軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66「アマイモンとガチバトルじゃね?」③

ブレイバーズ王国王宮に、第一王子トレイシー・ブレスコットがいた。

王が不在の間に、国を任されたトレイシーは玉座に座り足を組んでいる。

「くくく、まさか父上が国を空けるとは思いもしなかった」

鎧を身につけた三十を過ぎた強面の男だった。

身なりはいいが気品がない。

叩き上げの武人という印象を与える風貌だ。

だが、そんな武人めいた外見に反し、内面はドロドロとした感情を煮詰めたものを持つ男だった。

第一王子でありながら側室の子であるため、正室の子である第二王子ルーサー・ブレスコットや、第一王女ベアトリス・ブレスコットと比べられ、軽んじていた貴族も多い。

だが、研究にしか興味がない大三王女ジョスリン・ブレスコット以外の王族はすべて死に絶え、残ったのはトレイシーだけ。

これには他の勢力を担ぎ上げていた貴族たちも面食らっただろう。

他ならぬトレイシー自身が、棚ぼたな現状に一番驚いているのだ。

しかし、このチャンスをモノにしない手はない。

「父上がいない間にこの城をすべて我が物としよう。逆らう者はすべてころ――」

トレイシーがくつくつと笑った時、何かが城壁を突き破ってきた。

「……………は?」

玉座の近くに瓦礫の山が突如できたことに、トレイシーは唖然とする。

続けて、瓦礫を蹴り飛ばしてひとりの少年が現れたことに、さらに驚くことになった。

「貴様……由良、夏樹」

「あん?」

頭から血を流し、腕がありえぬ方向に曲り、口周りと服を赤く染めた者はかつてこの国に勇者として召喚された異世界人由良夏樹だった。

トレイシーは剣を抜いた。

「貴様! 勇者でありながら我が国を裏切りおって! よくおめおめと私の前に顔を出せたな!」

ベアトリスは彼のおかげで名を上げ、一時期は女王になることさえ期待されていた。

夏樹が勇者としてブレイバーズ王国にいた頃、トレイシーも何度も話しかけたがそっけなくされただけだ。

「……あんた、誰?」

「き、貴様!」

自分にことに気づいてもいない夏樹に激昂したトレイシーが剣を構え夏樹に向かう。

――それが悪手だと知らずに。

殺意を向けてしまった。

それだけで、彼の攻撃対象となった。

「誰だから知らないけど、邪魔するな」

いつの間にか、元に戻っていた腕で殴られる。

彼にとって軽く殴ったくらいだったのかもしれない。

だが、トレイシーの腹部に大穴が空いていた。

「……え? あ? ……な……で?」

「ていうか、ここどこ?」

由良夏樹はトレイシーに目もくれず、消えた。

凄まじい速度で移動したと理解したのは、瓦礫が彼の動きの余波で吹き飛ばされたからだ。

倒れるトレイシーに、側近たちがかけよる。

しかし、トレイシーはもう絶命していた。

「ただいま! 随分遠くに飛ばしてくれたじゃないの!」

「元気そうでなによりだ」

アマイモンの前に戻ってきた夏樹は血を吐き出し、拳を握る。

「――八割で行くぞ」

「舐めるな。私と対等に戦いたいのであれば、全力を出」

今度は夏樹の蹴りによってアマイモンが吹き飛んだ。

「ばーか! 五割とか八割とか適当に言っているに決まってんだろ! もう、俺もどのくらいの力で喧嘩しているかわかんねえんだよ!」

瞬く間に戻ってきて拳を繰り出すアマイモンの腕を掴み、背負い投げする。

地面に小さな身体を叩きつけ、踵で追撃する。

アマイモンの腹を全力で踏みつけ、彼の身体がくの字に折れる。

夏樹の力に耐えられず、地面が砕けた。

そのわずかな間に、アマイモンは夏樹の足を掴みお返しとばかりに地面に叩きつけた。

二度、三度、四度、五度。

最後に振り回されて放り投げられた。

地面に激突し、転がっていく。

背を何度も打ち付けながら、体勢を整える。

砕けた地面を軽く蹴ってアマイモンに肉薄する。

夏樹とアマイモンが互いの手を掴み合う。

奥歯を噛んで力を入れるが、力負けしてしまう。

「本気を出せ、由良夏樹。私も出す。後先考えない楽しい戦いをしよう!」

その言葉と共に、夏樹の顔面に拳が叩き込まれ、腹部を蹴られた。

意識が飛びかける。

必死に意識を保とうとする夏樹に、追撃はなかった。

アマイモンは、手を緩めたのだ。

「聖剣の勇者が聖剣を握らないことに私は憤りを覚える。海の勇者が、その力を使わない事に悲しみを覚える」

「――あー、なんか、ごめんね」

夏樹は謝罪した。

アマイモンを舐めていたわけではない。

正直、もう少し力を出せたし、自分が勇者の力抜きでどれくらい戦えるのか見てみたかったのもある。

しかし、結果的にアマイモンに不満を抱かせた。

これは良くない。

「――聖剣さん」

「ようやく呼んだわね。あんたは弱いんだから、私を頼ればいいのよ」

「うっす!」

夏樹の手に聖剣が握られる。

「――それでいい。私が戦いたかった勇者由良夏樹だ!」

「お待たせ。だけど、全力は出してやれないぞ。見たけりゃ、魅せてみろ」

「――なんと挑発的な! だが、いいだろう! 我が、力魅せよう!」

アマイモンが楽しそうに笑い次の行動に移そうとする。

――よりも早く、夏樹が聖剣を振るいアマイモンを袈裟斬りにした。