軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十八話 王城での謁見

ナダール領での戦いから約二週間後。

ライノール王国王太子セイランは、ミルドア平原での初陣を圧倒的な勝利で飾り、近衛たちと共に王都へと凱旋。王都の大通りには臣民が溢れんばかりにつめかけ、その勝利を大いに慶賀した――

王家の活躍を書き留める記録書には、そう記されたという。

当然、王都はセイランの話題で持ち切りだ。

卑劣な裏切りに手を染めた悪徳貴族を、その手で見事に討ち果たした。

前線でも勇猛果敢に闘い、敵の首級をいくつも挙げた。

諸侯をまとめ指揮を執り、奇想天外な策によって討伐軍を勝利へと導いた。

などなど。

果ては剣の一振りで大地を割っただの、王家の魔法で千人以上の敵を屠り去っただの。

バイアスがかかったせいか、話を盛大に盛ったからなのかはわからないが、本来の話に、尾ひれに背びれ、胸びれ腹びれ尻びれまで付いて伝わっている。

しかし、どれもこれもがセイランを称えるものばかり。

しかも、すでにセイランの武勇譚やセイランを主役とした劇も作られているのだとか。

他にも、戦で大いに活躍したルイーズの名声もぐんと高まり、その一方で、ボウ伯爵はといえば、敵前逃亡だけでなく、味方に被害を出したこともあって、処罰の対象になったらしい。

バルグ・グルバの影響であるため、少し可哀想な気もするが、しかしそればかりは仕方のないことだろう。

軍家貴族は戦で禄をいただくものだ。

ならば、戦いを拒否するということは、その在り方を放棄することでもある。

となればこれも、当然の処遇だと言えるだろう。

一方でアークスはと言えば、セイランの凱旋に遅れること一週間。

城塞都市ナルヴァロンドでの治療と静養を終えて王都に戻り。

現在伯父のクレイブ・アーベントと一緒に、ライノール王国王城の控え室にいる。

こんな場所を訪れた理由は、もちろん謁見をするためだ。

王都に戻って早々、クレイブに呼び出されるなり、

――陛下が是非お前の顔を見てみたいってご所望だ。

そんなことを言われ、国王シンル・クロセルロードおよび、王太子セイラン・クロセルローとの面会に臨むことになった。

いまは貴族が好む伝統的な服装に身を包まれたアークス。

ボトムスはハーフパンツスタイルで、足下はハイソックスとソックスガーターを着用。

足にあてがった編み上げブーツはよく磨かれて、黒真珠のような光沢を放ち。

トップスはジャケット、シャツの襟もとは細いリボンで留められている。

背中には借り物である装飾煌びやかな藍色のマント。

左腕は当然、動かないのでだらりと下げられたまま。

携行品は、とある資料が収められた鞄が一つ。

そんな服装でこれから国王シンルとの初顔合わせだが――気分はまるで油を差し忘れたブリキの人形だ。

緊張で身体が固まり、関節が思うように動かせない。

指一本動かすのにも、相当の労力が必要なほど。

一方で、伯父クレイブはと言えば、いつものよう。

葉巻を乱暴に咥えてふかしながら、手元の紀言書に目を落とし、 頁(ページ) をパラパラ。

そんな伯父を、緊張の面持ちで見上げる。

「お、お、お、おおお伯父上? 大丈夫でしょうか……?」

「あ? 大丈夫って、何がだよ?」

「それは、謁見が、と言いますか」

「大丈夫じゃねぇか? そんな気にすることはないと思うぜ?」

「ですが……」

クレイブはそう言うものの、こちらはあまりの緊張で胃が痛い。

以前ナルヴァロンドでセイランに謁見したときも随分と緊張したものだが、今回はそれ遙かに超えている。

なにせ、これから会うのはこの国の最高権力者だ。

一挙手一投足に気を付けなければ、何が起こるかわからないし。

そもそも下級貴族の、それも廃嫡された子弟などほぼ平民と同じようなものだ。

ただ偶然にお目にかかるならまだしものこと、こうして正式に面会するなど、立場を考えるなら決してあり得ないことである。

当たり前だが緊張しないわけがない。

クレイブはそんなこちらの内心を見透かしたのか。

「会った瞬間取って食われるわけでもねえんだしよ」

「でしょうけど……こう、国王陛下って気分で臣下を罰するとか、ありませんよね?」

「いまのところ気分で、罰を与えたことはねぇな。ま、よく斬首とか言い出したりするが」

「ざん、ざん、ざん……!」

「ああ」

クレイブは、そんな空恐ろしいことを口にする。

そういえば以前、魔導師ギルドで魔力計を発表した際、国定魔導師の一人であるメルクリーアが「斬首斬首されてしまうです」とかなんとか言っていた記憶がある。

……もしかすれば、本当にそんなことが。

そう考えると同時に、控え室のソファから立ち上がった。

「伯父上、また日を改めましょう。今日は回れ右です」

「バカ。そっちの方が失礼だっての」

「首は人にとって大事なものです。命にかかわります」

「命にかかわらねぇ生き物がいるならお目にかかってみたいもんだな。いいから座れ」

「いえ、なんていうかもう胃腸が死にそうでして……」

「仕方ねぇ。お前の胃腸は諦めろ。世の中切り捨てることも大事だ」

「胃腸を切り捨てたらこの世界では生きてはいけないですってばー!」

泣き言をぎゃんぎゃん言っていると、王城に務める官吏が扉を開けて入ってくる。

「準備が整いました。どうぞ」

官吏が手短に口にしたのは、そんな絶望の宣告だった。

「ああ、ついに来てしまった……」

官吏の背中を見送りつつ、頭を抱えていると、クレイブが呆れたように言う。

「お前な、こんなのいつか来るってわかってた話だろ? 覚悟を済ませておかなかったお前が悪い」

「だってこんなに早く来るとは思いませんでしたし」

「いつ何が起こるかわからないから、準備しておく、っていうのは、お前の口癖だったと思っていたけどな?」

「そもそも準備期間が足りません。子供には圧倒的に時間がない」

「自分のこと子供って言うなら、もっと子供らしくしやがれ」

「はい! ぼく、アークス・レイセフト、じゅうにさい!」

万歳をして冗談を言うと、ゴンっ、頭頂部を殴られた。

「伯父上、痛いです」

「ふざけるからだ。まったく……」

確かに今回ばかりはおふざけが過ぎているのかもしれない。

だが、こうでもしていないと、ストレスとプレッシャーで精神がやられかねないのだ。

ある程度のおかしなテンションは目こぼしして欲しかった。

「そろそろいくぞ」

クレイブの言葉を受け、控え室を後にし、国王シンルの待つ王座の間へ。

……いつものように肩に軍服を引っかけた出で立ちのクレイブ。

王城の廊下だというのにもかかわらず、気後れもせずに堂々と歩くその姿は、とても頼もしい。

城内で働く官吏や文官貴族、そして武官貴族までもが、すれ違うたびに彼に対して恐縮した態度を見せている。

これが国定魔導師の威厳というものなのだろう。

まとう威風もそうだが、魔導師が尊ばれる傾向にあるこの国だからこそというのもあるのかもしれない。

……そのせいで、魔力が少ない貴族は見下されるということも考えられるが。

ともあれそんなクレイブの背中からちょこちょこと顔を出しながら、突き当たりの部屋にたどり着く。

王座の間は明るいものだとばかり思っていたが、その予想に反して部屋は暗がり。

天井はひたすらに高いのと暗がりのせいで、まるで星空のようにも感じられる。

脇には水路が敷かれており、その下からは輝煌ガラスが青い光を放ち、他にも各所に間接照明が置かれている。

王座の間という威厳が必要な部屋にしては、随分とおしゃれな内装だ。

ふいにテーマパークを思わせるような、ストーリー性まで感じられる。

だが、王座の間という体裁はきちんと保たれているようで。

部屋の奥は数段高く、スキップフロア程度の高低差が存在。

ナルヴァロンドに即席で作られたセイランの御座所よりも、倍以上の高さがあった。

しかも、段の下から王座までは、かなり距離が開いている。

段上には御簾が掛けられ、その奥にかすかにだが玉座のようなものが。

金で縁取られた椅子には、赤いシートが敷かれ、誰もが思い浮かべる玉座とまったく同じ。

やはり内装とのちぐはぐさが否めないが……それは王家の成り立ちのためだろう。

原則的な規範に基づき、玉座の置かれた段上の前で身を屈めるように膝を突く。

そして、なるべく前を見ないように頭を下げた。

「国王陛下、王太子殿下、ご入来」

どこからかそんな言葉が響いてきた直後。

やがて御簾の奥に、二つの気配が現れる。

これはライノール国王シンル・クロセルロードと、その子である王太子セイラン・クロセルロードのものだろう。

それに続いて、部屋の側面からエウリード・レインが近衛を引き連れて現れる。

静謐だった室内に響き渡る 銅鑼(ドラ) のような打楽器の音色。

よく響く鐘の音と、最後に残った凜とした余韻が消えると、室内は再び静寂を取り戻した。

直後、頭の上から、突き刺さるような圧力がかかった。

それはシンルから向けられる視線だろう。上から下まで検めるような視線。以前セイランに向けられたものと同じようなものだが、当然帯びる厳しさは比べるまでもないが。

「両者、面を上げよ」

声が掛けられるが、形式に則り、再度掛けられた「面を上げよ」の声に従って顔を上げる。

玉座に腰掛けるのは、一人の男性だ。

顔は御簾のせいでよく見えないが。

長く伸ばした金の髪が淡い光源に照り映え。

シャツはボタンを外して、胸をはだけさせている様子。

随分とワイルドなのだなと思っていると、やがて、シンルが口を開いた。

「お前がアークスか」

「こ、国王陛下に初めて御意を得ます。レイセフト家長男、アークス・レイセフトと申します。陛下の召喚の命に従い、ここに参上いたしました」

「挨拶は並にできるようだな。及第点をくれてやろう」

その言葉で、内心、一息吐くことができた。

初の対面でも評価がかかわるという厳しさだが、問題ないということが伝えられたことで幾分心が軽くなったように感じられる。

「話には聞いていたが、本当に女顔なんだな」

「え? あ、はい……」

「くく、まあ、与太はいいか……魔力計のことも驚かされたが、まさか戦でも活躍するとはな。よくやったと褒めておこう」

「は! 陛下のお褒めに与り恐悦至極に存じます」

「今後もよく励め」

「これからも王家のため、王国のため、微力を尽くします」

魔力計についてのこと、戦の活躍についてのお言葉はこれで終わりか。

そんなタイミングを見計らって。

「あと、これを」

そう言って、近衛の一人に持ってきた資料を差し出した。

資料に関してはすでに話を通してあるため、近衛もすんなりと手に取り、シンルのもとへと持って行く。

シンルは資料を受け取ると、裏に返し、表に戻し。

「これは?」

「戦のときに使用した、王家の魔法を防ぐ術を書き留めたものです」

「少し前に報告のあったあれだな?」

「はい」

そう、絶縁、不導に関しての資料は、王家に提出しておかなければならないものだ。

王家の魔法――雷の魔法は、王家の秘密。

国内の魔導師はこれを調べることを固く禁じられており、この秘密に触れた者は例外なく処罰されるという。

もちろんこちらは秘密に触れたわけではなく、あの男の知識を用いて備えていただけであるため、処罰の対象にはならないはずだが――電撃から身を守ったところを見られている以上は自衛をする必要がある。

そのため、以前にまとめていた資料を王家に提出するということを、クレイブ経由で報告していたのだ。

シンルは資料の中身を斜め読みするように、ぺらぺらとめくる。

「……なるほど。直接ではないにしろ、あの魔法を防ぐことができる刻印、というわけだな?」

「同頁に記してあります物品との併用が必要になるうえ、強力な魔法は防ぐことはできませんが」

「じゃあお前はあの魔法がなんなのかわかっている、ということだな?」

「恐れながら」

「クレイブ、お前が教えたのか?」

「まさか。あれについては私もそこまで詳しくは存じ上げておりません」

「そうだな。そんなわけはないな……アークス。お前、どうやって知ったんだ?」

シンルがその問いをぶつけてきた直後、空気が凜と張り詰める。

これが国王の威圧だろう。

一瞬で身体の芯が底冷えし。

皮膚があかぎれひび割れを起こしそうなほどにびりびりと乾燥していく。

これまで様々威圧感に身を浸してきたが、ここまで物理的な刺激を受けるものは、これが初めてだろう。

ここで答えを間違えれば、おそらく道は閉ざされる。

身が裂けそうな危殆の中に置かれながら、あらかじめ用意していた答えを慎重に口にする。

「魔法の研究と並行して自然現象を調べているのですが、ちょうど調べていた現象がたまたま同じものでして」

「ほう? あれの性質をどうやって調べていたのか、気になるところではあるな」

そこに踏み込まれると、さすがに説明が難しい。

困っていると、シンルは資料を持ちあげて、

「……まあいい。すぐにこれを持ってきたその殊勝な態度で許してやる。今後この現象について勝手に調べるのは御法度だ。わかったな?」

「はっ!」

さすが厳しい。いや、こちらは禁忌とされるものの一端に触れたのだ。

むしろ打ち首監禁幽閉にしないだけ有情だろう。

もしかすれば、魔力計の開発があるからこそ、この程度で済んだのかもしれないが。

そんな中、シンルはさらに資料に目を通す。

「発生に関して、性質、磁石との関係性……なかなか面白いな。ほら、これなんて」

「はい。とても興味深く思います」

「ふむ、この辺りは試してみてもいいな……」

「父上、あとで私にも見せていただきたく」

「ああ」

セイランと一緒に資料を見ながら、親子でわいわい盛り上がっている。

シンルとセイランの親子仲は随分といいらしい。

そんなやり取りがひとしきり交わされたあと。

ふと室内の空気が一気に冷えて、シンルがその身から覇気を滲ませる。

それは、先ほどこちらの答えを待っていたときのよう。

冷たいまなざしを向けてくる理由は一体何か。そう考えた折。

「――ひとつ、戦の手柄について、お前に言い渡しておきたいことがある」

「は。なんでありましょうか」

「お前がセイランを帝国の副将から守ったという手柄、なかったことにさせてもらう」

「ち、父上!?」

シンルの言葉を聞いたセイランが、驚きの声を上げる。

これについては、セイランもあらかじめ聞かされていなかったのか。

他方、クレイブは……なにも言わない。

これは、当然と言えば当然だろう。自分が信奉する王の言葉だ。よほどの事でない限りは、異など唱えるはずもない。

一方で、シンルはセイランの困惑に構わず――

「いいな?」

こちらに了承の言葉を強要する。

……いまは、ひじ掛けに頬杖をつくシンル。視線はひどく冷めている。まるでそれは、値踏みしているような視線だ。ライノール王国国王の持つ、静謐な威圧感。そして身体の芯に響く物理的な威圧感。この世界、真っ当に偉い人間はどいつもこいつもため息が出るくらいに役者が違う。

そんな中、セイランが声を上げた。

「父上、お訊ねしたい儀が」

「なんだ? 言ってみろ」

「父上。アークスは私を助けるために左腕まで犠牲にしたのです。その手柄をなかったことにするというのは、いくらなんでも道理が立たぬかと」

「理由が訊きたいか?」

「はい。是非とも」

「ラン、お前が一人で撃退したとなれば、王家の名声はさらに高まる。初陣で敵軍を壊滅させ、そのうえ奇襲をかけた帝国の将一人、副将と言えど部隊もろとも討ち果たした――それがどれほどの名声に変わるのか、わからないわけがないな?」

「……しかしそれでは、アークスの苦労が」

「確かに、臣下の労を奪うのは法度だ。だが、クロセルロードにはすべてが許される」

シンルはそのまま言葉を続け、

「いまの王国は、まだまだ不安定な時期にある。帝国は年々その圧力を強めているし、父上の代には要害であるカッサ砦も取られている。対外的にも、いまは諸侯と王家の力の差が縮まってきているように見られているしな。ここで王家の力が強まることの有益性は、わかるはずだ」

「それは……」

シンルは、わかっていなければならないというように、セイランに迫る。もちろん、セイランがこの道理がわからないはずもない。いや、重要だと理解しているからこそ、いまこうして口ごもったのだ。

「あとはまあ、手柄の挙げすぎだな。アークスの手柄をすべて発表すれば、お前の手柄に届きかねん」

確かに、そうかもしれない。

自分の手柄はデュッセイアとの戦いだけでなく、彼が率いていた黒豹騎と呼ばれる兵士たちの打倒も含まれ。

戦の前にポルク・ナダールの罠にも気付き、ディートと共に情報を集めていた拠点の襲撃も成功させた。

しかも、戦のときにも、首級を一つ挙げている。

手柄が多いうえ、十二歳という年齢だ。

評価は普通の貴族よりも高まる可能性がある。

「アークス。お前は何か言いたいことはないか?」

「は。特には。私に異存はありません」

「お前の手柄を大幅に奪う形になるぞ? それでもか?」

「はい」

「では、二心なきことをここで示せ」

シンルの言葉に応えるように、その場に立ち上がり、胸に手を当てる。

そして、

「王家に、とこしえの忠誠を」

「よし。その言葉を違えたとき、お前は死をもって償う。いいな?」

「は!」

そんな儀式めいたやり取りが終わった折、セイランが訊ねてくる。

「……アークス。本当に良かったのか?」

「いま必要以上に名前が大きくならないのには、私にも理がありますので」

確かに、名が上がるというのは、両親を悔しがらせるには手っ取り早い道だろう。

だが、問題はその後の矛先だ。名が上がったことでリーシャに矛先が向いてしまう可能性が否めない以上は、控えておかねばならない。

名を大きく上げるまで、あと二、三年は時期を見計らった方がいい。

いまはまだ、機ではないのだ。

そんな中、ふとシンルが口を開く。

「……なあ」

「は」

「お前さぁ、子供のくせに物分かりが良くてなんか気持ち悪いな」

「へ……?」

思ってもみない言葉をかけられ、口をパクパクさせてしまう。

見れば、シンルはどこか嫌そうな顔。こちらは唯々諾々と従っているのに、なぜそんなことを言われなければならないのか。

一方でクレイブが「ぶはっ!」っと噴き出した。

こいつらは本当になんなのだろうか。

あまりの理不尽さになんとも言えない気持ちになっていると。

ふいに御簾が内側からめくられる。

「え?」

一体どうしたのか。そんなことを考えていると、御簾の奥からシンルが姿を表した。

普通ならばあり得ない事態にこちらが困惑する中、シンルは段の途中まで自らの足で降り、適当に腰を置いた。

そして、手招き。こっちに来いと促してくる。

その状況に焦ったような声を上げたのは、近衛のエウリードだ。

「陛下、それは……」

「かまわん。これくらいはな」

手をひらひらさせてエウリードを追い返すシンルにおずおずと言った様子で近づき、彼の前で膝を突く。

「腕を見せてみろ」

「は」

「魔法を使って、動かなくなったそうだな」

シンルの言葉に従い、包帯を取る。

腕の見た目はもう普通なのだが、やはり目覚めたときと同様、ほぼ動かせない。

シンルは腕を取ると、指や腕、関節を動かし、やがて眉をひそめて神妙な面持ちを見せる。

彼にも、医学の知識がある程度備わっているのか。

「……ひどいな」

「これから、腕を治すための術を模索したいと考えています」

そう言うと、シンルが、ぽんと頭に手を乗せてくる。

「父親として、礼を言おう。ランを守ったこと、感謝するぞ」

「もったいないお言葉」

「なに、お前にはまだまだ役に立ってもらう予定だからな。恩顧をかけただけだ」

シンルがぶっきらぼうにそんなことを言うと、ふとクレイブが呆れたような表情を見せ、

「素直に心配してるって言ってやれよ。相変わらずひねくれてるよな」

「あぁ?」

クレイブのおどけたような表情と、シンルの悪態がぶつかる。

国王に対しあまりに不遜な態度だが、これを気のおけないやり取りというのだろう。

聞いている方は気が気がでないが。

シンルは気を取り直すというように、咳払いを一つ。

「治療に関して不備があるならば言え。こっちでも手は惜しまん」

「は」

「あと、数日もすれば論功の式典がある。書状を出すからな、必ず来いよ」

……ともあれ初めての謁見はそんな風に、幕を閉じたのだった。