軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06.咲耶、兄の魔法に度肝を抜かれる

《咲耶Side》

わたしは 霧ヶ峰(きりがみね) 咲耶(さくや) 。十五歳、高校一年生。

義理の兄がいる。

霧ヶ峰(きりがみね) 悠仁(ゆうじ) 。四月生まれの十六歳。

わたしは三月生まれで、ほんの少しだけ年が近い。

本当の父は早くに亡くなり、母は今のパパと再婚してわたしを連れて嫁いだ。

それが今の家族形態――だったけれど、その母も、妖魔に討たれて……だいぶ早くに逝ってしまった。

「はっ……!? こ、ここは……」

「お、目が覚めたか、咲耶」

……ここは、わたしの部屋だ。

『おねえさまぁ~~~~~~~~~っ!』

ひらひらと一匹の蝶が近づく。

この子は、わたしの式神―― 帰蝶(きちょう) 。

『うわぁん! おねえさま無事でよかったですのぉ~~~!』

「ごめんね……帰蝶。心配かけちゃった」

『うぅ……わたくし、すっごく心配してましたの。あの変な男が、おねえさまに傷を癒やすふりして、変な術を使ってましたから!』

「傷を癒やす……」

はっと額と肋骨を触る。

「!?」

――嘘でしょ。額は深く切れていたはずだし、肋骨も折れていたのに。

「変な術とは失礼な。治癒魔法をかけただけだよ」

「……魔法」

魔法なんて、アニメや漫画やゲームの中だけの話。

現実にあるはずもない――そう思ってきた。

けれど、骨も傷も、もう元通りになっている。

『信じられませんわ……傷を一瞬で治すなんて』

「なんだ、治癒術的なもんはないのか?」

「あるわけないでしょ。お兄ちゃん、現実でそんな奇跡の技、見たことある?」

「いや……ないが」

「でしょ?」

お兄ちゃんは目を丸くしている。

『おねえさまっ、何をのんきにしゃべってますの!』

帰蝶がわたしの目の前で滞空し、声を張る。

『こやつ、妖魔が化けた姿かもしれませんわ! それか……大妖魔!』

「……」

最初はそう思った。けど――

「ううん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。悪い人じゃない」

『そんな!? どうしてですの!?』

「だって怪我を治してくれたし。もし敵なら、気を失ってる間に殺すでしょ?」

『そ、それは……』

敵には見えない。目の前のお兄ちゃんは、わたしの知ってる優しいお兄ちゃんだ。

『で、でもっ。じゃあこの男は何者ですの!? 魔法なんて使える人間、見たことありませんわ!』

――そう。お兄ちゃんはお兄ちゃん。でも、わたしの知ってるお兄ちゃんは魔法なんて使えない。

「お兄ちゃん……教えて。その魔法、どこで覚えたの?」

「あー……それはだなぁ」

そのとき――

「それは我から説明しよう」

ぱぁっ、とお兄ちゃんの手が輝き、光が膨れ上がっていく。

「ちょ!? なに!?」

みしみしみし……ドガァアアアアアアン!

「な……!?」

『りゅ、竜ですのぉおおお!?』

目の前に現れたのは、巨大なドラゴン。

「おいー、魔王。何してんだよ」

「ま、魔王!?」

『すまない、大きすぎたな。では……』

再び光に包まれ、姿は紫髪の美女へと変わる。胸より顔が小さい、グラビアも裸足で逃げる爆乳ボディ。

「これでよし」

「服着ろおまえ……家も壊して……【 修復(リペアー) 】」

壊れた家が一瞬で元通りになる。

『信じられませんわ……封絶界内部でもないのに……』

そうだ。お兄ちゃんは妖刀すら修復してしまったんだ。家くらい造作もないのか。

「大丈夫か二人とも!? 大きな音が――」

「!? パパ……!」

「あ、だ、大丈夫だって親父……」

「いや大丈夫って……」

「咲耶の部屋で映画見ててさ。爆音でイヤホン抜けちゃって」

苦しすぎる言い訳。普通なら即バレだ。

「そ、うか……気をつけなさい」

……あれ? 全裸美女がいても、驚かない? パパ、なんか変だ。

「今の何?」

「【 記憶改竄(メモリー・リライト) 】の魔法だよ。催眠状態にして特定の記憶を上書きできる」

「…………」

信じられない。そんなお手軽便利魔法……わたしたちが必死に秘密を守ってるのが馬鹿みたい。

「相変わらず勇者は多才じゃのぅ」

全裸美女――いや魔王が、お兄ちゃんを勇者と呼んだ。

「……どういうこと? 勇者って」

「ああ、まあ話せば長くなるけど……」

「うん」

「俺、異世界に召喚されて勇者になって、魔王倒して戻ってきたの」

……全然長くなかった。

「それ……ほんとなの?」

『嘘ですわ! そんなこと現実にあるわけ……』

お兄ちゃんは頭をかき、「いや異能バトル漫画から出てきたような君らが言う?」と返す。

「まあ、見てもらったほうが早い。【 記憶投影(メモリー・プロジェクション) 】」

その瞬間――

「あ、あたまがぁああああああああ!」

『おねえさまぁあああああ!? 何してますの!?』

「いや、五年間の異世界での記憶を咲耶の脳に流してるだけ」

『それ最終奥義ですわよ!?』

「いや、無属性の便利魔法だけど」

――やがて。わたしは理解した。お兄ちゃんは本当に異世界で勇者をやっていた、と。

「ほーら、頭痛が一瞬で消えるよ~」

「……ありがと、お兄ちゃん……ぐしゅん……」

気づけば膝枕されていた。懐かしくて、暖かい――久しぶりの感覚だった。