作品タイトル不明
間話「さまたんのピンチじゃね?」①
――青森某所。
かつて魔王サタンと魔界の覇権をかけて死力を尽くして戦った過去がある魔族サマエルは、額に汗を浮かべ大きく動揺していた。
「――そんな、馬鹿な。ありえない。嘘だ」
長い時間を生きている魔族だが、こんな経験は初めてだ。
動揺のあまり、手にしていた空になったビールの缶を握りつぶしてしまう。
「ありえない。ないないないないないない!」
何度も確認を繰り返す。
一度、二度、三度、と間違いではないかと確認をした。
だが、目の前にある現実は変わらない。
――サマエルはゆっくりと体重計から降りた。
「やべぇ、太った」
■
私服のジャージに着替えたさまたんは、茶の間の丸テーブルの上で腕を組む。
「なんでこうなった? あれ? マジで、なんで?」
朝から晩まで、毎日畑で働くさまたんの運動量は多い。
むしろ、魔族でなかったらぶっ倒れてしまうのではないかというほど働いている。
「さまたん様、本日は村井のおじちゃんから頂いた岩魚と山女でまもんまもん。食べごろサイズなので塩を振ってまもんまもんと焼かせていただきました。今日は半分いただいて、明日はそちらのいろりでまもんまもんと焼きましょう」
「岩魚と山女か! 私も釣りは何度かしているんだけど、なかなか釣果に恵まれないんだよなぁ」
「川魚は警戒心がまもんまもんと聞きますからね」
「……警戒心が強い、な」
「そう言いまもんまもん」
「私の耳に聞こえなかったぞ!」
あいかわらず「まもんまもん」とやかましい、幼馴染みにして部下である七つの大罪の魔族であるマモンが、グレーのスーツ姿に割烹着を身につけて塩焼きの川魚をテーブルに並べる。
「……うまそう」
「まもんまもん」
続けてマモンが、厚焼き卵、ポテトサラダとほうれん草のおひたし、大根の味噌汁を並べた。
「せっかくのまもんまもんなお魚ですから、今日は冷えた日本酒でまもんっといきまもんまもん」
「きゅっ、をまもんっ、って変換するとはさすがの私も思わなかったなぁ。まあいい、って、おい! この銘柄は」
「村井のおじちゃんからいただきまもんまもん。さまたん様がよろこぶだろうと言ってくださいまもんまもん」
「……マジか……明日、朝イチで野菜持ってお礼してくるわ」
「そのほうがよろしいまもんまもんと思いまもん」
人気だがなかなか手に入らない日本酒の一升瓶に、さまたんが目を輝かせた。
その姿まるで恋する乙女のようだ。
「マモン! いいグラスを出すんだ!」
「まもん!」
棚から冷酒用の切子グラス出すと、日本酒を注ぐ。
芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
「――じゃあ、いただきます!」
「いただきまもんまもん!」
きゅっ、と日本酒を味わい、続いてまだ熱あるの岩魚にかぶりつく。
さすがマモンというべきか、塩加減が完璧だ。
このまま魚だけでもいいが、やはりお米が恋しい。
炊き立ての白米に箸を伸ばし、大きく一口。
口の中が幸せになる。
ポテトサラダはあえて荒越しにしてあるが、ジャガイモは柔らかく甘い。
ほうれん草もシャキシャキとしていて、鰹節と醤油のアクセントがさまざまな可能性を示してくれる。
さまたんの好物である厚焼き卵は焼きたてということもあり、中はとろっとしている。甘くしつつも出汁も効かせた卵焼きはそのまま食べてもよし、おろしを乗せても美味しい。
味噌汁の出汁加減はもちろんだが、細く切ってよく火が通って柔らかくなった大根に味噌がしみてうまい。米が進む。
あっという間に、酒も無くなった。
「ふぃー。幸せってこういうことを言うんだろうな。ごちそうさまでした!」
「お粗末様もんまもん!」
「………………って、太ったのはこのせいだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」