軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第88話 ハゲじゃないの

江の島ダンジョンのボスを討伐すると、若い女性が現れた。

そして彼女は自らのことを北条政子と名乗った。

〈ファッ!?〉

〈ほほほ、北条政子!?〉

〈え、マジ?〉

〈あの尼将軍の?〉

〈誰? 有名?〉

〈いつの時代の人?〉

〈知らんやつおるんかwww〉

〈日本史ちゃんと勉強しとけよ〉

〈平安時代末期から鎌倉時代初期の人よ〉

〈鎌倉幕府を作った源頼朝の奥さんやで〉

〈イイクニ作ろうの?〉

〈今はイイハコ作ろうやで〉

北条政子と言えば、源頼朝の妻で、頼朝の死後には鎌倉幕府の実権を握った人物だ。

鎌倉にゆかりのある人物が、この江の島ダンジョンに現れたのは、恐らく偶然ではないだろう。

〈北条政子ってハゲじゃないの?〉

〈俺もそのイメージ〉

〈実際はこんな美人やったんやな〉

〈ハゲっていうか頭剃ってたんやろ〉

〈教科書とかに載ってる写真がそれだからなぁ〉

〈出家したのは頼朝が亡くなってからのはず〉

〈それまでは髪あったってことか〉

〈尼さんになったの40半ばくらいじゃね?〉

〈みんな詳しいなぁ〉

〈若い頃の姿で現れてくれてよかったなwww〉

「西田様、わたくしを解放していただきありがとうございます」

そう言って俺に深々と頭を下げてくる北条政子。

「ダンジョンに囚われていたってどういうことだ?」

「はい。この鎌倉の地で静かに眠っていたのですが、いきなり呼び起こされたかと思うと、この迷宮に引きずり込まれてしまったのでございます」

〈ダンジョンができたときから?〉

〈だいぶ長く囚われてたんやな〉

〈時間感覚が俺らとは違いそうだけど〉

〈せっかくだから当時のこと聞いてみて〉

〈頼朝はどんな人だったかとか〉

〈歴史家垂涎のスキルじゃん〉

「北条政子って言ったが……生前は何をしていたか覚えているか?」

「いえ、生憎と何も覚えていないのです。随分と昔のことでございますので」

〈覚えてないんかーいwww〉

〈覚えてないなら仕方ない〉

〈歴史家たち涙目〉

〈当時から800年くらい経ってるしなぁ〉

〈お前ら美人に優しくて草〉

〈てか、本当に北条政子なのか? 異世界の不思議パワーが作り出した偽物じゃね?〉

〈まぁその可能性はなくもない〉

「わたくしを解放していただいたお礼に、いつでも力をお貸しいたしましょう」

〈これは……〉

〈おいおい〉

〈え、つまりこれからニシダはいつでも美人人妻を呼び出せるってこと?〉

〈ニシダ裏山杉〉

〈あんなことやこんなことも命令したら何でも応じてくれるんかな?〉

〈夜のお手伝いもOKなん?〉

〈お前ら英霊に不敬すぎて草〉

〈英霊だかなんだか知らんけど私の神オヂから離れろブス〉

〈神オヂネキ!?〉

〈生きとったんかワレ?〉

〈まだ捕まってなかったのか……〉

「本当か? 実はぜひお願いしたいことがあるんだ」

「何なりとお申し付けください」

〈もちろんエロいこと……じゃないだろうなぁw〉

〈ニシダだからな〉

〈え、まさかとは思うが……〉

〈英霊にそれをさせる気?〉

〈てか、普通に最初からそう言ってたからなぁ〉

〈それはそれで不敬で草〉

「うちの飲食店を手伝ってほしいんだ」

〈やっぱり〉

〈マジか〉

〈ヤバ過ぎ〉

〈おいおい相手は北条政子だぞw〉

〈偉人にアルバイトさせるとか草〉

〈時の最高権力者がアルバイトwww〉

〈これが諸行無常ってやつ?〉

「飲食店……でございますか?」

「ああ。っと、もしかしたら茶屋とでも言った方がいいか」

「なるほど、茶屋でございますね」

〈飲食店は通じんのやな〉

〈当時は飲食店とかなかったから〉

〈現代語は通じるのになwww〉

〈確かにそれは謎〉

「人手が足りずに困っているんだ」

「そうでしたか。もちろん、わたくしに否やはございません」

「本当か? それは助かる」

〈採用決定!〉

〈北条政子、従順すぎやろw〉

〈日本三大悪女の一人なのになぁ〉

〈普通にええ子やん〉

〈神オヂが採用しても私が許さんのやが?〉

〈何でお前の許しを得なくちゃなんねぇんだよw〉

翌日の開店前。

俺は英霊召喚を使い、北条政子を呼び出した。

「おはようございます、西田様」

「おはよう。というわけで、今日からぜひ頼みたい」

「はい、お任せくださいませ」

恐らく英霊召喚のスキルのお陰だろうが、非常に従順なようだ。

相手は歴史上の偉人、しかも時の政権を裏から支配する尼将軍と称されたほどの人物なので、こちらの要求を突っぱねてくる可能性も考えていたのだが……。

「とはいえ、茶屋のお手伝いはしたことがございません。上手くお力になれるかどうか……」

不安がる彼女だが、俺は「心配ない」と応じつつ、頼もしい先輩アルバイトを紹介する。

「やり方は全部、彼が教えてくれるから」

「ど、どうも初めまして。田中正憲と言います」

戸惑いながらも自己紹介する田中正憲。

それから俺にだけ聞こえるよう、こっそり耳打ちして、

「昨日の配信、見てましたけど、まさか本当に北条政子をバイトにするなんて。さすがは師匠ですね。やることのスケールが大きくて感服します」

なぜかやたらと俺のことを称賛してくる。

「ですが、大丈夫ですかね? ご本人もおっしゃってますけど、接客とかできますかね? 生前の身分的にあまり動けそうな印象はありませんし……しかもうちは割とハードですよ」

「その心配はもっともだが、まぁ難しそうならレジでも担当させるから」

ちなみに召喚中は魔力を消費するが、このくらいなら余裕で丸一日は維持できるだろう。

こうしてうちの店に新戦力が加わったのだった。