作品タイトル不明
100「七森家で変化じゃん?」①
――地球。
向島市から離れたとある地方都市に、霊能力者の名門七森一族の屋敷があった。
古くから院に所属し、人外を狩ることに特化した生業をしてきたのが七森家だ。
そんな七森家は、数年前からその活動が低迷している。
一番の理由は、当主と次期当主が数年の間、トイレから出てこないからだ。
何も数年腹を下しているわけではない。
――七森千手の停止の魔眼によって動きを止められているのだ。
勇者夏樹と愉快な仲間たちの一行に加わっている七森千手は、現当主でありトイレをひとつ占領している七森康弘が外で作った愛人の子だ。
しかし、初代当主が魔眼――当時は邪眼――持ちであったことから、魔眼持ちの一族としていた七森家で、当主と同じ停止の魔眼を持っていたのが千手だった。
魔眼持ちなど旧家の歴史を辿っても決して多くない。
現当主の息子であり次期当主の七森英智、長女七森百恵は魔眼を持っていない。末の弟七森淳也は左目限定で相手の力を見る目を持っているが、魔眼と言うには力は弱い。
何よりも、当主の康弘も魔眼を持っていなかった。
魔眼持ちが少ない七森一族だが、目に対しての能力を取得することには長けており、一族に伝わる技術は継承されている。
だが、やはり生まれ持った力というのは霊能力者として、特に旧家では重要だった。
そこで、当主康弘は魔眼持ちの千手を認知し、引き取り七森を名乗らせた。
勉強もでき、霊能力者としてもいずれは一流になるだろう千手を気に入っていた。
野心のある康弘は、子どもたちを使い名家と深く繋がり魔眼以外の力をどんどん取り込んで院の中で地位を得ようとしていた。
子どもたちに愛情はあるが、道具としての愛情にすぎない。
しかし、千手にはそれ以上の思い入れがあったのだ。
それをよく思わなかったのが、長男英智と長女百恵だ。
ふたりは、愛人の子でありながら自分たちよりも能力を持ち、父に期待されている千手を疎ましく思っていた。
兄と妹の仲は決していいわけではなく、むしろ当主の座を狙っていがみ合っていた。
それでも、千手に対しての悪感情は同じで、協力していじめをしていたのだ。
愛人の子ということで食事を共にすることを許されない千手に嫌味を言うことから始まり、行為はエスカレートしていく。
稽古と称して暴力を何度も繰り返した。
誤算だったのは、千手が「やり返す子」だったことだ。
陰湿ないじめをすれば、パソコンをウイルスだらけにされ。SNSで嬉々として書いていた悪口を晒された。
外で友人を無くしたのは言うまでもない。
次第に暴力に暴力で返されるようになったふたりは、千手の面倒を見ていた使用人にも嫌がらせを始めた。
七森家の使用人は大半が千手に同情的だ。
その大半が兄と姉の嫌がらせのせいだが、そんなことを知ったことではないふたりは使用人に悪さを始めた。
最初こそ、些細な嫌がらせだったのだが、千手が使用人にこぼした、
「――僕ね、立派な投手になるんだ」
という言葉を聞き、暴走したふたりは使用人たちに暴力を振るった。
――そして千手の逆鱗に触れた。
英智は、冷蔵庫に入った炭酸水にまさか下剤が入っているとは知らず稽古の後に飲み干し、腹を下してトイレに駆け込んでズボンをずらしたその時――ある意味、一番気を抜いた瞬間に、千手の停止の魔眼を食らった。
後先を考えない千手の停止は、誰も解くことができなかった。
さすがにこれを良しとしなかった当主康弘が千手を叱責したが、千手はそんな父の言葉に反論した。
すると、父は問題となった使用人を首にすると言い出し、やはりそれが千手の逆鱗に触れた。
翌朝、トイレに入った康弘は千手の停止によってトイレの住人となった。
二度そんなことがあれば姉百恵は警戒した。
だが、千手も三度同じことができると思っていなかった。
代わりに、念入りに調べた姉が婚約者がいると言うのに、同じく婚約者がいる男性と浮気していることを知ると、ふたりが逢瀬を重ねている瞬間に停止の魔眼を食らわせた。
さすがに七森家以外の人間を半永久的に停止させるわけにもいかなかったので、一週間だったが、その間に両者共に婚約相手から婚約破棄され、慰謝料を請求された。
一週間後、ふたりにとっては一瞬の出来事だったが、世界は大きく変わっていただろう。
現在も、当主康弘と英智は停止して、百恵は千手に怯えて表だって動こうとしない。
そんなわけで、七森家は緩やかに衰退していた。
――しかし、七森千手が夏樹と共に異世界に行ったことにより、突如として義弘と英智にかけられていた「停止」が解除されたのだった。