作品タイトル不明
53「予想外の展開じゃね?」①
「本日は大変申し訳ございませんでした。謝罪し、今後の友好関係を築こうとしたはずが、一族のごたごたに巻き込んでしまいました」
「あー、いえ、こちらこそ余計なことを言ってしまったようで、ごめんなさい」
揉めてしまった水無月家でこれ以上の話はできないと判断した水無月茅によって、柊の運転する外車で夏樹は送られていた。
当主自ら送ってくれるのは、なにか意味があるのかと不思議に思う。が、いい機会なのでいろいろ話をしてみることにした。
「お気になさらないでください。こちらとしては今回の一件のおかげで澪を犠牲にする時間を引き伸ばせそうですので」
「引き伸ばしたからっていいもんだとは思わないんですけどね」
「おっしゃる通りです。娘が感じている恐怖を引き伸ばして何の意味があるのか……しかし、それでも一日でも長く生きていてほしい。我儘ですよね」
「多分、そうでしょうね」
夏樹は親になったことはないが、きっと茅の立場なら同じようなことを思うかもしれない。澪がどう思うかはさておき。
「澪さんもきっと怒っているでしょう」
「ええ、あの子は都のために必死に力をひた隠しにしていましたから」
「……ご存じで?」
「はい。一応、母親ですから、あの子の考えることはわかります」
「それで放っておいたのですか?」
「酷い母親でしょう。娘たちのどちらかが生贄になるのであるのなら、澪のしたことを無駄にしたくないと思ったのです」
「面倒臭いですねぇ」
「ええ、本当に」
夏樹の本音に茅は嫌な顔をするのではなく、むしろ同感だと言わんばかりに微笑んだ。
「実を言うと、わたくしは……由良様にお願いがあったのです」
「お願いですか?」
「はい。都が失礼なことをしておいて、お願いなど厚かましいと思われるでしょう。しかし、由良様にしか縋る相手はいないのです」
「はぁ? 俺でなにかできることがあるのなら、どうぞ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてお願い致します」
茅は車内で夏樹に向い頭を下げた。
「――水無月家が祀る土地神を殺していただけないでしょうか」
「ほえ?」
夏樹は耳を疑った。いや、違う。茅の正気を疑った。
仮にも、生贄を出そうとさえしている一族の長が、祀る土地神を殺してくれなどと言うだろうか。
(……あれ? これ、試されているとか? はい、喜んでー、って言ったら負けのやつ? 水無月家は都さん以外みんな予想外なことするなぁ)
動揺を隠せずにいる夏樹に、顔をあげた茅は真っ直ぐ見つめてきた。
冗談でも試そうとしているのではない。本当に夏樹に神殺しをしてほしいと願っていることが見てとれた。
「お隠しになっているのでしょうが、由良様からは魔力だけではなく神気を感じ取ることができます。おそらく、高位の神族と接触しているのでしょう。だが、それよりもあなたにまとわる神気の質です。いつどこでなのか不明ですが、あなたは神を殺している。違いますか?」
「ご想像にお任せします」
「……ご安心ください。人ではわたくしくらいにしかわからないでしょう」
「逆になぜわかるのか教えてほしいんですけど」
「神と交わったからです」
「んんん?」
「神と愛し、交わり、子を産みました。だからこそ、神気や神力には敏感なのです」
(神と交わり、子を産んだって、つまりー?)
「参考までに聞きたいんですが、まさか澪さんって」
「……わたくしと土地神の子供です」
「ほぇえええええええええええええええええええええええええええええ!?」
異世界の勇者でも驚く事実を語った茅に、夏樹は叫んだ。
いくらなんでも想定外だった。
確かに澪の潜在能力はなかなかのものだったが、まさか土地神と人の間に生まれた子だったとは思わなかった。自分の感知能力もまだまだだなと思い知る。
個人的には、人様の愛に口を挟むつもりはない。
ただひとつだけ、疑問なことがある。
「えっと当主さんの旦那さんで、澪さんのお父さんの土地神を殺してもいいんですか?」
恐る恐る訪ねた夏樹に、茅ははっきりと頷いたのだった。