軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゲームフェイズ2:『5』教皇

タヌキを抱いたバカと、海斗とデュオ2人を乗せたエレベーターがそれぞれ大広間に到着し、ドアが開く。

バカの方にはむつとヤエが駆け寄ってきて……そして、バカの腕の中のタヌキを見て、絶句した。

「嘘……タヌキさん……」

ヤエが、ひゅ、と息を吸い込んで、それきり言葉を失う。むつは、ただ茫然とタヌキを見つめていた。

デュオと海斗もバカの方へ集まってきて、そして、七香は……。

……ちら、とバカが七香を見ると、七香は、ふ、と目を逸らした。

七香はきっと、知っていたのだろう。タヌキが死んでいたことを。或いは……海斗がさっき零していた通り、デュオではなく、七香が殺した、のかもしれない。

「誰が、こんなこと……」

そして、むつがそう呟いた。

「それは……」

海斗は、迷うように視線を彷徨わせ、デュオが唇を開きかける。

……なので、バカが声を上げた。

「わかんねえ!」

びり、と空気を震わせるほどの、デカい声。それが、その場に居た全員を黙らせた。

「……わかんねえけど、でも、その……」

しんとした部屋の中、バカは、次に何を言うべきか思いつかない。

何か言わなきゃ、とは思うし、『デュオが殺した、だなんてことにはしたら駄目だし』とも思うし……しかし、何か気の利いたことなど、バカには言えないし……。

「……悲しい」

だから、バカはただ、自分の気持ちだけ言って、しゅん、と肩を落とすしかない。

……そんなバカを見て、そっと、むつとヤエがやってくる。そして、ヤエがタヌキに手を伸ばして、そっ、と撫でた。

前回は、確か、元気が無かったヤエに、タヌキが『撫でてください!どうぞ!』と、自らを撫でさせてやっていたのだったか。バカもあの時、撫でさせて貰って、『あったかい!ふわふわ!』とその毛並みを楽しませてもらった。

だから、悲しい。

……悲しいのは、嘘じゃない。本当のことだ。だから今はただ、悲しいだけでいよう、と思うバカなのだった。

「……これで、五右衛門さんを探しに行けるけれど……どうする。タヌキの腕輪を外してもらって……俺が行くのがいいかな」

それから、デュオがそう、切り出す。悲しいけれど、『今回』はまだ、終わりじゃない。終わらせない。できる限りのことはしてから、やり直ししたい。

「ああ、なら僕と樺島も行く。丁度、腕輪が外れていることだし……」

「おう。俺も行くぞ!任せろ!」

ということで、バカはタヌキの腕輪を『ぺきょ』と外すと、意気込んでスクワットを始める。準備運動は大事である。

だが。

「待って」

……むつが、バカの前にやってきて、すっ、と左腕を差し出した。

「樺島さん。私の腕輪も……壊して」

「……いいのか?」

「うん。いい。それで、私も付いてく」

バカが、『女子の手首の首輪だから、力が入りすぎそうでちょっと怖い!せめて、首輪ぐらいデカけりゃ問題ねえのに!』と怖気づいている間も、むつはじっと、バカを見つめている。……むつは、強い!

「私も」

更に、ヤエもむつと同じようにし始めた。

「樺島さん……お願いします」

「……おし!分かった!」

なのでバカも、腹を括る。女子の手首の腕輪くらい、破壊できずして何がキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の社員か!誇り高きキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の社員ならば、繊細な作業にだって、自信を持って挑めなければならないのである!

「じゃあ順番に、むつからいくからな。えっと、えっと、変に力入って、痛くしちゃったら、ごめんな。できるだけ気を付けるから……」

ということで、バカは恐る恐る、自分の手首の半分くらいしか無いむつの手首の腕輪に力を入れて、そっと、そっと、海斗の腕輪を破壊した時の10倍ぐらいの時間をかけて、『ぱきょ……』と腕輪を破壊したのだった!

「じゃ、じゃあ、次、ヤエ……」

「あの、樺島さん、すごい汗……」

「うん、だいじょぶ……めっちゃきんちょうしてるだけだから……」

「……樺島。一回、深呼吸してちょっと運動してからにしろ」

……ということで、ヤエの腕輪を外す前に、一旦、集中力をリセットすべく、『地面をめり込ませる屈伸!ハイッ!』と元気に準備体操を始め、実際に床をめきめきと凹ませては海斗に後頭部をしばかれるバカなのであった。

「で、できた……できたよぉ……」

「あ、ありが、とう……?」

そんなバカもなんとか、仕事をやり遂げた。無事、むつの腕輪に続いて七香とヤエの腕輪も『ぺき……』と破壊して、そして、開き切った瞳孔と滝のように流れる汗を若干怖がられつつも、お礼を言われたところである。

女子の手首は、とっても細い。むつの手首は細いし、ヤエの手首は、更に細い!首ならそんなに怖くないのに、手首だと一気に怖くなるのは、やっぱり細いからである。首の方が大事な部分なのだが、より壊しちゃいそうなのは手首の方なのだ!

バカは、そんな恐怖に耐えきったことにより、すっかり疲れ果てていた。床にぶっ倒れて、大の字になって『こわかったよぉ……』とやっているところである。ヤエやむつからしてみたら、このバカ自体の方がよっぽど怖かったことであろう。

「ええと……七香さんも、一緒に行く、んだよね?」

そんなバカから目を逸らし、むつが七香へと向き直る。

「私は……」

すると、七香は、少し考える素振りを見せた。……そして。

「……折角、腕輪を外して頂いたところですが、私は待機しています。四郎さんがもしお戻りになった時、誰もいないよりは誰か居た方がいいでしょうから」

「そう……うん、分かった」

七香は、お留守番することにしたらしい。……バカとしては、七香を1人にしておくのはなんだかちょっと不安なのだが、仕方がない。ついでに、『だったら腕輪、外さなくて良かったじゃん!』とも思ったが、仕方がない。

「じゃ、いくかぁ……」

「……そうだな。急ごう」

結局、バカと海斗とデュオ、それに、むつとヤエ、という大人数で、バカ達は『5』のアルカナルームへと向かうことになったのだった。

……と、いうことで。

「エレベーター、狭いなぁ……」

バカ達5人は、エレベーターの中、ちょっぴり狭苦しく感じながら下降しているところである。

「……本来、6人までは乗る想定なんだろうけれどね。1から6までの人が集まって、『21』になることはできるから」

「樺島。お前が大きいのが悪いんだぞ!」

「ごめぇん……」

……エレベーターがなんだか狭く感じるのは、主にバカのせいである。バカは1人で2人分くらいの図体があり、更に、1人で5人分くらいの騒がしさがある。狭いところに入れておくと、もっと狭くなる。それがこのバカなのだ!

そうして、手狭なエレベーターが無事に『5』のアルカナルームの前に到着すると、バカは深呼吸して……。

「よし、開けるぞ!」

そこに、五右衛門の死体なんて無いことを祈って、ドアを開けたのだった。

「……わあー」

「こ、れは……」

だが、ドアの先にあった光景は、誰もが想像していなかったものだった。

「むつさん!ヤエさん!見ない方がいい!」

「え、あ、わっ……」

「な、何があった、んですか……?」

慌てて海斗がむつとヤエをドアの手前で留める中、バカとデュオは、そっと部屋の中へと踏み入る。

「……五右衛門さんがどういう状況だったんだろうね」

「わ、わあああ……」

……そこにあったのは、肉片の浮かぶ血だまりである。

「……五右衛門の、じゃ、ない、よな……?」

バカが恐る恐る尋ねるも、デュオは黙って、血だまりの脇に屈んで、じっと血だまりと、そこに浮かぶ肉片を観察している。

「……うーん、多分、違うと思うよ」

そして、ある程度観察したデュオは、そう言った。

「これ。肉じゃなくて、布だけれど。……血で染まってしまっているけれど、刺繍が見える。五右衛門さん、刺繍が入った服は着てなかったから……多分、『対戦相手』のものじゃないかな」

言われて、バカもそっと、血だまりの傍に屈んで、その布切れを見てみる。

裂かれて、切られた、というような様相のその布は、厚手のものだ。そして、血に染まっても尚、ちゃんと金色に見える刺繍が確認できた。

「……五右衛門のぱんつに刺繍入ってたかもしれねえよな?」

「……それはまあ、可能性としては、あるけれど。でも、結構厚手の布だから、これで下着、っていうのは考えにくい。それに、この糸、恐らくは本物の金を使った糸だ。下着に使うものとは思いにくい」

バカは心配だったのだが、デュオがちゃんと理由のある否定をしてくれたので、『そっか……じゃあ、これ、五右衛門の服じゃねえな……』と、ほっとした。頭のいい人が居てくれると、何かとありがたいのであった!

そうしてバカとデュオが血だまりやらなにやらを観察していると、海斗が、そっ、とやってきた。

「……酷い有様だな」

「あ、海斗、大丈夫か?その、見てて具合悪くなっちゃうようなら、外、出てもいいんだぞ……?」

バカとしては、海斗が心配である。海斗は目の前の凄惨な光景を見て、すっかり青ざめてしまっているのだから!

「舐めるな。僕だって……そこまで、繊細じゃ、ない。女性ならともかく、僕まで、外で待機、というのは、流石に……」

「そうかぁ……?うん、じゃあ、駄目そうなら、言ってくれよ……?」

だが、海斗にもプライドがあるのだ。バカは『そういうことなら』と、海斗を心配するのを止めた。

「むつさんとヤエさんは、ドアの向こう?」

「ああ。……酷い光景なのは、分かったから。2人とも外で待っているように、と伝えてある」

バカは海斗に『ぐっじょぶ』と親指を立ててみせた。海斗も、力なく笑って同じハンドサインを送ってくれる。海斗はバカにとって守るべき存在の1人ではあるが、『共に、他の人達を守る仲間』でもあるのだ!

「さて……この部屋は、一通り探索しておいた方がいい、か……?」

そうして、海斗は部屋の中をぐるりと見回して、ため息を吐いた。

「……元々は何があったのか、気になるな」

……海斗が見る方、壁には、大きな石板が埋め込まれていて……そこには、文字が刻まれていた。

『法を遵守せよ』『法に背いた者には罰を』と。