軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7「誘われたんだけど吐き気がするんじゃね?」

放課後の教室で、サボった罰の課題を片した夏樹はうーんと背伸びをする。

少し離れた席には、都が夏樹の邪魔をしないように読書をしている。彼女は監視という名目があるので、学校に夏樹がいる間は近くにいるようだ。

都は、姉と一緒に行く遊園地のガイドブックを眺めている。あまりにも集中しているので、声をかけていいものか悩む。

(そういえば、澪さんはどうしているんだろうね。ちょっと気になるな)

体面上の監視役として澪も名が連なっているので、そのうち会えるのかなと期待する。

そろそろ帰ろうと思い、都に声をかけようとした時だった。

「あー! いたいた!」

朝と同じ軽いノリで松島明日香が教室に入ってきた。

夏樹はとっても嫌な顔をしたが、彼女は気づいていないのか、気にしていないのか、構わず近づいてくる。

都が警戒心を強くして立ち上がるが、「大丈夫」と目で制す。

優斗も、杏も、そして明日香も、地球に存在するファンタジーに関わらせたくないのだ。

善意ではない。

なんだかんだいってファンタジーが好きな夏樹だからこそ、こっち側に彼女たちを入れたくなかった。

「探しちゃったよ。一登に夏樹の連絡先聞いても絶対に教えないってウザいし、知ってそうな杏や優斗も連絡取れないし。靴があったから学校にいることはわかっていたけど、教室でプリント?」

「君には関係ないでしょう。なにか用でも?」

「あ、そうだった。夏樹って、これから暇? 暇じゃなくても付き合ってほしいんだけど」

「嫌です」

「即答!? でも、絶対来た方がいいよ? 来なかったら後悔するよ?」

「いえ、いいですー」

「そんなこと言っても気になるくせに」

「お話ちゃんと聞こう? 俺の声聞こえてますかー? 会話のキャッチボールしよう?」

何を言っても明日香には夏樹の言葉が届いていない。

実に面倒臭い人間だと、ため息を吐く。

やはり夏樹の態度に気づかない明日香は機嫌よく近づいてくると、

「これからバスケ部の男子たちと良いことするんだけど、夏樹もおいでよ」

よろしくないことしか察することのできない言葉を吐いた。

「おえ」

同時に、夏樹に吐き気が込み上げてくる。

(よくも、まあ、都さんがいるのに堂々と……というか、複数人でのお誘いとかいやぁ! きんもー! きっと思春期でお盛んな男子中学生にとっては女神のような存在なのかもしれないけど、俺には気持ち悪くてしょうがない)

口元を押さえながら、夏樹は異世界でとある貴族の令嬢から告白されたことを思い出す。初心な反応をする可愛らしい子だったが、裏では奴隷を侍らせて口にするのもおぞましい行為を好むような子だった。

もちろん、初めから夏樹は相手にしなかったが、性癖を知って以来近づきもしなかった。

「ちょっと、おえってなによ。あ、恥ずかしがってるんでしょう? 男子って最初こそ嫌がるフリをするけど、興味津々なのわかってるんだから。ほら、ね?」

「無理です」

「え?」

「いや、本当に無理です。勘弁してください。お金ですか? お金払ったら勘弁してくれますか? まじ無理ですから。本当に無理ですから。きもいきもい。おえ」

夏樹も男子中学生なので性欲はあるし、女性にも興味がある。

しかし、明日香は生理的に受け付けない。

優斗の魅了に影響されていないにも関わらず、軽いノリで誘ってくるような明日香に夏樹はひどい嫌悪感に襲われるのだった。

「良い加減にしなさい!」

ぐいぐい来る明日香に唖然としていた都は、夏樹を守るために大声を張り上げてくれた。

しかし、明日香は都を一瞥すると、すぐに興味を失ったのか背を向けてしまう。

「由良くんが迷惑そうにしているのが、いいえ、はっきり拒絶しているのがわからないんですか?」

「水無月さんだよね。男子から人気がある癖に、興味ありませんみたいな態度の人にはわからないみたいだけど、男子って恥ずかしがり屋さんだから。フリだから、フリ」

「……今の由良くんを見てそう思えるのなら、お医者様にかかったほうがいいでしょう。被害者かと思って黙って見守っていましたが、もともとの素質があるようですね」

「意味わからないけど、幼馴染みとの会話を邪魔しないでほしいなー」

「ふふっ。笑わせないでください。幼少期に少し遊んだだけの、しかも男子と間違えられていたような人が」

「かもしれないけど、今は女の子じゃん? 男子だってみんな認めてくれてるし」

「少し言い方が悪かったようですね。由良くんは姉の旦那様になる身です。あなたのような人とのお付き合いはしないでしょう」

「え? なにそれ初耳!」

なにやら聞き流せないことが聞こえた気がするが、今は明日香から逃れるのが先であって、都への追及は後にする。

もう面倒なのでスクールバッグを持って、さっさと教室から出ようとした。

しかし、

「えー? 水無月さんのお姉ちゃんて、ギャルっぽいのに陰気臭い人だよね?」

姉妹の仲を修復中の都に対し、明日香は言ってはいけないことを言ってしまった。

ぷちーん、と都の中で何かが切れるような音がした気がした。

「――貴様っああああああああああああああっ! 私のお姉ちゃんを馬鹿にしたなぁああああああああああああああ! 表に出ろ、このクソビッチがあああああああああああああああああ!」