作品タイトル不明
間話「俺の知ってる義妹と違うんじゃね?」①
佐渡ひなたは不機嫌だった。
「馬鹿兄貴ったら今日も帰ってこないじゃない!」
佐渡祐介の妹ひなたは頬を膨らませて朝食の席にいた。
「祐介ならお友達の家に泊まるって言っていたじゃない」
「でも! いきなり引きこもったと思ったら、次は帰ってこないし! 兄貴になんかあったのかと思うじゃない!」
「あらあら、ひなたったらお兄ちゃんが心配でしょうがないのね」
「ち、違うもん!」
ひなたは母の指摘に、顔を赤くして否定する。
ショートカットの黒髪の前髪だけヘアピンで止めた、快活な少女だが、頬を赤くする姿は乙女だ。
朗らかな母は祐介の行動をあまり気にしていない。
ひなたとしても、先日までの引きこもっていた兄の様子がおかしいことをよく知っているので、元気と笑顔を取り戻したことは喜ばしいと思っている。
――しかし、以前約束した遊園地にも、水族館にも、動物園にも映画にもショッピングにも連れて行ってもらっていない。
元気になった兄は埋め合わせをすると言ってくれたのに、出て歩いてばかりだ。
大学に行くのではなく、友人と会ってばかりだった。
最初は大学での人間関係でなにかあったのかもしれないとひなたは心配した。
人間関係が難しいと言うのは中学生のひなたでもわかる。
だから、想像したくないが、恋人がいてうまくいかなかったとか、好きな人がいてフラれてしまった、なんてこともあるかもしれない。
友人と些細なことで喧嘩してしまうことだってあるが、それだけで引きこもるとは思わなかったので、女だ、と思っていた。
(でも、お兄ちゃんってモンスター娘大好きだから、今さらただのヒューマンに興味を持つとは思わないんだけど)
ベッドの下、本棚、パソコンを念入りにチェックしているひなたとしては、兄が大学で恋人を作るとは思えなかった。
「ひなたちゃんの心配もわかるわ。私だって、祐介が急におかしくなったときにはどうしようかと思ったもの」
もちろん覚えている。
父と共に幾度となく扉越しに母は声をかけていた。
しかし、返事が返ってくることは少なく、ときどき返事があっても喉が避けんばかりの絶叫だった。
「……それは、私だってわかっているけど」
「親としては、元気になってくれたのならそれでいいのよ」
「……お母さん」
母の想いはわかる。
ひなたも兄が元気でいてくれればそれでいいのだ。
それでも面白くないと思ってしまう気持ちがある。
「でも、お母さん、お兄ちゃんのこと心配じゃないの? 最近、全然知らない人と付き合いがあるみたいだし。しかも年上の人たちじゃない! 変なサングラスとか、子連れのおじさんと、商店街で人気者の外国のお兄さん!」
「ひなたちゃんったら、そんなこと言わないの。七森さんも、神奈さんも、ミカエルさんもとてもいい人たちじゃない」
「ミカエル!? 最後、ミカエルって本当!? 天使じゃん!」
「やあねえ、海外だと天使の名前って普通にあるのよ」
「そ、そうかもしれないけど。ていうか、なんで知ってるの?」
「ちゃんとご挨拶いただいたもの。お父さんだって知っているわよ」
「知らないの私だけだった!」
父は病院と家を行ったり来たりと忙しいので、なかなか顔を合わすことはない。
兄が引きこもったときに久しぶりに会話をしたが、その後、会っても「いってらっしゃい」「身体にきをつけてね」くらいしか会話をした記憶がなかった。
「それに、由良くんだっていい子じゃない。きっと祐介に弟がいたら、あんな子が理想なのかもしれないわね」
「……由良?」
「ええ、由良夏樹君って可愛い子よ」
「待って、待って、お母さん。その名前って本当?」
「嘘なんてつかないわよ。変な子ね」
母は苦笑すると、洗い流しをするため食卓を立つ。
しかし、ひなたはそれどころではなかった。
「馬鹿兄貴ぃいいいいいいいいいいい! なんで由良夏樹と友達になってるのよぉおおおおおおお! この街で由良夏樹っていったら、向島のなまはげしかいないじゃないぃいいいいいいいいいいい! 向島の三大悪夢の一人どうやったら仲良くなれるのよぉおおおおおおおお!」
ひなたの絶叫が佐渡家のリビングに響いた。
――佐渡ひなたが魔法少女になるまでもう少し。