作品タイトル不明
63「はっきり言うことは大事じゃね?」
翌朝。
夏樹は早々に連絡先を交換していた水無月茅と八咫柊に「突然ですが、今日、神殺しをします」と早々にメッセージを送った。
非常識であるのは承知しているが、今日、土地神を殺すと決めたので早々に動きたかった。
ジャックと小梅が夏樹の力を外部に漏れないように結界を張ってくれると言うのなら、もう心配はない。
全力でやらせてもらう。
幸いなことに、茅からは「お待ちしています」とだけ返事があった。柊からは「お迎えが必要ですか?」とあったがいらないと返事をしておいた。
神殺しをする以上、力を隠しても仕方がないので、飛んでいくつもりだった。
ただし、ジャックと小梅の存在は隠しておきたい。そこで、土地神と対峙したら合図をして、結界を張ってもらうことにした。ふたりには、水無月家の近くで待機してもらう手筈になっている。
銀子はナンシーを連れて、青山署長のもとを訪れている。
彼が土地神みずちの存在を知っているかどうかは不明だが、これから夏樹が土地神を殺すことを伝えに行ってもらったのだ。
「さて行くか……と思ったんだけど」
制服を着た夏樹は、小梅とジャックと一緒に家から出て、ため息をついた。
それもそのはず、まるで待ち伏せするように――綾川杏がいたのだ。
「一登ぉ……どうして一緒にいるのかなぁ? というか、なんで連れてきたのかなぁ?」
「ごめんね、夏樹くん。でも、杏が謝罪したいって言うから」
「謝罪ぃ?」
制服姿の杏に付き添っていたのは、一登だった。
杏が謝罪したいと一登は言うも、とてもじゃないがそんな雰囲気じゃない。
現に、杏は夏樹と一緒にいる小梅を、親の仇のように睨みつけている。対して、小梅は杏など眼中にないようで欠伸していた。
「……誰、この人?」
杏の口から出てきたのは、謝罪ではなく小梅が誰かというものだった。
どうやらジャックのことは視界に入っていないようだ。
一登も小梅とジャックを見て、口をあんぐり開けている。
無理もない。
小梅はモデルのように美人でスタイルがいい。しかもブロンド美人だ。そんな彼女は、出会った時のくたびれた格好から、昨日母春子と一緒に買い物したときに買ったスキニージーンズに、ヒールを履き、白いTシャツの上にベージュのブラウスを羽織っている。シンプルだが、美人ゆえによく似合う。
ジャックも、スラックスとジャケットという簡単な出立ちだが、足の長いイケメン外国人となっているので、もう存在がかっこよかった。
「……いきなり誰とはないでしょうに」
夏樹が呆れた声を出すと、一登がハっと正気に戻って杏に声をかける。
「杏……お前がちゃんと謝りたいから着いてきてっていうから。ごめんね、夏樹くん。俺がついてこなくてもひとりで来るっていうから、せめて俺がいたほうがいいかと思ったんだ」
「なんかごめんね」
「……別に夏樹くんが謝ることじゃないんだけど」
正直、杏の相手をしているほど暇があるわけではないが、ここで決着がつくのなら一登の顔を立てて付き合ってもいいと思った。
「それで?」
「お、お兄ちゃん、杏ね、優斗に騙されていたの! 杏、悪くないの。だから、やり直したいの」
「……無理っしょ」
「なんで?」
はぁ、と夏樹は嘆息する。
結局、謝罪はなく、自分が悪くないと言う杏にもう呆れるしかない。
「あのね、この際だからちゃんと言っておくけど。俺は、家族を壊したお前を許さない。幼い頃、優斗となにがあったのかしらないけど、お前の言動のせいで悲しんだ人がいる。だから、二度と、俺に、お母さんに関わるな。顔を見せるな。俺がお前を許すことだけは絶対にない。憎まれないだけ、マシだと思ってほしい」
「――そんな。え、でも、だって」
夏樹のはっきりとした言葉に、杏は信じられないとばかりに目を見開く。
まさかとは思うが、優しい言葉をかけられるとでも思っていたのだろうか。
「……っ」
杏は、なにか言おうとして、なにも言わず、踵を返して駆けていく。
結局謝罪はなかった。
一登も呆れてしまったようで、追いかけようとはしなかった。
「ごめんね、夏樹くん。朝からこんなことに巻き込んで。でも、ちゃんと相手をしてくれて、ちゃんと気持ちを言ってくれてよかったと思う。杏も、あれだけ言われたら、なにか思うことだってあるはずだ。だから……ありがと」
「なんで一登が礼を言うんだよ……つーか、泣くなよ」
気づけば、一登はボロボロと涙を流していた。
慌てて袖で拭っても、涙は絶えず流れてくる。
「なんていうか、謝るって言っていたのに、夏樹くんがあそこまでちゃんと言ってくれたのに、俺だって謝れって言ったのに、結局謝るどころか、自分は悪くないって……なんか馬鹿らしくなっちゃって」
「……もう忘れろって。新しい恋を探そうぜ、な?」
ハンカチを渡すと、鼻を啜りながら一登が受け取る。
「別に今は好きでもなんでもないから。初恋だったから、ちょっと引きずっちゃっていただけっす」
涙を拭う、一登。
今まで関わらないようにしていた小梅が、急に彼に近づくと、思いっきり尻を平手打ちした。
「痛いっ、な、なんで?」
「よくわからんが、お前はいいやつじゃ! 新しい恋が始まらんかったら、俺に言うといい! 可愛い女の子を数人紹介してやる!」
「え? あ、ども」
「少年。私はジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻。夏樹の親友だ。君にその気があれば、良き出会いがあるよう知人を紹介しよう」
「名前ながっ!? というか、夏樹くんにこんな美女とイケメンの友達がいるなんて知らなかったんだけど! あ、どうも、俺は三原一登っす。夏樹くんの弟分です!」
夏樹の弟分。その言葉と、今までの言動を見られていた一登は、小梅とジャックから気に入られたようだ。
(さて、面倒ごとをひとつ片付けたことですし、もうひとつもさくっと片付けちゃいますか!)
出鼻をくじかれた形になったが、いい意味でも悪い意味でも少し気持ちの変化ができた。
「あ、そうだ夏樹くん」
「うん?」
「ついでに伝えようと思ったんだけど……兄貴の奴――」