作品タイトル不明
61「敵の連絡先がほしいんじゃね?」②
吹き飛んだのは絶叫の神の方だった。
地面を転がるのではなく、叩きつけられて蜘蛛の巣状のクレーターを作り倒れた。
光の剣を持っていた右腕が消失し、服も上半身は裸になっている。
――だが、生きていた。
「……手を、抜きましたね」
「抜いたさ。伝言役を殺しても力の無駄遣いだからさ」
「なるほど。私は全力で殺すつもりだったのですが……強い」
手加減されながら絶叫の神は満足そうな顔をしていた。
夏樹としても、手抜きは不本意だったが、河童たちが住んでいた森を雷で焼く可能性を排除し、絶叫の神を殺さないという制限を設けるとどうしても手加減するしかなかった。
「じゃあ、ぜっくんに伝言を頼むよ」
絶叫の神に向けてヒールを施す。
彼の右腕以外の怪我が癒えていく。
「……回復までできるとは……多芸ですね」
「勇者だからね」
「ここまで力の差を見せつけられると完敗です。喜んで伝言をお預かりしましょう」
「――全員でかかってきやがれ」
夏樹からぜっくんへの伝言は、簡潔かつ挑発的だった。
「……なるほど」
「俺とまともに戦える奴が何人いるか知らないけど、遠慮なんてしなくていい。全員でかかってこい」
夏樹は不敵に笑った。
「――ハンデくらいくれてやるよ」
聖剣を肩に乗せた夏樹は、どこまでも傲慢だった。
「あなたならぜっくんを倒してしまうかもしれませんね」
「かもしれないじゃなくて、倒すんだよ。異世界で神話つくるとか勝手にやればいいけど、こうやってまた巻き込まれたらたまったもんじゃない」
「あなた側からしたら真っ当な言葉ですね」
「だろ?」
夏樹につられて絶叫の神も笑った。
彼は起き上がると、ゆっくり飛翔する。
「伝言をしかと預かりました。必ずぜっくんに伝えましょう」
「よろしくね」
「――それと、もしあなたがぜっくんに勝ったのなら、私はあなたに忠誠を誓いたいと思います」
「素直に友達になりたいって言えばいいのに」
「そうですね。少しでも可能性があれば友達になりたい、そう願っています。――では」
「うん。じゃあね」
絶叫の神が夏樹に背を向け飛んでいく。
手を振る夏樹の背後に聖剣さんが浮かぶ。
「――夏樹、わかっているわよね?」
「もちろん。――見られているよねぇ」
絶叫の神が来るよりももっと前から、夏樹たちを見ている「視線」になんとなく気づいていた。
ただ、確証はなく放置していたのだが、絶叫の神がこの場に来たことと、戦いの最中視線をはっきりと感じたことで、疑いは確信に変わった。
「覗き見するような品のない奴にはお仕置きが必要よ」
「奇遇だね、俺もそう思っていたんだ」
夏樹と聖剣さんは、にぃ、と唇を釣り上げた。
「やっちまいな!」
「へい!」
聖剣を構え、「視線」に向けて刀身をまっすぐに振り下ろす。
手応えと同時に、不愉快な視線が消えた。
「おし!」
「じゃあ、帰りましょう。さすがに今日は私も疲れたわ」
「俺も。はやく河童さんときゃっきゃうふふしたいよねー」
「……誰もそんなこと言ってないわよ」
「またまたぁ!」
夏樹はくるりと身を翻した。
地面を爪先でとんとんと確かめると、魔力を足に集中させ、目にも見えぬ速さでその場から消えた。