軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32「しののんと明日香が戦うんじゃね?」①

安倍東雲は、苦戦していた。

「はぁ……はぁ……怖いなぁ。まさか自分が中学生相手に手も足も出んとか思わんかったわぁ」

「お兄さんってもしかして雑魚だったりするの?」

「同世代の霊能力者の中なら……一番って自負はあったんけど、ちょっと自信なくしてもうたよ」

「あはははは、かわいそー。慰めてあげよっか?」

「ごめんや」

ケラケラと笑う松島明日香の前には、星熊童子、熊童子が倒れていた。

戦いが始まって数分の間に、手も足も出ずに揃って地面に這いつくばる結果となった。

「……まさか自分と、おっかない鬼の三人がかりで手も足も出んとか……最近の中学生って怖いんねぇ」

夏樹といい、一登といい、昨今の中学生は何かと規格外のようだと東雲は笑うことしかできない。

「夏樹ってどっか行っちゃったみたいなんだけど、それなのに戦うの?」

「どういう意味や?」

「えーっと、別世界に飛ばされちゃった夏樹が帰ってくるのかどうかもわからないわけじゃん? もっと言うと、二度目の異世界に飛ばされたことで次は死んでいるかもしれないでしょう?」

「……自分には夏樹くんが死ぬとは思えへんけどね」

「そう? 夏樹だって普通の人間だから、死ぬと思うんだけどなぁ」

「……夏樹くんが、普通?」

「いや、そこで首を傾げられると私が困るんだけど」

倒れている星熊童子と、熊童子でさえ「え? あいつ普通?」「べあ?」と首を傾げていた。

「夏樹くんが普通かどうかはさておくとして――君も大概普通やないと思うんけど?」

東雲はすでに負傷している。

致命傷こそ負っていないが、肩や脇腹から血を流していた。

――その原因は明日香の能力にあった。

能力、と言っていいのか悩ましい。

松島明日香はその身に人間、天使、魔族、悪魔、そして新たな神々を取り込んでいた。

――否、食っていた。

人間でありながら、なぜそのようなことが可能なのか東雲にはまるでわからないが、彼女は実際に食い糧にしている。

しかも、一度食った者を吐き出すことで、自分の武器に、盾にしているのだ。

悍ましい。

人間の戦い方ではない。

魔族でも、神でもない。

――化け物だ。

再生という器用なことはできないので、回復の符を使い治療を試みる。

時間はかかるため、会話をすることで時間稼ぎできればいい。

すでに星熊童子と熊童子は再生を終えていて、負傷したふりをしながら襲いかかるタイミングを伺っている。

(まさか自分が鬼と一緒に戦うことになるとは思わんかったなぁ)

東雲の脳裏に、白い鬼が浮かぶ。

だが、首を横に振った。

「松島明日香はん、君ってなんなん?」

「どう言う意味?」

「明日香はんって、本当に人間なん?」

「んふ」

明日香は東雲の問いに、笑みで応えた。

「……聞くだけ野暮やったね。明日香はんは……人をやめてしまったんやね」

「違うよー! もう、みんな誤解するんだからぁ! 私ね、人間を超えたの!」

「……解釈の違いとでも言うんか?」

「そうだよ! もう!」

明日香は頬を膨らます。

その仕草は、中学生よりも幼く感じた。

「ブレイバーズ王国の王様がね、よくわからないけど変な研究をしているの。その研究の力で、私を強くしてくれたんだよ?」

「……ありえへん」

「そのおかげで、エナジードレインしか持っていなかった私は、強くなったの! みんな私に夢中! 気持ちいいことも大好きだけど、食べるともっと気持ちがいいの! 気持ちがいいのに、強くもなれるなんて最高じゃない!」

「……堕ちてもうたんやね」

「……なんでそういう目で見るの?」

東雲の目は、哀れみの目だった。

明日香はそれが気に入らなかったようで、笑顔を消し無表情となる。

「堕ちたとか、そんなわけないじゃん。私はずっとこうだったの。みんなが私のことを好きって言うから好きになってあげたのに。私のこと可愛いって言うからお礼をしただけなのに。どいつもこいつも、お前みたいな目をして――!」

「明日香はん、それは」

「うるさい! この世界をぜっくんたちのものにしたら、私は日本に帰るの! そして、私を見捨てた奴らをみんな食ってやる!」

東雲は目を瞑り、大きく息を吸った。

傷は癒えた。

問題なく戦える。

「明日香はん、君には同情しとる」

「はぁ?」

「ぜっくんに魅入られてしまったんやろうけど、君はあまりにも危険や。正義の味方を気取るつもりはないんやけど、君をこのまま日本に帰すことはできへん」

「じゃあ、どうするっていうの?」

東雲は、悲しげな顔をした。

「堪忍な――おいでませ、朱雀」

――安倍東雲は、松島明日香を殺すと決めた。