作品タイトル不明
エピローグ「魔王って響きがかっこいいんじゃね?」
魔王ギーゼラ・シラーは、勇者由良夏樹との戦いで負った怪我によりしばらく動けずにいたが、一週間かけて残っていた魔力を回復に回し、回復魔法を使える者から毎日処置を受けていたおかげで、ようやくまともに動けるようになった。
「……ママ、もうお加減はいいの?」
「ああ。心配をかけたな」
寝室のベッドの上に座るギーゼラは、娘であるラーラ・シラーの頭を撫でる。
まだ幼い娘だが、生き残った四天王と、魔王軍幹部と共にブレイバーズ王国の侵攻対策をするなど、頼りになる一面を見せてくれたことを嬉しく思った。
「深い手傷を負ったが、おかげで正気を取り戻した。死んだ部下たちの手前、言えぬが……感謝している」
「あの勇者は……悪い人間じゃなかったと思うよ。私がいることを知って、ママを殺さないって約束してくれたし、ペガサスのペガちゃんを譲ってくれたし」
「……あの男と会っていたのか?」
「うん。人間って感じはしなかったかな。どちらかというと、私たちに近いって思った。でも、悲しい目をしていたよ」
「……そうか」
ギーゼラは勇者の目を直視したことはない。
彼女が魔神の支配にあり、正気を失っていたことも理由のひとつだ。
だが、それ以上に、機械的に魔族を殺す勇者を、洗脳下にありながら恐怖を覚えていたせいもある。
勇者由良夏樹のおかげで魔王として母として正気を取り戻せたことには感謝しているが、魔王軍が半壊しているのは別問題だ。
魔王軍対勇者ひとりで半壊させられたことを考えると、恨むことなどできない。
魔王軍が不甲斐ないのか、勇者が異常だったのか。おそらく後者だろう。
「さて、いつまでもラーラたちに任せてばかりではいられない。私も動くとしよう」
「うん!」
「ブレイバーズ王国の動きは?」
「……そのことなんだけど」
娘の顔色が悪くなったことに、ギーゼラは気づく。
悪いことが起きているのだと察した。
「何があった?」
「ブレイバーズ王国に勇者が召喚されたんだって。密偵の話が本当なら、別世界の神様も」
「――馬鹿な」
ギーゼラは立ちあがろうとしていたのに、再びベッドに腰を下ろしてしまう。
「……世界はよほど魔族が憎いらしい。我らに滅びろとおっしゃるのか」
魔王の力無い声が虚しく響く。
ラーラは母にどう声をかけようか悩んでいた。
その時だった。
――轟音を立てて、魔王の寝所の壁が破壊され何かが飛び込んできた。
「――襲撃だと!?」
落ち込んでいようと魔王だ。
虚空から愛剣を抜こうとしたが、勇者に奪われたことを思い出し、別の魔剣を取り出した。
「ラーラ、後ろに下がれ」
「でも、ママ!」
「下がっているんだ!」
娘を背に庇い、剣を構えた魔王ギーゼラは警戒をする。
そして、死を覚悟した。
(この魔力、忘れられるはずがない。この海のような圧倒的な力は……勇者! なぜ今になって、元の世界に帰ったはずでは、いや、考えるのはそこではない。せめて、ラーラだけでも)
ギーゼラが命を賭してでも娘だけは守ろうと決意を決めた、その時、
「あ、魔王さんじゃん! こーんにーちはー! 異世界からギャラクシー河童勇者ツヴァイさんです! ふぅうううううううううううううう!」
「――は?」
「――え?」
黒い詰襟を身につけた少年が、「やあ!」と親しげに手を上げてきた。
――魔王ギーゼラの記憶にある勇者となんか違った。