軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話:特産品の開発 〜産業革命の萌芽〜

大名たちの首を絞めるための「金融」と「物流」の仕掛けは、順調にその根を張り巡らせていた。

だが、それだけではまだ戦国時代という巨大なバグを完全に回避することはできない。

いかに彼らの手足を縛ろうとも、武将たちの心の中にある「より多くの領地と富が欲しい」という飢餓感そのものを消し去ることは不可能なのだ。

『彼らの血生臭い闘争本能を根本から書き換えるには、国内のちっぽけな領地争いなど馬鹿馬鹿しくなるほどの、途方もない「アメ」が必要なのよ』

そのアメとは、すなわち莫大な「富」である。

将来、応仁の乱の火種となる大名たちを海外開拓へとけしかけ、完全に飼い慣らすための巨大な原資。

それを持続的に生み出し続けるための「魔法の打ち出の小槌」を、私は自らの手で創り出さなければならなかった。

秋晴れの空の下、私は領内を流れる水量豊かな川のほとりに立っていた。

数ヶ月前から領民たちを動員し、周囲を高い柵で囲って極秘裏に建設させていた巨大な施設。

その中心で、清冽な川の水を浴びながら、木造の巨大な「水車」が力強い地響きを立ててゆっくりと回っている。

「姫様、まことにこれでおじゃるか? 水の力で糸を紡ぎ、布を織るなど……」

付き従う筆頭家老が、未だに信じられないといった顔で巨大な水車を見上げていた。

「ええ。中に入ればわかりまする」

私が施設の重厚な扉を開けると、そこには中世の常識を覆す光景が広がっていた。

水車の回転運動が、複雑に組み合わされた歯車と滑車を通じて建物全体に伝達され、数十台もの木製の紡績機と織機を一斉に動かしている。

ガシャン、ガシャンという規則正しい機械音が、建物内に心地よく響き渡っていた。

「こ、これは……!!」

家臣だけでなく、この施設を稼働させるために京都中から高給で引き抜かれてきた凄腕の職人たち自身も、目の前で起きている事象に畏怖の念を抱いていた。

これまで、糸を紡ぎ、布を織る作業は、女たちが夜なべをして手作業で行う途方もなく時間のかかる労働だった。

それが今、川の流れる力を借りて、数十人分の作業が完全な自動化で、しかも人間よりも遥かに正確な均一性をもって同時に行われているのだ。

「姫様……信じられませぬ! 一日で、熟練の職人が十日かけても織りきれぬほどの布が、次々と仕上がっていきまする!」

興奮冷めやらぬ機織りの親方が、震える手で織り上がったばかりの一反の布を私のもとへ運んできた。

私はその布を受け取り、指先で優しく撫でた。

『……完璧ね』

それは、最高級の生糸をふんだんに使い、緻密な計算のもとに織り上げられた、目を見張るほどに美しい絹織物だった。

水力による均一な張力で織られた布は、手織り特有のムラが一切なく、光を反射して真珠のような滑らかな輝きを放っている。

史実において、この数十年後に京都の職人たちが生み出し、世界を魅了することになる最高峰の絹織物。

「西陣織」のプロトタイプ(原型)とでも呼ぶべき奇跡の一品が、私の手の中にあった。

「素晴らしい出来栄えでおじゃる。親方、そなたらの卓越した技術があってこその代物じゃ」

「もったいなきお言葉! なれど、この『からくり』を考案された姫様の御慧眼こそ、まこと神仏の御業かと……!」

職人たちは皆、熱っぽい目で私を見つめ、深く平伏した。

彼らはまだ気づいていない。

自分たちが今、数百年先の未来で起きるはずだった「 産業革命(マニュファクチュア) 」の歴史的な第一歩を、この室町時代に踏み出したことに。

私は完成した極上の絹織物を手に、再び外の川風を浴びた。

『ふふふ……大成功よ! これぞ技術革新!』

私は内心の狂喜を抑えきれず、唇の端を吊り上げた。

史実通りに応仁の乱が起きていれば、この京都にいる優秀な職人たちは戦火に巻き込まれて死に絶えるか、地方へと離散し、日本の技術の発展は数十年、いや百年単位で停滞していただろう。

『戦国時代という最悪の破壊を回避したからこそ、技術も職人も一切失われずに、こうして次の次元へと昇華させることができる』

圧倒的な品質の製品を、圧倒的な速度で大量生産する。

これを、あの堺の豪商のルートに乗せて明国や東南アジアへ「極東の最高級ブランド」として輸出すればどうなるか。

世界中の富裕層が我を忘れて群がり、我が領地には文字通り滝のように黄金が流れ込んでくるはずだ。

『この莫大な富が、来るべき大乱の火種を「金」で完全に消し飛ばすための、最強の武器になるわ』

背後で回り続ける巨大な水車の音は、私にはもう、新しい時代を告げる心強い産声にしか聞こえなかった。

世界最速の「室町産業革命」。

私はその心臓部を自らの手で力強く脈打たせ、次なる巨大な一手に向けて、着実に盤面を支配しつつあった。