作品タイトル不明
第98話 北海道が生んだ大スター
北海道函館市。
街の中心部からほど近い場所に、その緑溢れる広大な公園はあった。
五稜郭公園だ。
江戸時代末期に要塞として建設されたのが五稜郭で、その最大の特徴は美しい星形のデザインだろう。
幕末期には旧幕府軍と新政府軍による、箱館戦争の部隊にもなった歴史的な名所である。
公園として整備されて以降、大勢の観光客が訪れ、公園内を自由に散策することができるようになっているが、現在はその一画が閉鎖され、立ち入り禁止エリアとなっていた。
というのも、ダンジョンの入り口が出現してしまったせいだ。
クラス8、五稜郭ダンジョン。
地下40階まで存在する高難度ダンジョンである。
ダンジョン入り口を囲うように作られた武骨な建物には、24時間常に人が滞在している。
ただ、管理庁の職員がいる日中と違い、夜は警備員が一人いるだけで、探索者がダンジョンに入ることはできない。
「ふあああ……まだ二時か。朝まで長いな」
深夜。
一人で警備に当たっていた中年男性が、事務室で大きな欠伸を噛み殺す。
手には携帯ゲーム。
勤務中にゲームなんて……と思われるかもしれないが、暇潰しの道具がなければこんな仕事なんてやってられないだろう。
一応、思い出したように建物の内外の様子を映すモニターを見たりもするが、先ほどからその光景は一切変化がない。
この時間帯はダンジョン入り口のある部屋の扉が施錠されている。
そのため、もし日中にダンジョンに潜った探索者が戻ってきたら、扉を開けに行かなければならないのだが、記録によると現在このダンジョンに潜っている探索者は一人もいなかった。
朝までひたすら暇を潰すだけの仕事だ。
男は再びゲームに没頭することにした。
ドンドンドンドン!
どこからともなくそんな音が響いてきたのは、朝の五時ごろのことだった。
気づいたら転寝をしてしまっていた男は、慌ててモニターへと視線を向ける。
「……は?」
ダンジョン入り口のある部屋に設置されたカメラ。
そこから送られてくる映像に映っていたのは、入り口から続々と這い出してくる大量の魔物の姿だった。
最初は何かの見間違いかと思った。
あるいは、夢でも見ているのかもしれないと現実逃避しそうになる。
ドンドンドンドン!
「この音……まさか、魔物が施錠された扉を叩く音!?」
慌てて事務室を飛び出すと、すぐ近くにあるその扉を確認する。
ドンドンドンドン!
明らかに内側から誰かが叩く音だ。
幸い非常に頑丈に作られた扉で、簡単に破ることはできないはず。
ドンッ! ドンッ! ドオオオンッ! ドオオオンッ!
「音の質が変わった!?」
再びモニターを確認した男は絶句する。
先ほどは上層の魔物ばかりだったというのに、入り口から中層の魔物が姿を現し始めていたのだ。
恐らくそのうちの一体が、扉を破壊しようとしているのだろう。
男は恐怖のあまり何度も転びそうになりつつ、緊急通報ボタンを押した。
オペレーターと繋がるなり、声を震わせながら叫ぶ。
「た、た、た、大変だっ……ダンジョンからっ……魔物が出てきたんだあああああああっ!」
◇ ◇ ◇
「というわけで、今回は仙台にやってきました」
〈待ってた〉
〈東北へようこそ〉
〈おっ、良い眺望〉
〈仙台の街並みやな〉
〈ということは仙台城跡か〉
〈まさかあの偉人!?〉
「はい、ご推測の通り、仙台城ダンジョンに潜る予定です。どんな偉人を仲間にできるか分かりませんが……まぁその可能性は高いかもですね」
〈仙台城ダンジョンはクラス7〉
〈さすがのニシダも日帰りじゃ難しくね?〉
〈明日も定休日にする気ならすでに告知してるだろ〉
〈いい加減、休み増やしてのんびり旅行でもしてくれてええんやで〉
「はは、心配してくれてありがとうございます。でも英霊召喚のお陰で、割と余力が出てきましたので」
〈さすが激レアスキル〉
〈こんな方法でアルバイトを増やすとはいったい誰が想像できたか……〉
〈絶対に参考にならない人手不足の解消法〉
〈田中正憲のことも忘れないでやってくれよw〉
「あ、そうですね。田中くんの存在も本当に助かっています。今日も実は裏でミノタウロスとハイオークを狩りにいってくれてますし」
〈さすがやな〉
〈田中正憲マジで有能じゃん〉
〈てか、函館ヤバいことになってね?〉
〈何の話だ?〉
〈ダンジョンから魔物が出てきたってニュースやってる〉
〈それマジ?〉
「……?」
ちらりと目に留まった何やら不穏なコメント。
俺は思わず反応する。
「函館というと、五稜郭ダンジョンですか?」
〈ほんとだニュースで出てきた〉
〈え、ダンジョンから魔物が出てくることあんの?〉
〈ごく稀に発生するらしいぞ〉
〈確か迷宮崩壊って言うんだっけ?〉
俺も慌ててネットニュースを確認してみる。
するとすぐにそれらしきものが目に入った。
「迷宮崩壊……その名の通りダンジョンが崩壊に向かい、ダンジョン内の全魔物が外に逃げ出してくるというものです。日本では過去に例がありませんが、海外では五例ほどあったはず……」
そのうちの三例は、クラス4以下の低難度ダンジョンだったため、探索者たちが懸命に魔物を掃討して大きな被害が出ずに済んだ。
だが残りの二例は、クラス6とクラス8。
とりわけクラス8のダンジョンが迷宮崩壊を起こした例では、数千人規模の人が亡くなる大災害クラスの被害が発生したという。
「五稜郭ダンジョンは……まさにそのクラス8……」
〈数千人規模!?〉
〈オワタ〉
〈北海道在住の俺、無事終了する〉
〈いや待て。北海道には彼女がおるやろ〉
〈北海道が生んだ大スター〉
〈ま、まさかっ……小泉洋!?〉
〈タケアンドトムかな?〉
〈サブちゃん?〉
〈彼女っつってんだろwwwwwww〉