軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第75話 豆腐ぐらい柔らかくなったな

転移トラップでの時短を繰り返し、俺たちは地下43階に辿り着いていた。

『ここまでにかかった時間はたったの4時間……やはり信じられないほどの探索速度ですね……』

ドローンの越しに驚嘆の声。

かなりいい感じで最下階近くまで来ることができたようだ。

「それにしても……なんて美しい景色なんでしょう」

地下43階の光景を前に、飯島氏が感嘆している。

それにメルシーズの面々も同意し、

「確かにめちゃくちゃ幻想的ですね」

「あれ全部水晶? 凄い奇麗」

「歌舞伎町ダンジョンの深層ってこんな感じなのか……」

そこには巨大な水晶が無数に乱立する神秘的な光景が広がっていた。

「同じ深層でも下に行くほど水晶が大きくなっていくんだ」

ここ43階ともなると、数十メートル級の水晶は当たり前、中には数百メートルにも及ぶものもある。

〈その辺の水晶を適当に採掘して持ち帰っただけで相当な値段になるんじゃね?〉

〈それが世界中に似たようなダンジョンがあるから水晶の価値が暴落してるらしい〉

〈なるほどw〉

水晶の柱の隙間を縫うように、地下43階を進んでいく。

もちろん景色は美しいが、魔物は凶悪さを増している。

「「「ワオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」

水晶の影から咆哮と共に飛び出してくる複数の影。

それは無色透明な身体を有する狼たちだった。

クリスタルウルフだ。

全長は三メートルほどと地下40階以降の魔物としてはそれほど大きくないものの、この水晶の森の中で高いステルス性を有する上に、その俊敏な動きと高度な仲間との連携で探索者たちを苦しめる厄介な魔物である。

「ちぃっ、こいつらの身体、なんて硬さしてやがる!?」

「身体が水晶でできているからな」

「単に透明なだけじゃねぇのかよ!」

ダメージをなかなか与えられず、Sランク探索者の天童奈々ですら悲鳴を上げる。

〈ニシダだけ普通に包丁で斬ってるんだが〉

〈さすがw〉

〈けど、どんどん集まってくるな〉

「「「オオオオオオンッ!!」」」

さらにクリスタルウルフが厄介なのは、次から次へと仲間を呼ぶ点だ。

放っておくと何百体という数に囲まれて詰んでしまう。

「うちに任せといてー」

相変わらず暢気そうな声でそう告げた本願良子が、クリスタルウルフに防御力低下のデバフをかけた。

「っ……攻撃が通るようになったぜ!」

「ギャンッ!?」

天童奈々の剣が、軽々とクリスタルウルフの身体を斬り裂く。

「確かに豆腐ぐらい柔らかくなったな」

「いやそこまでじゃねぇよ!?」

「「「ワオオオンッ!!」」」

すると狼たちが何かを示し合わすように吠えたかと思うと、一斉に本願良子に躍りかかった。

〈本願良子を先に倒すべきと判断したんか〉

〈めっちゃ賢いな〉

〈さすが狼〉

〈深層の魔物ヤバ過ぎだろ〉

「良子さんが狙われてます!」

「くっ、間に合わない……っ!」

慌ててメルシーズの面々が救援に向かおうとするが、狼の群れの方が速い。

「大丈夫、心配は要らないよー」

しかし四方八方から迫りくる透明な狼を前に、当の本人は余裕だった。

手にした錫杖を構え、豪快にぶん回す。

「「「ギャウンッ!?」」」

狼たちがまとめて吹き飛ばされた。

〈強っ!?〉

〈え、彼女って回復役だよな?〉

〈なにあのパワー〉

〈狼たち割と大きいのに……〉

「ふふふ、伊達にSランク探索者やってないよ? 良子ちゃんは近接戦闘もできるのだー」

満足そうに勝ち誇る本願良子。

恐らく自分自身に身体強化のバフを重ね掛けしているのだろう。

そうしてクリスタルウルフの群れを蹴散らしたところへ、ドスン、ドスン、と。

地響きのような音と共に何かが近づいてくる。

やがて巨大な水晶の向こうから姿を現したのは、身の丈20メートルを超える巨人だった。

〈デカッ〉

〈巨人族かな?〉

〈サイクロプスじゃん〉

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「「「~~~~~~~~~~ッ!?」」」

サイクロプスが強烈な雄叫びを轟かせた。

飯島氏、そしてメルシーズの面々がその場に尻もちをつく。

「あ、あ、あ……」

「うぁ……」

「か、身体……が……」

サイクロプスの咆哮をまともに浴びると、一時的に〝恐怖〟の状態異常にされてしまう。

力の差が大きい場合は完全に動けなくなってしまうし、そうでなくてもステータスが大きく低下してしまうのが厄介だ。

「ちっ、身体が重てぇな」

「うざい魔物ですわね」

「こういうメンタルに作用する状態異常って、魔法じゃ解けないんだよねぇ」

Sランク探索者たちもその影響を受けている。

直後、サイクロプスが跳躍した。

〈は?〉

〈跳んだ〉

〈この巨体で?〉

〈踏み潰されるぞおおおおおっ!?〉

サイクロプスの落下地点にいたのは、メルシーズの面々である。

「よ、避けろおおおおっ!?」

「「「うわああああああっ!」」」

ドオオオオオオオンッ!!

「あ、あれ?」

「生きてる?」

「なんか暗いけど……って!?」

サイクロプスの巨大な脚が踏みつけていたのは、俺が咄嗟に展開した結界だった。

〈ニシダの結界魔法じゃん〉

〈あんなデカいのに踏まれてもビクともしてねぇ〉

〈さすがの強度だな〉

〈てか、そのニシダはどこに?〉

〈上だ!〉

俺は跳躍し、サイクロプスの顔の目の前にいた。

サイクロプスの弱点は一つしかない目だ。

俺は包丁をその眼球に突き刺し、さらにそのまま奥にある脳まで貫いてやった。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

断末魔の声を上げながら巨体が盛大に倒伏する。

〈瞬殺かよ〉

〈……やっぱニシダは次元が違うよな〉

〈ここ地下43階だぞ? 本来ならSランク探索者でも苦戦するはずだろうに……〉

「た、助かりました」

「まさか一撃で……」

「やっぱり強すぎますね……西田さんがいればどんな状況でも大丈夫な気がします」

メルシーズの面々が礼を言ってくる。

どうやら恐怖からは解放されたらしい。

〈これは間違いなくニシダに惚れた〉

〈女性陣の二人が?〉

〈男性陣の三人もな〉

〈男たちもかよw〉

〈分かる。俺も男だけどニシダには惚れる〉