軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話:圧倒的火力〜面制圧と武勇の終焉〜

洛内の細川邸。

細川勝元と山名宗全は、重い沈黙が落ちていた広間で、自らを鼓舞するように酒杯を煽っていた。

「ええい!こうなれば野戦で決着をつけるまでよ!」

勝元が顔を真っ赤にして叫ぶ。

「我らは戦場まで選ばされた。だが、野戦となれば話は別じゃ!」

「その通りじゃ!我らにはまだ、戦場を駆け抜ける精鋭の騎馬隊が残っておる!」

宗全もまた、血走った目で同調した。

彼らは洛内の本拠地に留まり、現場の指揮は配下の武将たちに任せている。

「幕府の雇った烏合の衆など、我らの武勇をもってすれば蹴散らすのは容易いこと!」

「一騎当千の兵たちが、あの女狐の思い上がりを粉々に打ち砕いてくれるわ!」

二人の最高権力者は、武士としての古い常識にすがりつき、己の勝利を微塵も疑っていなかった。

***

洛外、桂川にほど近い平野部。

反乱軍の現場指揮官である太田垣は、馬上から前方に布陣する幕府軍を見据えていた。

幕府からの屈辱的な施しによって腹を満たした足軽たちは、指定したこの場所に陣を構えている。

だが、太田垣の背筋には、得体の知れない悪寒が走っていた。

(なんじゃ、あの奇妙な陣立ては……?)

数十町先に整然と並ぶ幕府の軍勢。

槍や弓を持った部隊の前に、見慣れぬ鉄の筒を構えた足軽たちが、横一列に何層にも重なって密集しているのだ。

そしてその後方には、黒鈍く光る巨大な青銅の筒が、等間隔に何門も並べられ、不気味にこちらへ砲口を向けていた。

「殿!敵陣、動きはありませぬ!」

「ふん!大仰な筒を並べて威嚇のつもりか!野戦の作法も知らぬ腰抜け共め!」

太田垣は自らの不安を振り払うように、高々と采配を振り上げた。

「これより幕府の軟弱な兵どもを蹴散らす!我らが精鋭の騎馬隊、前へ!」

法螺貝の音が鳴り響き、数百騎の騎馬隊が土煙を上げて突撃を開始した。

「我こそは山名家家臣――」

先頭を行く武者が、戦場の習わしに従って名乗りを上げようとした、その時であった。

ズドォォォォォォォンッ!!

天を裂き、大地を揺るがすような恐ろしい大轟音が響き渡った。

「な、なんじゃ!?」

太田垣が目を剥いた瞬間、突撃していた騎馬隊の中央が、巨大な爆炎と共に文字通り吹き飛んだ。

幕府軍の後方に配備された巨大な青銅砲が、一斉に火を噴いたのだ。

人の腕が、馬の首が、千切れた甲冑の破片が、凄まじい土砂と共に天高く舞い上がる。

悲鳴を上げる間すらない。

数十騎の精鋭たちが、たった一撃の砲弾によって、無慈悲な挽肉へと変えられてしまったのだ。

「ひ、ひぃぃぃッ!?」

「バ、バケモノじゃ!天の怒りじゃ!」

信じがたい破壊力を前に、足軽たちが恐慌状態に陥る。

だが、幕府軍の攻撃はそれだけでは終わらなかった。

ズガァァァァァァァン!!

今度は前列の足軽たちが構えていた鉄の筒――『改良型火縄銃』が一斉に火を噴いた。

「ぐわぁぁぁッ!」

「痛い!痛いィィッ!」

青銅砲の破壊力に立ちすくんでいた騎馬隊が、今度は見えない壁に激突したかのように次々と吹き飛ばされていく。

(まだあんなに距離があるのに、届くというのか!?)

太田垣は驚愕に息を呑んだ。

当時の火器にライフリングなどという高度な技術はない。

だが、薫子が山科の要塞で量産させたそれは、規格化された筒と弾丸によって極端なブレを排除した代物であった。

そして何より恐ろしいのは、その運用方法である。

ズガァァァァァァァン!!

第一列が撃ち終えると即座に後ろへ下がり、装填を終えていた第二列が一斉射撃を放つ。

休むことのない、数百丁による絶え間ない『つるべ撃ち』。

それは、特定の個を狙い撃つものではない。

佐渡金山から得た莫大な先行ゴールドを湯水のように使い、大量の鉛玉をばら撒く『面の弾幕』であった。

「怯むな!突っ込め!突っ込めェェェッ!」

太田垣は半狂乱になって叫ぶ。

だが、どれだけ馬に鞭を入れようと、幕府軍の陣へ辿り着くことはできない。

刃を交える距離に近づくことすら許されず、武勇に優れた誇り高き武士たちが、次々と無慈悲な鉛玉の嵐に薙ぎ払われていく。

「逃げろォォォッ!」

「いくさじゃねえ!こんなの、ただの処刑じゃ!」

恐怖に耐えきれなくなった足軽たちが、次々と武器を投げ捨てて背を向け始めた。

「待て!逃げるな!戻れ!」

太田垣の声は、虚しく轟音にかき消されていく。

(あんなもの……あんなもの、個人の武勇でどうにかなる相手ではない……!)

太田垣は、完全に心が折れる音を聞いた。

中世の武士たちが何よりも重んじてきた、一騎討ちのロマン、名乗りの美学、そして磨き上げた個人の武勇。

それら全てが、圧倒的な資金力と工業力から生み出された『システムの暴力』によって、文字通り粉々に粉砕された瞬間であった。