げられているとは思えない、王妃としての威厳がある。

……本当だわ、アルフォンソ様と似てるわね。

少し憂いのある墨色の瞳。でも、彼と同じで何か決意を秘めているのを感じる。

「母上、私はすべてを終わらせたい。お願いします、国王を討つための力を貸してください」

「……そう」

その表情には何の動揺も見られない。

「国王は私を殺す為にグラセスと組みました。いえ、同盟ではないのでただの傀儡かもしれませんが。

グラセスは生命の契約魔法を使用しましたよ」

ピクッと王妃が反応した。やはり王妃は知っているのね、契約魔法のことを。

「そして今、私の妻に自分のクローンを産ませようとしています。たぶん、今後も自分が王として君臨するためでしょう。

私はこれ以上あの男が私欲の為に国を貪るのを許す事ができません」

アルフォンソ様の話を聞いても、王妃様はほとんど表情が動かない。

「……その子は?」

突然王妃様が私を見た。

なぜ今?とは思うけど、名乗ってすらいなかったことに気が付いた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はウルタード国の医療魔法士、ルシア・オルティスと申します。アルフォンソ様の友人として共に参りました」

他国の人間が味方な理由がこれしか思いつかなかったけど、友人だなんて挨拶は失礼だったかしら。

少しドキドキしたけれど、王妃様が初めて目元を緩められた。

「……そう、アルフォンソのお友達なのね。こんな所まで来てくれてありがとう」

まさかお礼を言われるとは思わなかった。

「そして、あのオルティス家の令嬢なのね。

生命の契約魔法に気付いたのはあなたかしら」

「はい。文献のみでの知識でしたが、なんとか対応できました。

ご安心下さい、死者は出ておりません」

まさか我が家をご存知だなんて。

「すごいわ、あなたは優秀な魔法士なのね。あれは止めることが困難な魔法なのに」

「同僚に解呪が得意な者がおります。私一人では絶対に無理でしたわ。

……あの魔法は王妃様が教えたものですか?」

ほぼ間違いがないとは思うが、真実を知らずに話を進めることはできない。

「……そうね。私が知る魔法のすべてをあの人が望むまま授けたわ」

「なぜそのようなことを……契約魔法は禁術です。王妃様が知らないはずは無いのに!」

「なぜ……そうね、ただ私が愚かな女だったからよ」

そう言って微笑む王妃様は乾いた悲しみが見えた気がした。泣いて泣いて泣き尽くして……涙が枯渇したような、そんな笑み。

「母上、伝染病に見せかけて人の命を奪う魔法はありますか?たぶんその魔法は前辺境伯夫妻を殺し、今またバレリアノの民を殺そうとしています。どうか見分け方と治療法を教えてください」

「……あの人に禁忌魔法の知識を授けた私が、今更あなたに正しい答えを教えると思うの?」

「はい。後悔……しているのでしょう?」

後悔していてほしい。罪を償ってほしい。

……あぁ、だから王妃様は王妃宮での軟禁を甘んじているのだろうか。己の罪を償うために。でも、

「王妃様。ここに閉じ篭っていても罪は消えませんよ」

「……手厳しいのね」

「前辺境伯の御子息のラファエル様は、もうすぐ5歳の男の子ですっごく可愛いんです。

でも、年の割には会話が少し拙くて。なぜか分かりますか?ご両親が亡くなった時のショックでしばらく声が出なくなったせいです」

この話を聞いた時、本当に驚いた。

あんなに可愛らしい天使にそんな過去があるとは思わなかったから。

今の彼は、リカルド様やバレリアノの皆の愛情によって回復したのだろう。それでも。傷は癒えても無かったことにはならない。

「精神的なものが原因で起こる失声症は医療魔法では治癒できません。魔法は万能ではないのです。

禁忌魔法は掛けられた人の命だけでなく、残された人達まで傷付けるのです。

それを迂闊に人に教えてしまったあなたに優しくはできません」

前辺境伯の件はアルフォンソ様の心も傷付けたはず。リカルド様とラファを大切にしている彼が平気なはずが無いもの。

それにあなたは許されることを望んではいないでしょう。きっと裁かれたかったはずだわ。

「……ルシアさん、ありがとう。アルフォンソは良い友人を得ましたね」

「はい、素敵な人でしょう?」

いや、なぜ私を褒める流れに?

「今までごめんなさい、アルフォンソ。あなたに全てを話すわ」