軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 さすが大手事務所

金本美久はアイドルだった。

山道シリーズと呼ばれているアイドルグループの一つ、鳳凰山38の第四期としてデビューし、今年で三年目を迎える。

グループ内でもトップクラスの清楚可憐な容姿に加え、歌とダンスにも定評があり、仕事への熱意も人一倍。

当然ながらデビュー時から注目度の高かったメンバーの一人で、いずれはグループを引っ張っていく活躍をするだろうと、運営もファンも大いに期待していた。

しかしデビューから二年が経ち、美久は思いのほか伸び悩んでいた。

何度か選抜メンバー入りはしているものの、立ち位置は後ろの方ばかりで、同期のライバルがすでにセンターを務めていることを考えると、正直その実績はパッとしない。

コアのファンはいるものの、一般人からの認知度は低いままだ。

そんな彼女が覚醒者であると分かったのは、半年ほど前のことだった。

「私、ダンジョン配信やりたいです」

ちょうどダンジョン配信でバズるアイドルが増え始めた頃で、これが飛躍のチャンスだと確信した美久は事務所にそう訴えた。

無論、ダンジョン配信は死のリスクと隣り合わせのもの。

山道シリーズは現在の日本の女性アイドル界を牽引すると言って過言でもないトップアイドルグループであり、事務所としてはそこに所属するタレントを簡単に危険に晒すわけにはいかない。

事務所はなかなか首を縦には振らなかったが、最終的には美久の熱心な説得に折れた。

一級の装備品を支給し、探索者経験のあるマネージャーをつけるなど、最大限の安全配慮によりダンジョン配信を許可したのだ。

人気絶頂中のアイドルグループのメンバーがダンジョン配信を行うとあって、世間で大いに話題となった。

チャンネルを開設しただけで、一気に登録者数が30万人を突破したほどだ。

だが彼女の配信は、ただの話題先行では終わらなかった。

元より容姿に恵まれていたアイドルが、華麗に魔物を屠っていく様が、視聴者たちを魅了したのだ。

剣だけでなく魔法の才能もあった彼女の得意属性は「光」。

光を纏って輝く剣を振るう姿はまるで戦乙女で、白と青を基調にした彼女の装備もそれに拍車をかけた。

さらに彼女はアイドル活動との二刀流でありながらメキメキと力をつけていき、たった半年でFランクからDランクにまで昇格してみせたのである。

気づけば登録者数は100万人を突破。

配信をすれば同時接続者数が10万人を超えるほど。

この日も配信前からすでに待機者が5万人もいた。

「やる気カナ~? 元気カナ~? 笑顔カナ~? みんなを元気いっぱいにしちゃう系アイドル、鳳凰山38の金本美久だよ!」

お決まりの挨拶と共に、美久は配信をスタートさせる。

「えー、本日は立川にある立飛ダンジョンに挑戦したいと思います! クラス4のダンジョンなので下層までありますが、もちろん金本が潜るのは中層までです!」

〈待ってました〉

〈美久ちゃん頑張って!〉

〈本日も神々しい〉

〈眩し過ぎて直視できぬ〉

〈性格も明るくて好き〉

女性人気も高い彼女のファンは割と民度が高く、コメント欄の内容も比較的温和だ。

〈もう中層にチャレンジしてるんだ〉

〈Dランクだけど、近いうちにCランクになれるって言われてる〉

〈さすが美久ちゃん〉

〈マネージャーさんも頑張って〉

〈Bランク探索者をアイドルの専属マネージャーにするとか、さすが大手事務所〉

マネージャーが同行していることは視聴者も周知の事実だ。

基本的には美久が一人で魔物を倒していくが、危ない状況のときはマネージャーが加勢することもあった。

〈加賀さん超美人だしねぇ〉

〈たまにちらっと映るけど、人気が出るのも頷ける〉

〈そりゃマネージャーの私設ファンクラブができるわな〉

〈元は有名パーティのメンバーだったらしい〉

加賀麗華という名のその女性マネージャーも、アイドルに負けないルックスの持ち主で、実は密かにファンが急増していたりする。

「はぁっ!」

「ギャッ!」

上層の魔物はすでに美久の敵ではない。

あらかじめ中層までの最短ルートを頭に入れていることもあって、探索は順調に進み、やがて中層へと続く階段へと辿り着いた。

「立飛ダンジョンの中層は、地下6階から。つまりここから先が中層ってことだね。魔物も上層とは比べ物にならないくらい強くなるので、気を引き締めていくよ!」

すでに何度か中層に挑戦している美久だが、油断はしない。

今回の配信では、中層では最も低難度の地下6階の探索を小一時間ほどやって終わるつもりだった。

しかし中層の探索を始めてからすぐに異変に気がついた。

「魔物が全然見当たらない?」

「……確かに変ですね。何か嫌な予感がします」

マネージャーの麗華もそれに同意する。

〈何かのイレギュラー?〉

〈こういうときってマジでやばいんだよなぁ〉

〈美久ちゃん気を付けて!〉

〈いやむしろ引き返した方がいい〉

〈だな。少しでも危ない要素があったら探索を中止するのがセオリー〉

〈おいおい、さすがに慎重すぎだろwww〉

〈まだ美久ちゃん見てたいよー〉

視聴者たちの意見が割れる中、麗華はすぐに決断した。

「美久、戻りましょう。せっかく中層まで来ましたが、何かあってからでは遅いです」

「うーん……でも、今回の配信は新曲発売直前で、すごく重要なものだし……」

一方でもう少し様子を見ようというのが、美久の主張だった。

もうすぐ発売される新曲ではこれまでの頑張りが評価されたのか、ついにフロントメンバー入りを果たした美久だ。

この新曲へ賭ける想いは、人一倍強かった。

「わたくしにとっては美久の安全が第一です」

「マネージャーのあなたの立場も分かるけれど……今日だけは譲れないわ」

「……分かりました。少しだけですよ。何かあったらすぐに引き返しましょう」

「ありがとう」

どうにか麗華を説得した美久は探索を再開。

しかし麗華の危惧が現実となってしまったのは、それから僅か数分後のことだった。

「ブモオオオオオオオオオッ!!」

「っ!? ミノタウロス!? 何で中層に!?」

本来なら下層にしか出没しないはずの牛頭人身の魔物、ミノタウロスに遭遇してしまったのである。