作品タイトル不明
14「いつるさんの事情じゃね?」②
夏樹といつるは、リリスが経営する喫茶店「最初の妻」にいた。
リリスは夏樹が初めて見せる人物を見てなにか訳ありと察しながらも快く歓迎してくれた。
「――素敵な喫茶店ね。コーヒーのいい匂い。それに、少しお酒の匂いもするわね。夜になるとお酒も飲めるのかしら」
「そうみたいだよ。いつるさんは」
「十六歳よ。おじいちゃんがよくお酒を飲んでいたのを思い出しただけ」
「師匠はお酒を飲んだんだね」
「ええ。昔、会社の上司によく飲みに連れて行ってもらっていたそうよ」
もしかしたら浮気して刺された上司かもしれない、と思ったがわざわざ余計なことを言うことはしなかった。
「はい。コーヒー。よかったら、これも食べてみて」
「ありがとうございます、リリスさん」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、ごゆっくり」
リリスはコーヒーと紅茶、チョコレートケーキを夏樹たちの前に置く。
音もなく現れたリリスに少し驚いたいつるだったが、お礼を言うとさっそくコーヒーに口をつけた。
「――美味しいわね」
「ええ、とても」
コーヒーが得意ではない夏樹には何も言わずに紅茶を出してくれるリリスの気遣いに感謝する。
茶葉の違いはわからないが、心から美味しいと思えた。
チョコレートケーキも濃厚なのに、重くなく食べやすかった。
「あちらの方……」
「リリスさん?」
「大物魔族の名前と一緒なのね。彼女、とても強いわね。立ち居振る舞いからわかるわ」
「あ、はい」
(その大物魔族さんです、と言いたい。めっちゃ言いたいけど、話が始まらなくなっちゃいそうだからやめておこ)
「…………話をする前に」
「うん?」
「皆さん触れないようにしているから、触れていいのかわからないのだけど」
いつるは、ちらり、と店の奥の席を見る。
――そこには神々しい後光を放つゴットの姿があった。
「……あの眩しい方はどちら様?」
「いつるさん、運がいいなぁ。あの人はね、向島の都市伝説――なんか光る存在なんだよ! 見ることができるとちょっと良いことがおきるんだって。俺も三年ぶりに見たわー」
向こうでゴッドが「――え? 私ってそんな存在なんですか?」と驚いているが気にしない。
いくらなんでもいつるにゴッドの存在を言って良いものかと悩む。
どちらかと言うと、夏樹よりも強いいつると星槍さんの件で戦うことになった場合になんとかしてくれるかもしれないと期待を込めてゴッドの近くにいるのだ。
「そう……じゃあ、良いことがあるかもしれないわね」
いつるは手を合わせ、ゴッドを拝んだ。
夏樹も手を合わせ拝む。
ゴッドは急に拝まれて困惑しているが気にしないようにする。
「さて、美味しいコーヒーとケーキをいただいたから、そろそろ本題に入りましょう」
「うん」
「まず、私はこの星の人間じゃないわ」
「…………んんん? 異世界人ってことですか?」
ゴッドが「え?」とこちらを見た気がした。
「いいえ、私は異世界人ではないの。同じギャラクシーに生きる者。ただ、星が違うのよ」
(宇宙人じゃねえかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!)
リリスの喫茶店で叫ぶわけにもいかなかったので、夏樹はお行儀良く心の中で絶叫した。