軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゲームフェイズ2:『6』人混み

「こっちでお花見すればよかったかなあ……」

この、大勢がわらわらしている謎の草原で、バカ達はぽかんとしていた。それはそうである。多すぎる。何せ、多すぎる!

そして、向こうは向こうで、やっぱりぽかんとしていた。それはそうである。多すぎる。相手からしてみても、多すぎる!ここに10人以上がわらわらやってくることは、間違いなく想定されていない!

「いやこっちでお花見してどうすんのよ。大宴会になっちゃうでしょ。それになんか知り合いと似た顔の子がいっぱい居て落ち着かないし……やーねえ、あっちの子、アタシのお客さんだわぁー……」

「おおー……見渡す限りの美男美女……と、美タヌキ美骸骨、美馬に美戦車……えっ、骸骨と戦車……!?アッ!?これ、骸骨さんとそのお馬さんと、あと戦車さんの好みのタイプの異性ってことですか!?」

そう。ここに来たのは、人間だけではない。

お花見の勢いのまま、ぞろぞろと……骸骨の騎士も皇帝も女教皇も女帝も、そして戦車もちゃんと、やってきているのである!

だからか、妙なものまで生成されているこの空間。余計に訳が分からないことになっており、全員の困惑が加速しているのであった!

「そっかぁ、戦車の好みのタイプはこういうかんじかあ。かっこいいよなあ、90式戦車!」

まあ、何はともあれ、バカは早速、戦車とにこにこ戦車談義中である。戦車本人にとっては、きっと恋バナみたいなものなのだが!

「おい戦車。お前、自走砲とかはそんなに好きじゃねえのか?やっぱ戦車か?あっちのエイブラムス、かっこいいよなあ」

そこに四郎も参戦すると、戦車もバカも、『あっちもとてもかっこいい!』とうんうん頷いた。

「樺島。四郎さんも。頼むから戦車にそんなに共感しないでくれ。置いてけぼりになっている気分だ!」

海斗が嘆きの声を上げているが……バカと四郎は、『でも戦車、かっこいいよなあ……』と、何とも言えない顔をしているばかりである。

……戦車にとっては恋バナだが、バカと四郎にとっては戦車談義なのである!戦車はかっこいい!そして、かわいい!

「わー、ヤエちゃん、そういう人がタイプ?」

「え?……うーん、分かんない……」

さて。一方、女子2人組は、ここでもきゃいきゃいと楽し気である。

今、ヤエは数名の美男に囲まれているところである。ちょっと知的なかんじのする彼らはちょっと奥手なようで、『勇気を出してやってきました!』というような具合にヤエに迫っているのだが、ヤエはヤエで、『迫られても困る』と、真理奈にくっついているところである。

「……あの、今、一番タイプなのは、あの仔馬かな……。かわいい……」

結果、ヤエは人間の男より、かわいい仔馬に目が行っている!人数が多すぎるとこういうことが起きてしまうのだ!

「あ、分かる!撫でたい!撫でたいよね!」

「うん。かわいい……」

ヤエと真理奈の視線を集めて、恐らく骸骨の騎士の馬の好みなのであろうかわいい仔馬は、元気にてくてく歩いている。この仔馬は大層懐っこく、骸骨の騎士の黒馬にも遠慮なく寄って行っては、『ぶるる』『ひひん』と何やら会話しているようだった。

「タヌキが居るのは……タヌキさんが居るからかなあー」

「……タヌキさん、中身は人間、なんだよね……?」

「あ、そっか。……じゃあ、タヌキさんを撫でるのにハマった七香さん向けのチョイスなのかなあ……」

また、馬や戦車のみならず、タヌキもぽんぽこと数匹紛れている。七香はそんなタヌキをちょっと撫でてみて……『これは違う』とばかり、こちらのタヌキを撫でている。七香は違いの分かる女なのだ。

……そして。

「あの、真理奈ちゃんは、そういう人……?が、タイプ……?」

「えっ!?うん、まあ、かわいいよねえ、戦車ちゃん……」

真理奈は真理奈で、囲まれている!……戦車に!

「なんか、戦車に懐かれてるんだけどなんでだろぉ……」

「良い人そうだからじゃないかな……きっと、戦車もそういうの、分かるんだよ」

「そうかなあ?えへへ……いや、ちょっと待って。ちょっと冷静になったら色々おかしい気がしてきた」

「多分、冷静になっちゃ駄目だよ、真理奈ちゃん……」

真理奈が『私、戦車に戦車だと思われてるとか……?それとも、もしかして私って本当に戦車が好き……?』と悩み始め、ヤエがそれをおろおろと見守る横で、燕はちょっと満足気に頷いて、ふい、と真理奈から離れていこうとした、のだが……。

「あっ!ねえ、燕ぇ!なんで私の周り、戦車ばっかり寄ってくるのぉ!?」

目ざとくも、真理奈はそんな燕を見つけてしまった。見つけられてしまった燕は何とも言えない顔をしていたが……。

「……戦車に好かれるタイプなんだろ」

「えっ、なんでぇ!?」

「知らない」

……燕の返答に、真理奈は益々混乱して、『私、戦車界のアイドルになれる!?』と叫び始めた。ヤエには『が、がんばってね、真理奈ちゃん!』とやっぱり混乱した応援を貰った!

……と、いうことをやっている真理奈とヤエから離れた位置で。

「……ねえ、燕。あんた、真理奈ちゃんか戦車ちゃんかに何かした?」

五右衛門が燕をちょこちょこ、とつつくと、燕はなんとも嫌そうな顔をした。

「……別に」

「したのね?」

「……いいだろ、別に」

燕が益々嫌そうな顔をしていると、五右衛門は『へー。そー。ふーん』とにまにま楽しそうに去っていった。燕はそれを見て、とっても嫌そうな顔になってしまったが……彼の謎の頑張りによって、真理奈は戦車にしか言い寄られることなく済んでいるのである。頑張れ、燕!

さて。

「そう。この方がつぐみさんね」

「……まあ、こういう見た目の子だったよ。ここに居るのは、本人じゃないけどね」

真理奈とヤエが楽しく戦車に囲まれている横では……修羅場が発生している。

……そう!デュオにはつぐみそっくりの子が寄り添っていて、それを見て七香が凪いだ笑みを浮かべているのである!デュオは只々、気まずそうに七香とつぐみのそっくりさんとを眺めることしかできない!

が、そんな中にも遠慮なく入ってこられるのが、タヌキである。タヌキはぽてぽてと無遠慮かつ軽やかにやってくると、つぐみのそっくりさんを見上げて、『おお!』と声を上げた。

「ほぇー。この方がぁ!成程、成程……デュオさん、年下がお好みです?」

「いや、同い年だけど……ああ、そうか。ええと、彼女、19歳の時に死んだから……」

「あっ……そ、そうでしたか。それは……うん……ああーん……」

そして、ほんの数秒でまた別の気まずい空気を作り出した!これだからタヌキは!

「……あの、あのですね、七香さん。その、デュオさんがしたことは、お世辞にも、真っ当なことだったとは欠片たりとも言えないわけなんですけれどぉ……」

が、気まずくしておきつつも、ちゃんと仲裁しようという意思はある、立派なタヌキである。尻尾をしんなりと萎れさせながらも、タヌキはなんとか、デュオの代わりにデュオの許しを請うべく七香にしょぼしょぼと語り掛け……。

「ええ。彼には思うところは何も無いわ」

「ですよね。お怒りはご尤もで……え?」

が、七香はあっけらかん、としたものである。これにはタヌキのみならず、デュオもちょっと驚いた様子を見せた。

「過ぎたことにも、手に入らないものにも、拘るべきではないでしょう」

「そ、そうなんでしょうけどぉ……」

……七香は、一瞬だけ。『手に入らないもの』と口にしたその時だけ、傷の痛みを堪えるように、表情を歪めた。けれど、それだけである。その後はまた、何事も無かったかのように表情を整えてみせたし、恨み言の1つだって零さない。

けれど確かに七香は……デュオのことが、好きだったのだ。それが、タヌキをきっかけに始まったものだったとしても。宇佐美光の生み出した幻だったとしても。それでも。

「……いえ!分かりました!七香さんがそう仰るなら、私も過ぎたことにあれこれ言うのは止めます!」

だが、タヌキは結局、気持ちを新たに、ぽん!と尻尾を立て、堂々とそう宣言した。タヌキはやっぱり、いい奴なのだ。

「そうね」

「ということで!七香さん!新たにお好きなものが見つかるといいですね!」

……だが、タヌキはなんだか、鈍いのである。

「……そうね」

「私も、ご協力できることがあれば何でもご協力しますので!」

七香がどんどん、憮然とした表情になっていくのだが、タヌキは『私にできることがあれば何なりと!』と、元気にお手伝い宣言をするばかりである!

「……なら、協力してくださる?」

「あ、はい!なんなりと!なんです?なんです?ここの誰かさん達の中から七香さんのお眼鏡に適いそうな人を探してきますか!?それとも……」

そうして。

「……あの、七香さん?あの?」

タヌキは、ひょい、と七香に持ち上げられて、そのまま抱きかかえられてしまった。タヌキは、『あ……もしかして、アニマルセラピーをご所望でした……?』と困惑気味であったが。

「……いい毛皮ね」

「あ、どうも……エッ!?ま、まさか!七香さん、タヌキの毛皮をご所望ですか!?すみませんが流石にそれはちょっと!」

七香の言葉を聞いたタヌキは、『皮を剥ぐのはお控えください!皮を剥ぐのはお控えください!』と、物騒なことを言いつつ七香の腕の中でもだもだと藻掻いた。が、それも、ぺちん、と七香にお尻を優しく叩かれてしまえば大人しくなる。

「本当に……いい毛皮だわ」

「あああ……あああああ……」

タヌキは、『お尻、叩かれた……?私、お尻、叩かれた……?なんで……?』と混乱しつつ、『皮を剥がれるかもしれない!』と恐怖にぶるぶる震えている!

……が、そんなタヌキを腕に抱いて撫でてやりつつ、七香は非常に満足そうな顔をしているのであった。

まあ、つまり……欲しいものが手に入ったかもしれない者の顔である!

「骸骨、モテモテだなあ……」

「……そうだな。骨と馬に囲まれているな」

そうして、バカと海斗は、骸骨の騎士が大層モテモテである様子をのんびり眺めつつ、林檎を食べている。ここの部屋のクリア条件は『1人で林檎を食べること』なので、バカと海斗は1つずつ、林檎を食べているところなのだ!何せ皆、カードの事なんて忘れていそうなので……。

今も、タヌキが『あの子かわいいですねえ!……エッ!?七香さん、何故またお尻を!?』とやっていたり、『で!燕はどの子がタイプなの!?気になる!こういうのすごく気になる!』と真里奈が燕を追いかけ回していたり、そんな真里奈を更に、真理奈にちょっと似た子が追いかけていたり……皆、部屋を満喫してしまっている!

「五右衛門もモテモテだなあ……」

「……彼、ヤエさん似の女性に迫られると、途端に断るのが下手になるみたいだな」

「な。あっ、皇帝がなんか、女教皇と他の女の子達に説教してる……」

「……女帝は開き直って侍らせているな……」

バカが連れてきちゃった連中についても、思い思いにこの場所で過ごしているようである。女教皇は『なんで私まで怒られてるんでしょうか……』と、不服気であったが。

「ヤエもモテモテだなあ……」

「ああ……彼女も断るのが苦手な性質か。あー……その、ちょっと手を貸してくる。樺島。林檎持っててくれ」

「あ、うん。いってらっしゃーい」

そして、ヤエが美男の群れに囲まれて困っている様子を見て、海斗は立ち上がって、ヤエを助けに行った。バカは『海斗はいい奴だなあ!』とにこにこ見守り……。

「……あれ?戦車、どうしたんだろ」

そんな折、バカが連れてきた戦車が、四郎の横で頷いているのが見えた。

なんだろう、と思って寄って行ってみると……四郎はどうやら、手近な女の子達を見せつつ、『娘はこういうかんじの子でな』とか、『妻はこういう雰囲気だった』とか、紹介してやっているようであった。尚、紹介されている女の子達は、一応林檎を持ってきてはいるものの、『妻』や『娘』の話をされている以上、なんだか極めて気まずいらしく、林檎を差し出しはしない!

戦車は、そんな四郎の紹介を聞き、女の子達を見て、ふんふん、と頷き……それから、すんすん、と四郎の匂いを嗅ぎ、何か納得したようにまた、ふんふん、と頷いた。

四郎はそんな戦車を見て、『お……?なんだ、どうした?』と不思議そうにしていたが、戦車は何故だか、満足気であった……。

さて。

「樺島。隣、座るぞ」

「あ、おかえり海斗!いらっしゃいヤエ!」

「あ、お邪魔、します……?」

そうこうしていると、海斗がヤエを連れて帰ってきたので、バカは林檎を『ほい』と返した。海斗は『そろそろお腹いっぱいなんだが』と言いつつ、食べかけだったそれをしゃりしゃりと食べ始めた。尚、バカは既に林檎を食べ終え、次の次のその次の林檎を食べているところである。おいしい!

「ヤエ、大変だったなあ」

「あ、はい……。こういうの、初めてで、その……上手く断れなくて」

ヤエは、海斗が見かねて連れてきたようである。さっきヤエを取り囲んでいた美男の群れは、今、ちょっと遠巻きにこちらをちらちら見ているのだが、バカと海斗が近くに居るからか、ヤエに寄ってくることは無いようである。

「こんなところに長居しても仕方がない。食べ終えたらさっさと次に行くぞ」

「あ、うん!そうだ!次はでっかい剣、拾いに行こうな!」

「でっかい剣……物騒な部屋じゃないだろうな……」

バカは『そうと決まれば!』と、さっさと林檎を食べ終え、そして、近くに居たかわいい仔馬から、『ひひん』とかわいい嘶きと共にカードを貰った。ありがとう!

……ということで、海斗もなんとか林檎を食べ終えたことだし、この部屋もいい加減楽しんだことだし……バカ達は、大広間へと戻るのだった!

……そんなバカと海斗の様子を見ていたヤエは、ちょっと、ぽやっ、としていたが……ぽやっとしていると、また美男が寄ってくる。

「ああ……その、僭越ながらエスコートしよう。足元、気を付けて」

が、海斗がちょっと戻ってきて、ヤエの手を引いててくてくと歩き出せば、『ああ、駄目かぁ……』とばかり、美男の群れはしょんぼり去っていった。

……ヤエは、ちょっと手を見つめて、それから、むにゅ、と笑うのだった!

さて。

……そうして大広間に帰ってきたバカ達であったが……皆、ちょっと疲れちゃったようなので、『でっかい剣がある部屋』へは、バカが1人で行くことにした。ちょっと行って、ちょっと剣を貰って帰ってくるだけなので大丈夫であろう、ということであろう。

だが。

「あれ?海斗も行くのか?」

「ああ。幾らお前でも、1人で行動させて何かに巻き込まれないとも限らないからな」

どうやら、海斗も一緒に行ってくれるようである。バカはなんだか嬉しくなってにこにこしつつ、『11』の部屋へ、海斗と2人、向かうのだった。

……そういえば、『11』の部屋は、海斗がバカのことを始めて『相棒』と呼んでくれた場所だったなあ、と思い出しながら。