作品タイトル不明
65「アマイモンとガチバトルじゃね?」②
由良夏樹は大きく動揺していた。
「――俺の個人情報が身内から流出している!」
どくんどくん、と心臓が早鐘のように脈打つ。
(……ま、まさかとは思うけど、あれだけは、あれだけはバレてない……よ、ね?)
夏樹も思春期な男の子だ。
秘蔵のファイルを作ってこっそり隠している。
異世界に帰還してから、忙しく、慌ただしく、楽しいのでファイルを見ることはないが、こっそり中身をバージョンアップさせていたのは秘密だ。
アマイモンの話を聞く限り、母はまだその内容を知らないと思える。
もしくは、まだアマイモンが言っていないだけで、すでに彼にはバレているかもしれない。
「――安心していい、由良夏樹よ」
「――っ」
まさか、と夏樹は動揺した。
呼吸が荒くなり、口が渇く。
つばを飲み込むことさえ難しく感じるほど、緊張している。
「私はフェアに戦いたい。君が最近、欧米ファイルや婦警さんファイルを新たに追加したことは、このアマイモンの心にしまっておこう」
「だから言ってるぅうううううううううううううううううう!」
バレていた。
夏樹は小梅たちを見る勇気がなかった。
アマイモンの声は決して大きいわけではない。
なんか話しているなー、くらいに聞こえていなければいいのだ。
(――消さないと)
パソコンの中身ではない。それは、もちろん消さない。
(内容を知る奴をひとりでも消さないと)
「ちなみに、他にも調べている。例えば、大地の勇者佐渡祐介に関してガープが調べたのだが」
「……だが?」
「私が知るには少々早いと内容を教えてもらえなかった」
「だいたい想像できる!」
「ふっ、ガープは私のことになると少々過保護でな。ガープが言うのならば、私が知るには過ぎた内容なのだろう」
「う、うん、知らなくてもいいと思うよ。俺も別に知りたくないかなーって、あまり深掘りしたくないからこの話はやめよう。ていうか、俺の話もやめよ? 純粋にバトルしようよ! なんか精神攻撃をめっちゃくらってるんですけど! 心は強くなっていたと思ったのに、もう少しで折れそうだよ! ぽきっといくよ、ぽきっと!」
夏樹は思い描いていたアマイモンとの戦いが微妙に違うことに抗議した。
まさか精神攻撃をしてくるとは思いもしなかったのだ。
恐ろしい敵だ、と戦慄する。
今までこれほど恐ろしい敵がいただろうか。否、いない。
「……精神攻撃をしたつもりはなかったのだが、すまない。謝罪しよう。このようなことで心を折るのは望んでいない。由良夏樹よ、君が心を折るときは――私の強さに屈服した時だ」
「言うねぇ」
「言うとも」
「そうそう。こう言う展開だよ、俺が望んでいたのは。俺の隠しファイルがどうこうって話じゃないんだよ! いいぜ、アマイモン! 来いよ、五割で戦ってやる!」
夏樹の魔力が高まる。
「――ほう」
アマイモンが目を見開いた。
「人の身でこれほどの力を出すことができるとは恐れ入る。さぞ研鑽を積んだのだろう」
「異世界っていうのは戦いばかりでね。どいつもこいつも俺に押し付けるから、勝手に強くなっちまったよ」
「悲しい強くなり方か。だが、君は、まだ力を五割だという」
「そうだ」
「ならば、早急に十割の力を出すことをお勧めする。現時点の力が君の本当の力の半分であるのなら、私には及ばない」
アマイモンの姿が消えた。
「――――」
夏樹は彼の速さを追えなかった。
わずかに衣擦れが耳に届き、ほぼ無意識に防御した。
「――遅い」
アマイモンの声が聞こえたと同時に、衝撃が走る。
防御のために構えた腕がへし折れ、そのまま肋を砕き、骨が内臓に刺さった。
血を吐く暇も与えられず、視界が回った。
蹴り飛ばされたと理解したのは、数秒後のことだった。