軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70「少しは救いがあってもよくね?」

水無月家の面々は、夏樹の背中を見送りながら深々と頭を下げていた。

しばらくして、顔を上げる一同。

「由良夏樹様……まるで友人の家に遊びに来たような気軽さで神殺しを行い、なにもなかったように帰っていきました。とても不思議な方ですね」

茅が夏樹に抱いた感想は、概ね同じだったようで全員が頷く。

「それにしても、茅。お前がちゃんと澪の出自を明らかにしておれば、もっとやりようはあったのだぞ! いくら若かったとはいえ、当主になったのだから、その辺りは判断するべきだった。澪が生贄になっていたらどうするのだ!」

「申し訳ございません。しかし、雲海様も、澪のために神殺しの武器を集めていてくださったと聞いておりますが」

「ふん。どれも人には使えぬか、大した力を持っておらんかったわ」

「……おばあちゃん」

雲海老女も、隠れて神殺しを企んでいたようだが、夏樹と違って突出した力がないため道具を求めていたようだ。しかし、土地神を殺せるほどのものはなかったようだ。

「改めて、すまなかった、澪。お前には辛く当たってしまった」

「ううん。おばあちゃんが気にかけてくれているのはわかっていたから」

「そうか。もう重荷を背負うことはない。これからは自由に生きるのだ」

「――うん」

「お姉ちゃん、よかったねぇぇぇぇぇぇ!」

改めて、絆を確認し合う雲海と澪に、都が感涙している。

茅は口には出さなかったが、都の変わりように驚いていた。

生贄になる姉への折り合いがつかず、都も都なりに苦しんでいたのはわかっていたのだ。しかし、このような子だったか、と首を傾げてしまった。

「何はともあれ、由良殿のおかげでわしらとみずち様の永きに渡る苦しみは解放された。問題は若い者たちだが、まあ、心配せずともいいだろう」

「違いありません。おそらく、いえ、確実に彼らは由良様になにかしようなどと思わないでしょう」

星雲相談役の言葉に、柊が肯定する。

柊の言葉通り、水無月家の若手とされる霊能力者たちは夏樹に対して最初こそ反感を抱いていたが、今は違う。彼らに残っている感情は、夏樹への純粋な恐怖だ。

あまりにも圧倒的な力を目の当たりにし、逆立しても勝てない。いや、そもそも挑んではいけない相手だと刷り込まれていた。

一部の者を除いて、今も軽い恐慌状態に陥っている。

「問題は由良殿との今後の付き合いか」

「当主として、いえ、ひとりの人間として、恩に報いたいと思っています」

「わしもじゃ。だが、まだ幼く、危ういのも事実。監視という名目で見守り、手助けできることがあれば支えるのはどうか?」

「よいお考えかと思われます。まずは、今回の神殺しに関してもできるだけ情報を伏せておくべきでしょう。もしくは、生贄を差し出す前に神が亡くなられたと」

「無理はあるが、神を殺したよりも、神が穢れのせいで亡くなられたと報告した方が、向こうも納得できるかもしれんな。神殺しがあったなどと伝えれば、由良殿を取り込もうと接触をするだろう。しかし、それは由良殿もわしらも望まん」

神は人にとって必ずしも良い存在ではない。

時には祟ることもある。

院では、人に害を与える神を倒すこともあるのだが、神と戦える人間は少ない。

夏樹の存在を知れば、確実にスカウトするだろう。

「都」

「はい」

「由良様のお傍に控えなさい。ただし、くれぐれも! 失礼の! ないように!」

「わかっています! もう馬鹿なことはしません!」

「……ならいいのですが」

姉との関係が良好に戻り、生贄の件もなくなったのであれば、都の言動もちゃんと完治していると信じたい。

「澪」

「はい」

「あなたも由良様のお力に」

「うん。お父さんを救ってくれた恩人だもん。ちゃんと恩返しする」

「よろしい」

都と澪が頷くのを見ながら、星雲相談役がつぶやいた。

「時代が時代なら、由良殿と縁を結んでしまうのが早いんだが……それは不誠実であるしな」

「……せめて私があと二十若ければ」

「雲海殿、それは逆効果になると思うがな」

雲海は、口には出さなかったが都と澪のどちらかがなにかしら縁を持ってきてくれればいいと期待する。

もっとも、強要するつもりは微塵もない。

自分の孫でも送り込みたい、などと考えてしまうのは、悪い癖だと反省する。

「まあ、とりあえずは、壊れた家の片付けだな。あと、山に関しても誤魔化さんと」

やることはたくさんある、と水無月家は苦笑するのだった。

土地神みずちの魂が真っ白な空間に漂っていた。

「お疲れさんだったな、みずち。俺たち上が干渉を最低限にしたせいで、お前さんたち土地神には苦労ばかりだ。申し訳ないと思うが、こればっかりは決まり事だからな。許せ」

白い影が、口調こそ少し荒いがとても優しい手つきでみずちの魂を掬うようにそっと包んだ。

「お前さんの魂はちゃんと生まれ変わらせてやる。にしても、ずいぶん削られたな。少し神気を足さないといけねえな。あのにいちゃんも想像以上の力を持っているな」

白い影が、みずちの魂を大事にしまう。

「おい、じじぃ! 早くしな!」

「うるせえ、ばばぁ! 数分でうだうだ言いやがって!」

白い影の背後に、黒い影が現れ気の強い声を出した。

「晩飯抜きにされたいのかい!」

「今日は肉じゃねえか、やめろ!」

「酒も飲んじまうからね!」

「おま、また家出すんぞ!」

「せいせいするわ!」

「こんの、くそばばぁ!」

「うるせえ、くそじじぃ!」

白と黒の影は、そんなやりとりをしながら真っ白な空間から消えていった。