軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゲームフェイズ2:『17』星

再び入った『17』の部屋は、やはり綺麗な場所だった。星空が泉の水面に反射して、きらきらと美しい。

滾々と湧き出る水の、ささやかな音だけが小さく聞こえて、ちょっと落ち着くバカであった。

「あっ、カード、水に浮いてますね!」

早速、タヌキが泉に浮いているカードを見つけて、ぽんぽこぽん、とアピールする。……同時に、『アッ!?ってことは、カードって耐水紙でできてるんですね!?』と何か気づきを得ていた。……確かにこのカード、頑丈である。

「じゃあ、ヤエちゃん……拾ってみる?」

五右衛門がそっとヤエを促すと、ヤエはちょっと心配そうに、ちら、と泉を見つめた。

「あの、また駄目だったら……」

「その時は樺島がやる。そうしたら、こう……何か、どうでもいい何かが出てくるだろうからな。それはそれでいい」

「うん!大丈夫だぞ、ヤエ!俺、頑張れるから!ヤエのサポートは任せろ!」

……心配そうなヤエを、海斗が励まし、バカが励まし、そして五右衛門とタヌキも『とりあえずやってみましょ!』『みましょ!』と楽しく励ます。

そうしていると、ヤエも決心がついたのか、こくんと頷いて……案外しっかりした足取りで、とこ、とこ、と泉へ近づいていって……。

「……えい」

ぱしゃ、と泉の水に触れた。

くるん、と世界がひっくり返るような感覚があり、そして……。

「……えっ」

ヤエがぽかんとしている中、他の面々も、ぽかん、としていた。何せ……周囲の景色が、随分と様変わりしていたものだから!

周囲には霧が立ち込めているが……それ以上に目に入ってくるのが、花であった。

「わぁーっ!夜桜ぁ!満開ですよコレぇ!すってきー!」

最初に我に返ったタヌキが、ぽんぽこぽん!と元気に跳ね回って喜ぶ。

……そう。辺りは今や、お花見会場である。

咲き誇るのは、桜、桜、桜。真っ白に薄ピンク、濃いピンク……バカには品種が分からないが、それぞれ違う種類の桜が沢山咲いているのだろう、ということは分かる。

ひらり、ふわり、と、花びらが風に乗って踊れば、いよいよタヌキが歓声を上げる。そして当然、バカもそうである!

「すっげぇー!綺麗だなあ!花見だなあ!」

「ホント、見事ねえ……。やだぁ、お酒飲みたくなっちゃうわぁ……」

バカもタヌキと一緒に跳ねまわり、五右衛門が、ほう、とため息を吐き……そして。

「……ヤエさん。どうやらこれが、君の願い、らしいんだが……その、心当たりは、あるか?」

海斗がちょっと面白そうに笑って言うと、ヤエはぽかん、としながら空を見上げて……霧にふわふわ霞みながら咲き誇る桜を、じっと見つめた。

「……そういえば、私……桜、好きなんだった……」

……どうやら、ヤエにも好きなものはあったらしい。

「近所に、桜の並木の名所、あって……そこ、よく走ってたんです」

ヤエはそう、ぽつぽつ話し始めた。なんだか、懐かしそうに。

「それで、一本、元気がない桜、あって。大丈夫かな、って、毎日思ってたん、ですけど……その桜、切られちゃった」

ちょっと睫毛を伏せて、しかし、ヤエは微笑む。

「……駄目になったら、切るしかない、んです、よね。……木も、脚も。でも、それって必要なことで……しょうがないこと、だと、思うから……」

……ヤエは多分、何か、吹っ切れたのだろう。バカには、そう見えた。

少なくとも、脚が片方無くなったことについては。……元々、ヤエが辛かったのはそこではなかったのだろうから。

そうして、ヤエがちょっと桜を見上げていたところ。

「ヤエちゃーん!ちょっとこっち、いいかしらぁーッ!」

五右衛門が、ちょっと離れたところでヤエを呼んだ。

バカと海斗も、『おや?』と首を傾げていると……。

「なんかね、元気がない木が一本、あるのよぉー!それで、ヤエちゃん、植物を生長させる異能、だったわよね?」

「えっ、あ……はい」

走ってきた五右衛門の言葉に、ヤエは困惑している様子だった。だが、足元にやってきたタヌキが『行きましょ行きましょ、こっちですよ!』とヤエを連れて行くので、ヤエもタヌキにくっついて五右衛門の方へ行き、そして皆でまとまって、五右衛門とタヌキが誘う方へと向かっていく。

……するとそこには、他の木のように大きくない、若くてほっそりとした木が一本、あった。

まだまだ木のひよっこである。バカは、『ちょっと親近感……』などと思いながら、その若木を見つめた。

「ね。ね。この木、なんか、元気ないみたいでぇ……」

「ね、ヤエちゃん、お願い!折角だし、この木、元気にしてあげて!」

タヌキと五右衛門がそう言う通り、桜の木は元気がない。葉っぱは少ないし、更に虫食いだ。枝の先っぽは枯れてしまっているようにも見える。

そんな桜を見たヤエは、こくん、と頷き……手を前に突き出すと、何か、念じ始めた。

すると。

「うおっ!?」

……ぽふん。

バカがびっくりし、タヌキもびっくりする前で、若木にぽふんと花が咲く。

それは、八重桜だった。薄紙のような花弁が幾重にも重なって、ちょっと重たげにふるんと揺れる様子がなんとも可愛らしい!

……が、変化は花だけにとどまらない。ヤエがより強く念じると……若木が、にょき、もしょ、と動き……伸び始めたのだ。

「わぁあー……!」

タヌキが目をキラキラ輝かせて喜ぶ。バカも同じだ。この、素敵な光景を目の当たりにして、思わず『すげぇーっ!』と声が漏れた。

にょき、ふわ、もそ……と伸びていく桜の木は、なんだか夢の中のような光景だった。幹が伸び、太くなって、枝が増え、枝も伸び……そしてその枝には、どんどんと八重桜の蕾が膨らんでいって、そして、ふるん、と震えて、花開く。

……そうして、この桜だらけの場所の中でもひときわ見事な桜の大木が一本、生まれた。

「……そっか」

ヤエは、自分が育てた桜の木を見上げて、微笑む。

「私、木は、治せるんだぁ……」

桜を見上げるヤエの横顔がなんとなく綺麗で、バカはにこにこしながらこれを見つめていた。

……そして海斗もまた、なんだかはっとしたような顔で、ヤエの横顔を見つめていた。

が、桜を見上げてばかりもいられない。

「あっ!カード!カードありますよ!花の中ぁ!」

タヌキがそう騒ぎ出したのである。どれどれ、と見に行ってみると……確かに、桜の枝が重なり合って、花がいっとうフカフカしているそこに、カードが1枚、鎮座しているではないか!

「あー……あの高さじゃ、中々骨よねえ……。どーする?」

「ああ、この高さなら問題無い。樺島。取ってこい」

「了解ー!」

そしてバカを動かすのが上手な海斗によって、バカが動員される。こういう時に役割があるというのは嬉しいことだ。バカはにっこにこの笑顔でばびゅんと跳んで、桜の枝の中にあったカードをしっかりキャッチして……。

「あっ……!」

「ど、どうした樺島!」

が、バカはやってしまった。『また』やってしまった、と言ってもいい。これをやっちゃうのは、ヒマワリ畑以来、二度目なのである。

「枝、折っちゃったぁ……」

バカは……勢い余って、カードだけじゃなくて、カードの近くの枝まで持って帰ってきてしまったのであった!勢いがあったばっかりに!やる気に満ち溢れてしまったばっかりに!これだからバカは!

「……見事な八重桜だな」

バカがしおしおしながら持ち帰ってきたカードと枝を受け取った海斗は、何とも言えない顔で桜の枝を眺めていた。

枝は、そんなに長くない。20センチメートルくらいだろうか。だが、その先に、花がぽふぽふと3輪ほど咲いているから、この枝を折ってきちゃったのは非常に罪深いことに思われる!

「どうしよお……ヤエぇ……これも、元気にできたり、する……?」

「元気にしてどうするんだ。もう一本、木を生やすのか……?」

海斗はちょっと呆れながら、カードをバカの尻ポッケにもすんと突っ込んだ。が、海斗は海斗で、『まあ確かに、これほど美しい花を手折ってしまった後悔は理解できる……』と、ちょっとしおしおしてくれた。これだからバカは海斗が大好き!

「ねえ。それ、ちょっと借りていい?」

そうしてバカと海斗がしおしおしていたら、五右衛門がそんなことを言い出した。

なので、バカは頭の上に『?』マークを浮かべつつ、ほい、と桜の枝を五右衛門に渡した。

「ありがと。……で、ヤエちゃん。ちょっと髪の毛触るけど、いいかしら?」

「え?あ、はい」

五右衛門はヤエの背後に回ると、『えっとぉー……あ、ピンしか持ってないわ。やんなっちゃう』などと言いつつ、ヤエの髪を後ろで1つに縛っていたヘアゴムを解き、何やらやり始めた。

……『何やらやり始めた』としか、バカには分からない!五右衛門がジャケットの胸ポケットからヘアピンっぽいのを取り出しては、器用に小指と薬指で挟んでそれを持ちつつ、親指と人差し指と中指はヤエの髪を編んだりまとめたりしているのだ!もう、複雑すぎて何も分からない!

「えっとねー、こうして、こう。で、こう!……道具あったらもっと色々アレンジできるんだけどねぇー……」

が、五右衛門がテキパキと何かやって、そして……スズメの尻尾のようにぴょこんと縛られていただけのヤエの髪が、なんか……お洒落になった!

「はい、できた!うん!パーフェクト!我ながらいい出来!かわいいわよぉー、ヤエちゃん!」

そして最後に、五右衛門は桜の枝をヤエの髪に飾った。ヤエの頭にくっついた八重桜の花が、ふるん、と震えてなんとも可愛らしい。

「あ、鏡見ます?三面鏡ありますよ。あ、更にもう一枚あった」

そこへ、タヌキがお腹をもそもそやって、のぺっ、とハンディ三面鏡を2枚出した。美容室とかにある奴である。無論、バカには縁のないタイプの鏡である。

「……タヌキちゃん。アンタ、何持ってんの……?」

「アッ、色々ありますよ!他にはですねぇー、スキレットと塩と胡椒と鰹節、あとマスクとハチマキと『あんたが大将』のタスキ、ダンベル、ホチキス、楽譜、のり、近所のスーパーのクーポン券、エコバッグ、液肥、ヒマワリの種、鳥の餌、鯉の餌のパンくず、蓮の花托、マックのシャカシャカチキンの粉」

「あ、もういいわ。もういいもういい、しまっときなさいちょっとちょっとちょっとあーあーあーあーあー」

……タヌキのお腹には色々しまってあるらしい。そしてそれを持ち込んできているらしい。が、タヌキは『アッ!?栓抜きと果物ナイフが無い!あとマッチも無い!デスゲームだから没収ってことですか!?』となんかやっていた。なんか、そういうもんらしい。バカにはもうなんだかよく分からない!

が、まあ、タヌキのお腹収納はいいのだ。問題は、ヤエである。

「……わあ」

ヤエは、タヌキの三面鏡を五右衛門と海斗が前後で支えてくれているのを覗き込んで、表情を明るくしていた。

「ね?可愛くできたでしょ?ね、海斗君もそう思わない?」

「ああ。綺麗だ」

五右衛門と海斗も褒める中、ヤエはちょっと髪に触ってみて、そして……ふや、と笑ったのだ!

途端、くるん、と景色が変わる。

……そして、辺りは綺麗な木漏れ日に包まれた、優しい泉の景色に戻っていた。

ただし。

「あ、桜はそのまんまですねえ!」

タヌキが大いに喜ぶ。バカも『いい景色!』と喜ぶ。

……霧の中で生まれた桜の木々は、全部、そのまんまだった。優しい日差しに照らされて、ふわふわと花を揺らす沢山の桜が並んでいる状態である!さながら、お花見会場のように!

「いいな!いいな!お花ってのはやっぱりいいですねえ!皆さん、色々終わったらここでお花見しましょ!私、レジャーシート持ってますんで!」

「タヌキちゃん、ほんとアンタ何持ってんの……あ、いいから。出さなくていいから」

タヌキと五右衛門が漫才を繰り広げ始めた横で、バカは『色々終わったら、お花見……!』と、目を輝かせた。

そうだ。前回だって、そうだった。前回は鍋パだったから……今回は、お花見!それがいい!バカはにっこにこの笑顔である。

やっぱり、目標ができるっていうのは良いことだ。元気が出る!

……そして。

「あ、あの、海斗さん……」

バカがやる気に満ち溢れていたところ、バカの横の海斗に、ヤエが近づいてきた。

ヤエはちょっともじもじしてから、もじもじと言葉を紡ぐ。

「……私、好きなもの、見つかりました」

どうやら、バカ達の働きはよかったようだ。ヤエの表情は、大分明るくなった。彼女の表情は、今や……希望を見つけた人の顔なのだ!

「その……ありがとう、ございました」

ちょっと頬を染めて笑うヤエを見て、バカは『かわいい!』とにこにこした。

そして、海斗は……。

「あ、ああ。役に立てたなら、その、よかった……」

……海斗は、顔を赤くして、おろおろとヤエから目を逸らした。そんな海斗を見てしまったバカは……バカは、衝撃を受けた!

なんか!相棒が!照れてかわいいことになっている!

「なー、海斗ぉ。ヤエ、かわいいなぁ」

「……そうだな」

バカはにこにこ、海斗はもじもじ。ヤエが五右衛門にもヘアアレンジのお礼を言いに行ったのを見守りながら、春の木漏れ日と桜の景色を存分に楽しむバカなのだった!

そうしてバカ達は、大広間に戻った。

案の定と言うべきか、デュオ達のチームはまだ、戻ってきていない様子である。

バカは、『デュオ達が入った部屋、何の部屋だっけなぁ……』と思いつつ、ふと、『そういや、四郎は大丈夫かな』と気になってきた。

……四郎が入った部屋。『4』の部屋は、確か……『皇帝』が、なんか偉そうにしている部屋だったはずである。

バカがちょっと心配していると、うぃん、とエレベーターが動く音が聞こえてくる。

……動いているのは、むつの個室エレベーターだ。

つまり、四郎が帰ってくる、らしい。