軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 かわいい姪っ子にそこまで言われたら

その後も水沢氏は店を頻繁に訪れ、俺を昇格させようと説得を試みてきた。

部下の阿武隈氏はお役御免になったのか、初回以外は同行していない。

「Sランクになれば、ダンジョン税が現在の20パーセントから5パーセントになります。これは世界基準で見ても非常に低いものです」

「そもそも俺は金儲けをしようと思ってるわけじゃないんで」

「年金も大幅に増額されるので将来も安泰!」

「増額されてもたかが知れてるでしょう」

「だったらせめてAランク!」

「それも遠慮します」

「世界中でバズった探索者をFランクのままにしておくなんて、国の威信にかかわるんですよおおおおっ!」

「そんなこと言われても」

何度説得されても俺は首を縦には振らなかった。

Sランクになると様々な恩恵があるのは確かだが、国の強制招集などに応じなければならないなど、デメリットも大きいのだ。

俺はあくまでお店のためにダンジョン配信を始めただけだからな。

ちなみにこの数日間に、自衛隊や警察などの政府機関や民間企業、研究機関、探索者事務所、宗教団体に加えて、他国のエージェントなんかも俺をスカウトしにきたが、すべてお断りさせてもらった。

しかしそんなある日のことである。

「やっほー、賢一おじさん、久しぶり~」

「那乃葉じゃないか。久しぶりだな」

閉店後に店を訪ねてきたのは俺の姉の娘、つまり姪っ子の那乃葉だった。

実家のある広島の四年制大学を卒業し、この四月に上京して就職したばかりで、今は仕事を覚えるために随分と忙しくしていると聞いていた。

多摩地区ではあるが俺も都内に住んでいるので、落ち着いた頃にご飯でも行こうとは伝えていたが、突然の訪問に驚く。

しかもお店の方に来るとは。

「てか、スーツ?」

「そそ。実はまだ仕事中なの」

「もう9時過ぎだぞ? 忙しくしてるんだな。もしかして夕食はまだなのか?」

「うん」

「なら食べていきな」

「え、いいの? やった! おじさんのご飯おいしくて大好き!」

「はは、一応これでもプロの料理人だからな」

「でもその前に、一つ話があって」

「話?」

「あ、これ、私の名刺」

そう言って那乃葉が手渡してきた名刺に書かれていたのは、迷宮管理庁の文字だった。

「え? 迷宮管理庁?」

「うん、私の職場」

「は?」

予想外の情報に思わず言葉を失う俺。

「どこぞの省庁に入ったとは聞いていたが……まさか、迷宮管理庁だったのか?」

那乃葉は昔から優秀な子だったが、公務員の中でも難易度の高い中央省庁に就職するなんてと驚く。

しかもそれが迷宮管理庁だとは。

「ダンジョンに関わる仕事は人気で、かなり倍率が高いはずじゃないのか?」

「運がよかったんだよ」

「運だけじゃ入れないだろ。てか、迷宮管理庁というと最近おじさんも縁があってな」

「知ってるよ。だから来たんだもん」

「へ?」

那乃葉は人懐っこい笑みを浮かべつつ、こんな時間にスーツ姿で俺の店を訪ねてきた理由を明らかにした。

「実は私が姪ってことが職場に知られちゃって。それで上から頼まれたの。おじさんを説得してこいってね。ほんとは部署が違うんだけど」

「そうだったのか」

「大変な仕事でしょ。だっておじさん、梃子でも首を縦に振らないから水沢部長が頭を抱えてたよ。長官どころか、担当大臣からもせっつかれるしどうしたらいいんだって」

「俺は見ての通り料理人が本職だからなぁ」

食材調達のためにダンジョンに潜っているだけである。

「けどまぁ、那乃葉の頼みなら仕方がない。いいぞ、Sランクになっても」

「え、いいの?」

「ああ。かわいい姪っ子にそこまで言われたら」

「そこまでも何も、まだ頼む前だったけどねぇ」

那乃葉は苦笑してから、

「というわけで、おじさん、Sランクになってくれるみたいですよ、水沢部長」

「早すぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

絶叫しながら水沢氏が店に入ってきた。

「今ほんのジャブを入れただけだったよねぇぇぇっ!? 何でそんなにあっさりOKされるの!? 私のこの数週間の頑張りの意味は!?」

外で俺と那乃葉のやり取りを盗み聞きしていたらしい。

そりゃ知らない中年男性と姪っ子の頼みじゃまったく違うだろ。

「あはは、だから言いましたよね、水沢部長。おじさん、昔から私には激甘だから、余裕でOKしてくれるって」

「まさかここまで叔父バカとは……」

少し呆れたように呻く水沢氏。

聞こえてるぞ?

……まぁ自覚はある。

子供のいない俺にとって、姪っ子 た(・) ち(・) は目に入れても痛くないほどかわいい存在だからな。

「その代わり彼女のこと、職場でよろしくお願いします。いじめやパワハラなど絶対に許しませんので」

「は、はい、もちろんです」

「ちょっ、おじさんっ、もう私、子供じゃないんだからさ」

ほんのちょっと強い口調で言うと、那乃葉が顔を赤くして割り込んできた。

「そ、そうか……そうだよな、うん……」

怒られて落ち込む俺。

確かに彼女はもう立派な社会人、しかも高難度の試験を潜り抜けた国家公務員だ。

俺が余計な口を挟むようなものではなかったなと反省する。

「彼女は期待の新人ですし、うちとしても丁寧に育てていきたいと考えております。叔父様もぜひ彼女の成長を見守っていただければ」

俺の姪っ子溺愛っぷりに頬を引き攣らせつつ、そう請け負う水沢氏だった。