軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3.王宮から追い出されました

1ヶ月なんてあっという間ね。

通常業務の合間に引き継ぎ資料の作成、担当が替わる挨拶回りをし、出国手続きにも時間がかかるためこちらも大急ぎで進め、家に帰れば荷造りとエルディア医療の勉強もする。

もう全っっっ然時間が足りない!

デートだなんて浮かれていたのは最初だけだった。まあ、久しぶりに二人でのんびりできて楽しかったけど。それに。

そっとピアスに触れる。シルバーとサファイアが綺麗。まるで彼みたい。

「防御の魔法が込めてあるんだ。俺だと思って毎日付けていて。本当は指輪にしたいけど、仕事の邪魔になるだろ?」

あれからスッと胸の 支(つか) えが取れた気分。私も単純だわ。

嬉しくて、つい鼻歌を歌いながら魔法陣を編んでいく。

体力回復。精神疲労軽減。乗り物酔い軽減。長い道程だからと馬車に回復魔法を掛けていく。

もちろん事前に了承は得ている。防御魔法を邪魔しないのならとお許しをいただけた。

そんな無能なことはしませんよっと!

よし、完成。

「ありがとうございます。これだけの台数に掛けるのは大変でしょう」

「いえ、物に掛けるのは人体に掛けるよりよっぽど楽なのでへっちゃらですよ」

「なるほど。さすがですね」

「ありがとうございます。これで全部終わりましたので鑑定お願いできますか?」

「はい。ああ、いいですね。キレイに掛かってますし、もともとの防御魔法にも問題無いですね」

鼻歌を聞かれたのは恥ずかしいけれど、褒められると悪い気はしない。

「普段は回復魔法はかけないのですか?」

「そうですね、いままでは防御面ばかり気にしていました」

「まあ、回復魔法はお薦めですよ。今回の旅でお気に召したらまたご依頼下さい」

ついつい営業をかけてしまった。でも本当に便利なのよ。体力の無い女性には特におすすめなのよね。

私は侍女の方達と同じ馬車に乗せてもらう。

せっかくだから体調のチェックもさせてもらおう。

知らない方ばかりだもの。少しでも仲良くなれるといいけど。

結果、回復魔法は大変喜ばれた。やはり長時間の馬車移動は苦痛だったらしい。

セシリオは護衛として王女殿下の側にいるため、会える時間が少ない。話せる人が増えて本当に良かったわ。お陰様でそれなりに楽しい旅になった。

でも、楽しかったのはここまでだった。

「私だけ移動とはどういうことですか?」

「あなたはクラウディア様の嫁入りとは無関係。クルス卿の同伴を断られたと聞いていますが?」

エルディアの事務官らしき男が愛想笑いひとつなく、横柄に指示を出して来た。

「ただの医療魔法士としての研修ならば、王宮への滞在は許可出来ません。

今から寮に案内します。彼について行ってください」

確かに、そう言われてしまうと従うしかないのだろう。

「あの、クルス卿に」

「彼は護衛騎士ですよね。あなたはその仕事を邪魔されるのですか?」

「……いえ、申し訳ありません」

なぜこんなに敵意を持たれているの?

エルディアの王宮に着くなり追い出されるなんて思わなかったわ。あの陰険事務官め。毛根死滅の魔法を掛けてやりたい!

心の中で罵倒しながら表面上は大人しく従う。ここで喧嘩してもどうしようもない。だが、案内された場所を見て更に驚いた。

「……あの、本当にここですか?」

「何か問題が?」

「先程の説明ではこちらは男性寮なんですよね?本当に問題が無いと思われますか?」

「仕方がないでしょう。我が国の医療魔法士に女性などいません。それを分かっていて来たのではないのですか?」

院長大変です!女性が少ないのではなく、まさかのゼロですって!

「連絡に行き違いがあったようですね。しかし、男性寮での寝泊まりは致しかねます。

もしここで何か問題が起これば、こちらを勧めたあなたにも責任がかかると思いますよ?それでもいいとおっしゃるなら、どうぞ置いて行って下さい」

さあどうする?じっと睨み合う。

チッ、と舌打ちが聞こえた。

「なら国に帰ればいいだろう。こっちは腰掛け女に教えることなんかないんだよ!」

毛根死滅とあとは何を掛けよう。不能かな。

もうやっていいかな。いいよね?

「なんだ、そのブサイクな顔は。女の癖に本当に生意気だなぁ。ああ、だから嫁の貰い手がなくてここで働こうとしているのか?」

ニヤニヤした顔が本当に腹立たしい。なぜ初対面の人間にここまで言われないといけないの。

「……男のくせにギャーギャーうるさい」

「は?」

「ピヨピヨ 囀(さえず) ってあなたこそ女なの?格好悪いわね」

ごめんね、私は短気なの。目の前の男を睨みつけながら自分の体に魔法を掛ける。筋力アップの重ねがけ。

男は思った通り殴りかかって来た。

そんな大振り当たってあげない。でも、少しだけかすらせる。じゃないと正当防衛にならないもの。

当たった肩がビリビリする。本気でやったな!

そのまま思い切り男の腹を殴る。う~~、手が痛い!でも、それで終わらず急所を蹴り上げた。まあ不能にはならないでしょ。

私だって治癒院で酔っぱらいや荒くれ共を相手にすることもある。お上品なだけではやっていけないのだ。

「お前達は何をやっている!?」

騒ぎを聞きつけて人が集まってきた。

「彼が殴りかかって来たので対処しました」

私の肩にはアザができているだろう。ちゃんと証拠有りだ。

セシリオに貰ったピアスの魔法が発動しなくて本当によかったわね。

でも、やり過ぎたかな。さっきの筋力アップの重ねがけのせいで節々が痛い。絶対に明日は筋肉痛だわ。