作品タイトル不明
1「UMA業界のお話しじゃね?」①
モスマン・忍と名乗ったモスマンをいつまで立たせているわけにもいかないので、椅子に座ってもらうようにお願いした。
朝食を一緒にするのはいいとして、義政を起こすには忍びない。
何よりも、いくらちょっと大人びた少年とはいえさすがにモスマンを見たら驚いて腰を抜かすのではないかという配慮からだった。
「……ちょっとご飯の前にお話ししましょう?」
「もちろんだとも」
「えっと、なんで?」
「なぜ、とは?」
「なんでわざわざウェストバージニア州から向島市に来たの?」
「もちろん、由良家に来るためさ」
「どんな用事でぇ?」
「――君に、会いに」
「ですよねぇ! わかっていたけど、改めて聞いちゃった!」
むしろ、ピンポイントに夏樹の部屋にいたのだ。
今更夏樹に用事がないと言われた方が戸惑うだろう。
「んで、俺に何の用事?」
「UMA界に危機が訪れようとしている」
「――なんか壮大な話になったりする!?」
「ていうか、UMA界ってなんだろう?」
聞き慣れない「UMA界」という言葉に夏樹も一登も困惑を隠せない。
そんな世界は知らないし、あったとしたらファンタジーなんてレベルではない。
「おっと、失礼した。UMA業界と捉えていただいた方がわかりやすいだろうね」
「あー、芸能界的な?」
「そうそう」
「……UMA業界と芸能界……どっちもわかんないんだけどなぁ」
夏樹も一登もUMA業界にも芸能界にも無縁だ。
ただ、後者はさておき、前者には興味津々だった。
「UMA業界に危機ってどういうこと? まさかとは思うけどUMA狩りとかしている人間がいるとか?」
「いや、それならば撃退してしまえばいいのだよ。問題はもっと深刻だ。新たな神々が接触してきたのだよ」
「まーた、あいつらか! 本当っに余計なことしかしねえなぁ! 静かに暮らしているUMAさんたちを脅かしやがって――鏖殺だ!」
「夏樹くん!? 判断が早すぎるよ!? まだモスマンさんのお話し最後まで聞いてないからね!?」
「おっと、そうだった。お話し進めてください」
最近、新たな神々に関する話題が多い気がする。
美脚の神は良しとして、他の神々、とくにぜっくんや門の神は本当に嫌な神だった。
そんな新たな神々がUMAと接触したと聞かされて、嫌な予感しかしない。
「彼らは、我々に選択を押し付けてきた。彼らの神話に加われ、と」
「でしょうねぇ」
「だと思った」
夏樹と一登も想定内だった。
「新たな神々の神話に出てくる神、もしくは怪物として名を馳せようと誘ってくるのだが、私たちUMAは人間に存在を知られてはいけない――ようで、こっそり存在を主張している」
「主張はしているんだね!?」
「テレビや動画で特集を組まれると胸が高鳴るよ。UMA業界では目撃された数でドヤれるのさ」
「……ドヤるんだ」
「UMA業界って」
主張は個人の自由である。
人間が幅を利かせているが、地球は人間のものではない。
UMAが好き勝手生きたっていいのだ。
「しかし、中には主張したいと考えている者もいてね。そのせいで意見が割れてしまっているのさ。個人的には、個々の意見を尊重したいのだが、新たな神々はどうしても胡散臭い。我々UMAを言葉通りに扱うのか怪しい。そこで」
「――鏖殺だね?」
「…………お願いする立場はこちらだけど、夏樹くんは随分と物騒だね。最近の中学生ってこんなに怖いのかな?」
モスマンに問われ、一登は残念そうに首を横に振った。
「えっと、夏樹くんだけがこんな感じです。たぶん」