作品タイトル不明
5「月読先生も大変じゃね?」
月読命は早朝の職員室の自身の机に突っ伏していた。
「し、仕事が多い。多すぎます。夏樹くんが異世界から帰還してから、なんだかいろいろなことが起きているせいで、仕事が多いんです。今までは教師生活をしながら新たな神々の動向を探っていたくらいで、教師の仕事の方が多かったのに……」
月読は昨晩から寝ていなかった。
夏樹を襲った美脚の神たちは、敵意なしということと、人質を取られていたせいで戦うことを強要されていたことが明らかとなり、戦った夏樹自身も大怪我こそ負ったが回復してしまったので「よしなに」となった。
月読としては、新たな神々をすべて滅したいとは考えていない。
あくまでも、「太陽の神」を封じる天照大神をはじめとする神々の邪魔をさせないことを第一にしている。
今までは、絶望の神や門の神を倒すべく水面下で動いていたが、夏樹たちの活躍もあって倒されている。
今は神の力を持っただけの人間でしかない月読にとって、ぜっくんはさておき、門の神は手に余っただろう。
本体がどこにいるのかわからない門の神を、まさか分体を介して斬り殺すなど夏樹ができるとは思わなかった。月読にはもちろん、天照大神にも素盞嗚尊にもできないだろう。
「夏樹くんには感謝しています。とっても感謝しているのですが……仕事量がしんどいですっ」
結局、美脚の神は「夏樹の大親友である素盞嗚尊」がとりあえず預かってくれた。
素盞嗚尊ならば、仮に美脚の神と戦うことになっても負けることはないだろう。
その間に、月読は彼らの戸籍と職場、住まいを準備しなければならない。
基本的に、自分がすべきことは自分でするスタイルの月読は、誰かに仕事を任せることはしない。
教師の仕事はさておくとして、神としての仕事は責任を持って自身でやり遂げるのだ。
そんな月読に弟は「やれる奴に押し付けちまえよ」と言うが、性格的な問題かできないのだ。
「他にもアマイモン殿、フン・フナフプ殿、ベヒモス殿の滞在許可……これは普通にサタン殿の仕事でしょう。特にアマイモン殿とベヒモス殿はゴッド関連じゃないですか。なんで私に仕事として回ってきているんでしょうね!?」
他にも橋姫からの苦情も来ている。
「そもそもフン・フナフプ殿は夏樹くんに仕事を紹介してもらうとかおっしゃっているようですが、どういうことですか!?」
「お疲れだな、月読先生」
「……萌葱先生でしたか。早いですね」
「いや、美脚の神たちが保護されたと聞いてな。悪い神ではないと訴えに来たのだ」
「おや、お知り合いでしたか?」
「うむ。放浪している最中に世話になったことがある」
月読の机にマグカップを置いてくれたのは、学校の神こと萌乃萌葱だ。
彼女も新たな神々であり、夏樹たちと戦ったことはあるが、月読に保護されて念願の教師生活をしている。
「美脚の神は新たな神々の中でも温厚な神だ。長男が美脚を見せつけながらポージングし、長女が美脚を見せつけ「私の足、キレイ?」と尋ね、次女が美脚を見せつけてドヤ顔をするだけの害のない神だ」
「……いや、鎌鼬じゃないですから。微妙に口裂け女混ざっていますし」
萌葱もそうだが、新たな神々は個性的すぎる。
討伐対象だった絶望の神も、絶望したいのかしたくないのかよくわからない神だったし、門の神は能力は厄介だが自分のことを物語の主人公のように振る舞う厨二病的な神だった。
(ある意味では、マモン殿に同行していた愛の女神がいちばんまともなのかもしれませんね)
「そういえば、朝食も食べていませんでしたね。萌葱先生、よかったらどうですか? 奢りますよ?」
コーヒーを飲んで時間を確認した月読は、牛丼屋に行こうと決めた。
せっかくなので萌葱を誘うも、
「……まさか、そう言って伝説の木の下で私に告白をするつもりでは」
「申し訳ありませんが、突っ込む元気がないんです。お腹も空きましたし」
「…………」
「そんなツッコミ待ちみたいな顔をしても突っ込みませんからね。私は七森千手さんではないのですから」
「――くっ、殺せ!」
「はいはい。で、行きますか、行きませんか?」
「行く!」
(夏樹くんも昨日は散々暴れたようですし、今日は静かでしょうね)
――さすがの月読も、まさか今日も夏樹のイベントが始まっているとは思ってもいなかった。