軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十話 ×××を作ってしまった日のお話

この日、アークス・レイセフトは自宅のキッチンにいた。

以前まではレイセフトの本邸に住んでいたため、キッチンに立ち入ることなどほぼなかった。なかったというよりも、入れさせてもらえなかったというのが正しいのだが。

しかし、いまはすべてが自分のものであるため、なんでも好き勝手使えるのだ。

料理だって自分の好きなときにできるし、作りたかった料理も作れる。

ささやかだが、これも自分の邸宅を持って手に入った幸せの一つである。

「アークスさま、本日はどういったご趣向で?」

「うむ。よくぞ聞いてくれたノアえもんよ。今日はお菓子を作ろうかと思ってな」

「この前から随分と料理にこだわりますね。もしや魔導師から料理人に鞍替えするつもりですか?」

「別にそういうわけじゃないよ。食べたいものがあるから、それを作ろうとしてるだけだって」

そう、この国のお菓子というのは、基本的にしょっぱいものか、砂糖を固めて丸めたものしかない。食材が豊富なのにもかかわらず、どういうわけかお菓子作りあまりが発展しなかったらしいのだ。

砂糖もそれなり高価だが、貴族であれば決して手に入らない値段ではない。

なのに、お菓子のレパートリーに乏しいというこの謎めいた状況である。

もちろんこの世界ではお茶の文化もあるため、甘いお菓子が作られる土壌は十分にある。むしろ作られて当然なはずなのだが、どの店を回っても、同じような菓子ばかり。

甘いクッキーもなければ。

ケーキなどあるはずもなく。

チョコレートなど夢のまた夢。

その辺が、未だによくわからなかった。

「なあノア。どうしてお菓子って、砂糖を丸めたヤツばっかりなんだろうな?」

「それはそういうものとしか答えようがありませんね」

「でもさ、やっぱり食べるものなんだから、おいしいものの方がいいだろ?」

「確かにそうでしょうが、砂糖を丸めたものが多いのは、おそらくは精霊年代のせいではないかと」

「そうなのか?」

「ええ。当時の者たちは、精霊や妖精への供物として、色とりどりの丸めた砂糖を捧げていたといいます。そのため、伝統的な菓子として、いまだどこでも」

「だから紅茶があるのに、それに合わせる茶菓子が発展しなかった……?」

それでも理由としては苦し過ぎる。生物は甘味にどん欲だ。生き物はみな甘いものを求める傾向にあるし、人間はその甘いものを美味しく食べるために努力を積み重ねてきた。

それは、あの男の世界でもよく知られたことだ。

すると、ノアが疑問の答えを口にする。

「まず、砂糖に合わせる食材が少なかったからではないでしょうか? アークスさまが用意する乳や卵も、いまでは市場に良く並ぶようになりましたが、以前は容易には手に入らないものでしたし」

「確かに、食材に乏しければどうやったってレパートリーは増やせないよな」

これについては、そもそもあの男の世界と比べるのが間違いだ。

この世界、自動車や列車もないため、流通も弱いし、食肉だって日常的に食べられるのは鴨くらいのもの。

鶏は卵を産ませるためにあまり締めないし、牛はエサの供給が安定しないため論外。

豚は放せば 汚(けが) れのもとになるため、 呪詛(スソ) を忌み嫌う王国民は厳しい管理をした上で、専用の場所で飼育している。それゆえ、どこでもご馳走扱いだ。

周に一回ハンバーグを食べるには、領地を持ってそこに根付いて、自分専用の養豚場作るしかない。

「そして、食材を安定的に手に入れられる貴族たちは、見た目が美しいものを好む傾向にあります。色とりどりの砂糖菓子は、見た目にも好まれますし、パーティーなどで供してもウケはいい」

「なるほど、貴族は見栄の文化だもんな。中身よりも外側を重視するっていうのはあり得るな」

「あとは、ライノール王国は武家が多い傾向にあるから、というのも理由でしょう」

「そこで武家が関係してくるのか?」

「王家自体が武家であるため、もともとは質実剛健を旨としてきました。西にギリス帝国、東には氾族等の異民族と、南にはグランシェルがあります。土地柄戦争も多いため、貴族は闘争に明け暮れなければなりません。もちろん、いまは安定して精神に余裕も出てきましたが、十ないし二十年以上前は王都もひどい有様だったとか」

「戦争ばっかりやってたから、そういった文化が醸成する土壌がなかった。余裕が出てきたのは、俺が生まれる少し前くらいからだった。だからお菓子のレパートリーが少ない?」

「憶測ではありますが、そう考えるのが妥当かと」

「ふむ……貧すれば鈍するってわけか」

金銭や時間に乏しくて、文化を生み出す余裕がなかった……ということだろう。

戦争は甚大な食料を消費するし、そのあおりは当然平民が受ける。しかも、年がら 年中戦(いくさ) とくれば、料理やお菓子作りに使われる『余分の食料』はすべて糧秣に回され、切り詰めた生活となるだろう。

確かに言われてみれば、貴族の庭の造りに関しても、首を傾げるものがそこそこある。

その辺り、いまだ発展途上ということなのだろう。

ノアが食材や調理器具の乗ったテーブルに目を向ける。

「まさか魔法で料理を嵩増しするなんてことはしていませんよね?」

「そんな不毛なことしないって。っていうか嵩増しって聞くとどっかのコンビニ思い出すなぁ」

「そういうものを、ラスカティスの雲と言いましてね」

「ほうほう」

「食べ物を魔法でかさましして満腹感を得ていたようですが、いくら食べてもやせ細っていくばかりなので、雲や霞など実体の薄いものを食べているようだと」

「食べてる感覚や味は再現できても、栄養は吸収できませんよってことか。ダイエットにいいだろうなぁ」

「だいえっと」

「世の中、努力なしで痩せたい人間は一杯いるってことさ」

「世の中を語る十二歳児とはこれいかに」

「ほんとどうなってんのか俺も知りたいわ。唯一知ってそうなヤツはこの前なんにも話してくれなかったしなぁ」

ノアとそんな話をしながら、お菓子を作りに励む。片腕があまり利かないため、ノアにやってもらう作業が多くなるが、カステラケーキよりは随分と楽だ。

あちらはやれメレンゲだのなんだのと、コックの力を借りなければならなかったが、こちらはもっとお手軽に作ることができる。

できたものを、簡易冷蔵庫にぶち込む。あとは冷やすのみだ。

さて出来上がりが楽しみだなぁと、後片付けや他の作業をしてしばらく。

自室に引きこもっていると、突然どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ねえアークス。お菓子は準備してるー?」

それが誰かと訊ねる必要もない。スウだ。しかも、外から聞こえたような感じではない。

「おい! 住居不法侵入だろ!」

「別にアークスの家なんだから別に構わないでしょ? あ! カズィがエプロンしてる! なんか似合うのすっごく以外!」

自室から階下に降りると、エプロン姿で掃除をしているカズィがスウにまとわりつかれており、すでにノアが脇に控えてお出迎えと案内の対応をしているという状況だった。

スウがカズィを興味深そうに見ている反面、カズィはおかしなところを見られたというように、ひどく嫌そうな顔をしていた。

「というかスウ、魔法院はどうしたんだ?」

「魔法院? 今日は受けたい講義がないから抜け出してきたよ?」

「抜け出してきたって……そんなことしていいのか?」

魔法院卒の人間の一人で、なんとなくさぼりに縁のありそうな者を見ると。

「いや、ダメだぜ? いくら、試験の成績が良くても、講義を受けないと進級に響く」

「そうか、どう計算しても単位が足りないことがわかってすでに進級を諦めた大学生の気分なのか……」

「諦めるなんてそんなわけないでしょ。というかよくわからないたとえはやめて欲しいんだけど」

「つまり、スウシーアさまには講義を抜け出しても咎められないなにかがある、と」

「そういうことそういうこと」

「なんだそれ? ずるくないか?」

「ずるくないよ? 私は忙しいから認められてるの」

「忙しいって言ってる人がなんでこんなとこに来るんですかね?」

「細かいことは気にしなくていいの。勉強しに来たんだし」

魔法院の講義を抜け出して自分と勉強しに来るというのはこれいかにな話だが。

「確かにアークスさまと魔法のお話をするのは刺激を受けます」

「そうだな。基礎以外はうちのご主人サマと話してる方が有益だ」

「お、おう……」

そう言われて悪い気はしない。そのあとに「ときどき意味不明な話を……」「わけわからない言葉を……」などと付け足さなくてもいいことを付け足すのは余計だが。

「それに、私にはそれ以外にも用事はあるし」

「それ以外って?」

「アークスの腕の治療だよ」

「え……」

「そうでしょ。前に私が治してあげるって言ったじゃない」

「それは確かにそんなこと言われたような気も」

「言ったの。だからほら、奥に行った行った」

「押すな! つーかここ俺の家!」

そんなこんなで、場所は塔型の部屋へと移った。

ここは、方形の建物の角にくっつくような形で敷設された場所だ。

あの男の国では、西洋の文化が取り入れられはじめた時期に建てられた、歴史的な建築物にあるような作り。

円形の部屋は吹き抜けになっており、表側は外が見えるようにガラス張りで、裏手側は書棚で占められており、それに沿うように階段がぐるりと敷設されている。

ちょうど南向きであるため、日がよく差し込み、明るく過ごし易い。柔らかそうな絨毯、ソファ、テーブルなどを置いており、客間兼くつろぎの空間として使っている。

「もっと庭が広ければいいのに。40点」

「なんかローハイム閣下みたいな言い方だな」

「そ、そそそそそそんなことないよ!」

「なんでそこで動揺するんだ。でもいまの俺には金銭的にこれが限界だよ」

「じゃあ次の目標はもっと大きな屋敷を買うとか?」

「子供のする話じゃねえ定期」

そんな話のあとに、またスウが場を仕切る。

「はい。じゃあ座って座って。遠慮しなくていいから」

「……なあノアくん。俺の家だよなここ?」

「名義上では間違いなくアークスさまのものです」

「あー、あれか、実効支配ってヤツだなこれは。キヒヒッ!」

「ひさしを貸して母屋を取られるとはこのことか」

「私のものは私のもの。アークスのものも私のものだよ?」

「さすが上級貴族様ナチュラルにジャイアニズムを振りかざすか」

すでに自分のもの扱いとは、まったく恐ろしい限りである。

カズィは掃除の続きと言って逃げ出し、ノアは室内の光量を調整するため、レースのカーテンを動かしに行く。

スウと隣り合うようにソファに腰かけた。

こうして二人っきり……のような状況というのも久しぶりだなと思いつつ。

長くつややかな黒髪は相変わらず。瑠璃をはめ込んだような瞳は輝きが散っており、尊さを感じさせ、肌は白過ぎず健康的な色味で落ち着いており、張りがあってしなやかさを感じさせる。

年頃のせいか、身体も少し大きくなったらしく、体つきにメリハリが出てきている。

近くにいるせいだろう。気を抜くとふいに漂ってくる香りに、心臓を撃ち抜かれそうになる。

一方でスウはと言えば、多少面映ゆくなっているこちらの気も知らず、話を続ける。

「それで、いまの具合はどうなの?」

「調子はまだまだだよ。だけど、前よりは良くなってる」

袖をまくると、スウは遠慮なく腕をつかんで曲げたり伸ばしたり。診察めいたことをする。

すると、何かに気づいたのか。

「ねえこれ、変な痣になってない?」

「ん? あ、ほんとだ」

「なんか、紋様みたい」

確かに彼女の言う通り、腕には赤黒い痣のようなものが浮かんでいた。

気付かなかったが、いつの間にこんなものができたのか。

紋様みたいとの言葉通り、何かの形にも見える。

「うーん、鳳か?」

「あー、そうだねー。しっぽ長いのとか確かにそれっぽい」

「やだ。スウさんに変なあと付けられたわ、どうしましょう」

「あーあ。アークスったらやっちゃった。これ、五人以上の人間に見せて、同じあとを付けないと、アークスは不幸になってしまうんだよ?」

「不幸の手紙かっ! いつの時代だいつの!」

「今代?」

「ま、まあ……そうなるのか。そうなるよな」

ここはあの男の国ではないのだ。確かに時代も何もないだろう。

診察らしきものが終わると、スウはすぐに調整した治癒の魔法をかけてくれた。

しかも、かなり魔力を使うタイプのものだ。

アークス(じぶん) の魔力量をはるかに超える、大魔法一歩手前の大掛かりなものである。こんなもの、魔導師ギルドの魔導医にもかけてもらったことはない。

「魔力がいっぱいあるってほんとズルいよな」

「アークスの魔力量じゃ、こんなことできないもんね」

「そうなんだよな。せめて使わない分をどっかに溜めとくことができて、それを自由に取り出すことができればとは思うんだけどなぁ」

「魔力を貯蔵する物品かぁ。あるといいね」

「やっぱり頑張って探すしかないよな。その前に別の壁を乗り越えなくちゃいけなさそうだけど」

「それで、腕の方はどう?」

魔法もかけ終わったため、腕を動かして具合を確かめてみると。

「……うん、具合がいい。いやマジで」

「ホント!? 良かったぁ!」

スウは花が咲いたような笑顔を見せ、我がことのように喜ぶ。

実際、魔法をかける前と後では、腕の調子がかなり違った。これまでは腕を少し動かすにもいまひとつなまりを感じていたが、多少切れが出てきたような印象だ。

「治るまで頑張るからね」

「あ、ああ。ありがとう……」

友人の優しさに、じんわりと目頭が熱くなった、そのときだ。

「――それで、お菓子は?」

「俺の感動ぶち壊しだよ」

「頑張ったらごほうびは必要だよ?」

こちらの気も知らず、対価を要求してくるスウさん。

感涙は、全部どこか遠くに吹き飛んでしまった。

すると、ノアが名案を覆い付いたと言うように手を叩く。

「では、先ほどお作りになったお菓子などはいかがでしょうか――」

「バっ、ノアっ!? バカお前っ!!」

「……? あれはスウシーアさまにご馳走するために作ったのではないのですか?」

「違う! 違わないけど違う!」

「ねーアークス。また何か作ったの?」

「いや、なんでもない。何も作ってないよ」

そう言って、作り笑いを浮かべるが、ときすでに遅く。

スウからジト目が向けられる。

「ねえ、ここまできて誤魔化すのって今更じゃない?」

「うぐぅっ……」

痛いところを突かれ、うめき声を上げる。

もはやこれまで。隠し立てすることは不可能だ。

そう思い、諦観のため息を吐き出した。

「……わかった。ノア、もう冷えてると思うから、さっき説明した手順で出してくれ」

「かしこまりました。お茶も一緒にご用意いたします」

ノアはそう言って、キッチンに下がり、やがて大きめのトレーを持って戻ってくる。

その上には、茶器と、カラメルの頂上が乗っかった黄色く小高い丘が二つ。

そう、先ほどノアと一緒に作ったものは、みんな大好きなお菓子である、プリンだった。

スウは自らの前に出されたプリンを、不思議そうに眺める。

「なんかぷるぷるしてるね。見た目は 蒸水蛋(ヅォンシュイダン) みたいだけど……」

硬さを確かめるように、プリンをスプーンで一突き二突き。

…………記憶している分量通りで作ったため、味はほぼ間違いない。だが、間違いないからダメなのだ。これを彼女が知れば、どうなるかなど目に見えているではないか。

以前の角煮まんは、豚肉の入手の難度が付きまとうため理解してもらえるだろうが、王都は乳と卵が比較的手に入りやすい。そして、乳と卵と砂糖の組み合わせは、人を虜にしてやまない味を生み出すとなれば、何を言い出すかは想像するに難くない。

「いただきまーす」

スウはそう言ってプリンの頂上をすくい取り、ひと口。

「――!? これは……!」

すぐに目を白黒させて、そのうえ以前のようにマジ声になる始末。

スウは幸せそうな、うっとりとした表情を見せ、プリンを口に運ぶ作業をせわしなく繰り返す。そしてそのたびに、彼女の相好は崩れ、おいしいものを食べているということが窺えた。

プリンを食べ終えたスウは、一転して凛とした表情を見せながら、ナプキンで口元を拭く。

「うむ、これはなんたる美味か。やはり使っているものは乳と卵か?」

「ああ、卵液と乳に砂糖を混ぜて蒸し固めたあと、冷やしたんだ」

「む……これはそれほど簡単に作ることができるのか」

「意外とな。ここじゃ基本、砂糖は丸めて固めるかお茶に入れるか、あとは豆を甘く煮るくらいだろ? この前ここで出したものも、他にはなかったし」

「そうよな。他にも菓子は作れるのか?」

「いやぁ、俺はコックやパティシエじゃないし覚えてるレシピもまばらだから、簡単に作れる物以外は前の角煮みたいに何回も試行錯誤しないと無理だよ」

「そうか……」

「そんなお菓子くらいで心底残念な顔しないでくれよ」

なにか、もっといろいろなお菓子を作らせようと考えていたのか。

やはり、人は甘味にどん欲だということが改めてよくわかる。

「それでアークス。これはなんという食べ物だ?」

「…………」

そろそろ、その言葉遣いは堅苦し過ぎるのではないか。

そう訴えかけるような視線で、スウも気付いたか。ハッとしたように、目を見開く。

そして、

「じゃ、じゃなくて、なんて名前の食べ物なのかな? かな?」

いままでの堅苦しいしゃべり方を誤魔化すように、不自然に目を 瞬(しばた) たかせて、ににこにこしている。

もう今更感が半端ない。

「プリンだよ」

「ぷりん……らしい名前だね。でも私、こんなのいままで食べたことない」

「だよな。どこも作ってないもんな」

「ねえ、もう一個ちょうだい?」

「ダメだって。残りは俺の分」

「えー、ケチケチしないー」

「ケチじゃねぇよ! というか今日作ったばっかりなんだから、作った本人にきちんと味見させろよ!」

「おいしいから味見しなくても大丈夫。味は私が保証するよ」

スウはそう言って、ペコちゃんよろしくな笑顔を見せた。

「ある程度味に間違いはないだろうけどさ! 俺が知ってる食材とは使ってるものが違うから」

「でも乳と卵と砂糖なんでしょ?」

「それにだって違いがあるだろ? 鳥の種類、乳を出す乳牛の種類、砂糖にだっていろいろあるんだ」

「アークスったらすっごいこだわりだね」

スウは半ば呆れ気味と言った風に見つめてくる。

そして、やはりこちらの分のプリンをじっと見詰め、ノアに向かって皿をくれとおもむろに手を伸ばした。

それに対しノアは、なんの躊躇いも見せず、プリンの乗った皿を引き渡す。

「どうぞ」

「うん! ありがとう!」

「どうぞでもありがとうでもないわ! なんで渡す!」

「その……私も権力には抗えずといいますか」

「ノアくんノアくん。きみの主人は俺なんだよ? 言ってしまえばきみは僕の臣下。そうだよね? 君、俺の言うこと聞かなくちゃならないよね?」

「じゃあ私の臣下でもあるよね? 私の言うことも聞く必要があるよ?」

「どういう理屈だよそれ!?」

「あのねアークス。さっきも言ったように、私のものは私の――」

「天丼やめろや天丼」

言ってもわからない突っ込みを入れる一方、スウは諦めたくはないようで。

「ね? 食べていい? いいよね?」

「だからそれは俺が食べる分だって」

「ほら、お客様のお願いには応えないとだよ?」

「俺は自分で食べるために作ったんだぞ!」

「じゃあ半分こ! 半分こしよう! それならいいよね!? ね!?」

「そこまで食い下がらなきゃならないもんでもないだろ!」

そんな風に、プリン一つでぎゃあぎゃあ言い合う。

ともあれその後は二人で勉強をして、スウは帰っていった。

スウが帰ったすぐあと、カズィが顔を出したのだが。

「――はー、それで? 結局は半分に分けたと?」

「だってさ! そうでもしないと話が進まなかったし!」

そう、結局あのプリンは、半分に分けることになったのだ。

いくら言っても聞かないため、こちらが折れるしかなかった。

ともあれ従者たちは、そんな気も知らずに言う。

「これはあれか? なんとかの弱味ってヤツか?」

「でしょうね。今後も尻に敷かれる未来しか見えません」

「うっせぇいい加減いしないと二人共ぶっ飛ばすぞ!」

「おお、怖ぇ」

「これは、アークスさまに暴君の兆しが」

好き放題な言いようにこちらが怒ると、従者たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑うのだった